≪SCENE 1≫
オレ達は、暫し呆然と固まっていた。再び口を開いてみたのは、オレの方だった。
「……あのさ、服部。実はオレ、物凄い幻覚が目の前に見えてんだけど」
「……そら奇遇やな。オレもや」
と、オレと同じようにへたり込んでいる「オレ」が答えた。──関西弁で。
「ちょっとコナンくん、服部くん! どうしたの、凄い音がしたけど」
「!」
上から聞こえてくる声のおかげで、オレは我に返った。
オレは「オレ」の襟元から蝶ネクタイを引ったくった。
変声機のダイヤルを回し、大声で階段の上の方に、
『あ、平気だよ、蘭ねえちゃん。転んだだけだから。──ね?』
改めてダイヤルを合わせ、相手に突きつける。
「オレ」もハッと顔色を変えて、
『あ、ああ。ホンマ大丈夫やから、気にせんといて』
「そう?」
『それじゃボク達、ちょっと出掛けて来る。すぐ戻るから!』
蘭の返事は聞かず、オレは「オレ」を抱えて飛び出した。
「オイ工藤、出掛けるってドコヘ」
「知らねーよ」
半ば怒鳴るように応じながら、しかしオレはこの異常すぎる事態を認めつつあった。
──オレ達が、入れ替わっちまったという事を。
何だかだ言って、困った時にオレが頼る場所は一つしかない。
「博士!」
「ん? 何だね、君は? ノックもせんで」
「あ……」
家の中に飛びこんだオレは、いざ阿笠博士を前にしてから言葉に詰まった。
「もしかして隣の家に用があるのかね? すまんが、あいにくあそこは留守でな」
「イヤ、そういうわけじゃなくて」
「オイ工藤、お前いつまでひとの事持っとる気や。さっさと下ろさんかい」
「え? あ、悪いな服部。忘れてた」
文句を言われたオレは、慌てて服部から手を離した。
そんなオレ達の会話を聞いた博士は案の定、目を自黒させ、
「何、くど……? な……何!?」
「あ、ときに工藤、このジッチャン誰や? 信用でけるんか?」
などと服部は、博士のパニックに更に追い打ちをかけてくれる。そんな時。
「どうしたの、何の騒ぎ?」
「おお哀くん、いい所に釆てくれたな。ワシには何が何だか」
灰原は一直線に「オレ」の前までやって来た。怪訝な顔を「オレ」に近づけて、
「あなた、誰?」
「!」
「哀くん!?」
「博士。コレ、江戸川くんじゃないわよ」
今度はオレを見上げて、
「いったい何があったのかしら。話してくれない、江戸川くん?」
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