薔薇を一輪

「今年もけっこう咲いたな、ここの薔薇」
「そうね。あ、この一輪、すっごくキレイ」
「ああ。まるで、お前みたいだ」
「えっ」
「………………」
「リョウ、あんた自分が何言ってるか分かってる? あたしは人間よ?」
「は?」
「大変だわ! 風邪ひいた? どこか打った? それとも何か拾い食いでもした?」
「あの、もしもーし?」
「とにかくすぐに病院行きましょ。お金ならあたしが何とかするから」
「…………ははははははっ! 相変わらず単純だねぇ香ちゃんてば」
「へ? まさか、またいつもの冗談?」
「ピンポーン! まったく、毎度毎度どんだけ引っかかれば気が済むんだよ」
「だって、あんな真剣に言われたら……」
「俺なら真顔でボケるくらい楽勝だってーの」
「何それ、ヒドい。ひとが心配してあげたのに」
「そんな心配いらねーよ。お前こそ、これからの人生大丈夫? 今時のサギは怖いぞ?」
「何だと、この!」
「おおこわいこわい、ここまでおいでー」
「逃げるなー!」



 その夜。サエバアパートにて。悩める家主が枕を殴り続ける事案発生。
「俺は! 俺は! 俺は!」
 ずっと芝居で生きてきた、そのツケを完済しない限り、彼の受難は終わらない。





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