digitalへの招待状

「ただいま! ねえ獠、ちょっと聞きたいんだけど」
「待て。今は手が放せん。今日こそ新記録……!」
「まったくあんたも好きよね。そんなピコピコを一日中」
「ピコピコってお前それ何時代の人間だよ……って、ああもう集中切れた、やめやめ。
それで何だって?」


「それがね。今日依頼人に会ってきたんだけど。話が分からなくて」
「隠し事する奴には関わるなよ?」
「っていうより意味不明かも。その人、ゲームの中にいる人を捕まえてくれっていうのよ。
そんなSFみたいな事できるわけないでしょ?」
「は……」


「何よ、そのあきれた顔」
「香ちゃん。君は本当に現代人か? ここが文章じゃなかったら、
大量のカラスとトンボが飛んでるぞ。今時のゲーセンとか知ってる?」
「失礼ね。あたしだってゲームセンターくらい分かるわよ。あの時だって獠が銃でバンバン」


「俺、お前とゲーセン行った覚えないけど」
「あ! あー、そうだっけ? え、絵梨子と行ったのよ。絵梨子が銃でバンバン全滅」
「勇ましい子だなー。それはともかく。ゲームで知り合い作るなんて
常識だろ。例えば……実物で説明するか。スイッチオンと」


「って言ったわりに動かないわね。ゲーム」
「ロードってのがあんだよ。……と出た出た。コレが俺が今やってるFPSの」
「えふぴーえす?」
「もとい、射撃のゲームな。で、コレが俺のプロフィール。
こうやってゲーム内に名前出してやりとりするんだ」


「名前って、この『Saber_Ryan』ってやつ? 冴羽獠じゃないの?」
「誰が本名使うかよ。大抵は好きな言葉で名乗る。俺はイニシャルだけ残したけどな」
「へぇ、今は随分進んでるのね。雑誌の文通コーナーみたいなものかしら」
「だからお前、年齢設定無視した発言やめろって」


「画面のコレが題名なのね。じゃあ獠ならこの依頼、楽勝だわ!
 このゲームの中の人を探してほしいのよ」
「それは難しいな。俺の主義に反する」
「え?」
「この世界の人達は皆、仮面をかぶってるんだ。その上での出会いを楽しんでる。
俺は相手を詮索するのは趣味じゃない」


「獠……」
「大体な、もっこりちゃんを助けたつもりが、男だった事が何度あったか!
 忘れねえぞあの野郎……って、うあ!?」
「あのね獠、あたし真面目な話してるの。この新作ハンマー試してもいい?」
「ごめんなさい真面目にやります漫画じゃないと死ぬ形状ですそれは」


「よろしい。……けどそうね。あたしも根ほり葉ほりはどうかと思うわ。
ただ今回の依頼人て、ゲームを作った人なのよ」
「運営側か」
「ええ。探してるその人ってゲームが上手すぎて、参加者達から尊敬されてるんだって」
「ああ、いるなそういう奴。運営を出し抜いて活躍しちまうんだ」


「手帳読むわ。『その人物は最高難度のミッションを単独、初期装備、
無課金で発表当日クリア、Sリザルト取得。最終暗号も即時解読』」
「まさか。その答えって『セリカ』じゃないか?」
「うん、正解。で、問題の人は『Mik_Rook』って言って」
「悪い。俺は、そいつには会えない」


「何で?」
「だって。俺だもん。それ」
「へっ? ど、どうして? どうして獠なの、獠は何とかライアンなんでしょ?」
「やろうと思えば、別の名前を持つ事も出来るんだよ。
複数アカウントは本来ルール違反だが。あれはつい出来心で」


「出来心?」
「一度だけ本気出してみたかったんだよね。したら丁度ミッションが落ちてて。
せっかくだから最後までイッちまうかーと。あはは」
「そ、そんなぁ……」
「だけどこの会社、密かにヤバイ事もしてるんだぜ。
この前もバグを誤魔化そうとしたから暴いたら祭りになってさ」


「………………」
「ん? どうした香。急に黙って」
「この手帳ね、続きがあるの。
『その後、問題の人物は、運営の不備を複数回にわたり暴露。
この件に関しては特に、損害賠償請求を避けられない旨を通告したく存じます』」って」
「………………………………」


「あのスタッフさん、お金はともかく絶対に頭下げさせたいって言ってた。
さあ獠、覚悟しなさい。依頼人さん、犯人コイツでーす!」
「あああああ! おいこら、文字に出来ん攻撃はやめろ! ところで一つ質問だが」
「何よ?」
「そのスタッフって、美人?」




Next(本編開始)

Home


inserted by FC2 system