≪SCENE 3≫
「もう! 今までドコ行ってたの、二人とも?」
家に戻ると予想通り、オレ達は蘭の小言を聞かされる羽目になった。
隣を見ると、蘭の気迫に圧倒されている「オレ」の姿が目に入った。
一方オレはと言えば、何とも言えない感慨に捕らわれていた。
だって、オレはずっと蘭を“見上げて”いたんだ。それが、今は同じ高さにある。
……これで服部の体じゃなかったら、完璧だったんだけどな……。
「服部くん、服部くんてば! 聞いてる?」
「へ? あ……」
「あのね、コナンくんの面倒見てくれるのは嬉しいけど。時間だけは守らせてね」
「は、ハイ」
「コナンくんも分かった? これからは気をつけてよ。夜は危ないんだから」
「はぁ、せやけどねーちゃん──」
ギョッとしたオレは、すぐさま服部の口を手で塞いで、
「まぁいいやないか、もう。コイツやって反省してるんやし」
服部のオレヘの視線が痛いが、敢えて無視する。そこに別の声。
「何だ、お前また来てたのか」
「あ。お帰りなさい、お父さん」
と、蘭は、帰って来た小五郎のおっちゃんを迎えた。
おっちゃんはオレに向かって、
「お前、今度は何の用だ? 第一、学校はどうした」
「今日は土曜日」
と、服部が今度は、比較的平板なアクセントで言い返した。
「あ、そうだな。でもどっちにしろ、もう帰るんだろ?」
「え? イヤ、今日はそのつもりはないですけど……」
大体、帰るってドコに帰りゃいいんだか。しかし蘭は小首を傾げて、
「アレ? でも服部くん、すぐ帰るって言ってなかった?」
「!?」
ったく、余計な時に鋭い奴め。でも今更、取り消せない。
「何やよ。一人一晩くらい泊めてくれたっていいやろ? 何とか頼むわ。
絶対迷惑かけんから。余計な心配は要らんよ。泊まる荷物もちゃんと持って来てるし。
それに運が良ければひょっとして、工藤の奴に会えるかもしれんしな。
それとも何か? こんな夜遅くに外に居ろって言う気か?
いくら何でもねえちゃん、そんな冷たい人間やないやろ。な?」
そこまで一気に喋ると、さすがに息が切れた。
蘭は完全に勢いに呑まれた様子で、
「あ、うん。そうね……」
もう一息だ。オレは服部をそばに引き寄せた。耳に口を近づけて、
「ホラ、お前も何とか言えよ」
「言えって何を?」
「普段オレがやってるみたいにだよ。決まってんだろ」
服部は一瞬迷っていたが、それでもオレの足にしがみつき、
「お、イヤ、ポク、平次……にーちゃんと一緒にいたい」
「そっか。ねぇお父さん、どうする?」
「ポウズの部屋にでも泊まらせれば、別にいいんじゃねーか?」
と、おっちゃんは興味がなさそうに答えてから、「オレ」に顔を近づけて、
「ん? ちょっと待て。お前」
な──!? まさか、気づかれた?
「眼鏡ズリ落ちてるぞ」
オレ達は揃って引っくり返った。オレはたまらず叫んだ。
「ベ、別にどうでもいいじゃねーかよ、そんな事! ああビックリした」
「はあ!?」
と、蘭とおっちゃんはオレより驚いた顔で、オレを見たのだった。
「まぁったく、何考えとんのや、お前。何で、あそこでヘタ打つんや」
「悪かったよ。けど、ゴマカせたんだからいいじゃねーか」
夕食も平和に終わり(とも言い難いが)、オレ達はそそくさと寝室に引っこんでいた。
「それから」
と、服部は──オレのパジャマを着こんでいる──上目遣いにオレを睨んで、
「お前、オレを荷物扱いするんはやめい。オレかて足があるんやから」
「お前にそう言われるとは思わなかったな」
何かと言っちゃ、ひとを小脇に抱えて移動してたのはドコの誰だよ。ったく……。
……?
「どないした、工藤? 変な顔して」
「イヤ、今言いたい事があったと思うんだけど。度忘れしちまって」
「何やそれ」
「でも言わせてもらうけど、お前だって似たような物だぜ? イヤ、オレよりヒドいな。
とにかく目が放せねーよ。危なっかしく見えて仕方ない」
「ほぉ、お前の口からそんな台詞が出るとはな。ったく、これで……。ん?」
「どうした?」
「イヤ、アカンな。オレも度忘れや」
「何だよ。てめーもひとの事言えねーじゃねーか」
──オレ達は、どちらからともなく横になった。暫くして、服部がポツリと言った。
「なぁ工藤、オレら、これからどないなるんやろな」
「うん……」
今日は無事に済んだけど、明日の保証は全くない。
そして、明日が──週末が終わったら、「服部」は大阪に帰らなきゃならない。
その時は、一体どうすりゃいいんだ?
オレは起き上がって服部を見て、しかしその場に突っ伏した。
服部は実に子供らしく、とっとと先に眠っていた。
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