魔法使いと少女 (stanza)

変幻自在のカメレオン。
魔法使いのカメレオン。
何色にも変わりすぎたカメレオン。
元の姿を忘れてしまったカメレオン。


カメレオンは人気者。
どんな色にもなれるから。
どんな姿にもなれるから。
人々は彼に驚いて、そして誰もが好きになった。


ある日カメレオンは、少女と出会った。
カメレオンは、目まぐるしく色を変えて自慢した。
見た少女は正直に、カメレオンに気持ちを告げた。
「まあ、あなたって、何て変な色してるのかしら」


カメレオンは、少女に凄いと言わせたかった。
彼は躍起になって、あらゆる姿に変わってみせた。
だけど少女は変わらない。
やがて彼は疲れ果て、少女のそばで眠りについた。


カメレオンは、生まれて初めて夢を見た。
ずっと昔の夢を見た。
夢の中で彼は、少女と同じ年頃の少年だった。
魔法使いに憧れた、ごく普通の少年だった。


「やっと分かったわ。あなたってそんな色だったのね」
目を覚ました彼は驚いた。
本当の彼は、何ともちっぽけな羽虫だった。
彼女の小さな両掌に、彼は確かにすくわれていた。


「違う。俺は、本当は、君と」
同じになりたい。
願った彼は、自らに長くかけていた呪いを解いた。
現れたのは、ただの人間、ただ一人の男だった。







それから二人は、いつまでも幸せに暮らしました。



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