≪SCENE 5≫
入場券を買って改札に入り、コンコースを少々歩く。
「こっちや、こっち。早よ来てぇな」
階段に差しかかると、和葉さんがそう言いながら、上のホームから
手を振っているのが見えた。オレ達は階段をのぼってそちらへ向かった。
オレ達の姿を見た和葉さんは、表情を僅かに暗くした──ように、オレには思えた。
「さ、行こか」
と、和葉さんはオレの手を取って、スタスタと歩こうとする。
オレは焦って、
「ちょ、ちょっと何を」
「何て、せやから帰るに決まっとるやんか。東京駅行きの乗り場、向こうなんやろ」
「でも帰るって言っても」
「安心し。もうあんたの分の切符も全郎買うてあるから。
ほな蘭ちゃん、コナンくん、アタシら急ぎますよって。
ホンマ、ウチのアホが迷惑かけて、えろうスンマセンでした」
と、和葉さんは蘭と服部にペコリと頭を下げた。
蘭はニッコリと笑って、
「ううん、そんな事ないよ。よかったら、また暇な時に二人で遊びに来てね」
「……うん」
と、なぜか躊躇してから頷いた和葉さんは、オレを半ば強引に引いて歩きだした。
結局、和葉さんは反対のホームの端までオレを連れて行った。
環状線が来るまでには、まだ間があった。オレは思いきって口火を切った。
「あ、あの、和……葉」
「何や?」
「オレ、どうしても帰らないかんか?」
「今更なに言うてんの。当たり前やろ」
「イヤ、だから悪いと思うけど、ダメなんやよ。まだ用事があって、その」
上手い言い訳でも出ればいいんだろうが、こういう時に限って浮かんでこないものだ。
和葉さんは不信気にオレを見ていたが、ふと真顔で問うてきた。
「平次。あんたもしかして、アタシに何や隠しとるんとちゃう?」
「!?」
「やっぱり、そうなんやな?」
硬直しているオレに念を押してから、和葉さんは思いつめたような顔で言を継いだ。
「あんたやっぱり──東京来とるんは蘭ちゃん目当てなんやろ!?」
オレはその場に引っくり返った。
「あ、あ、あの……何?」
「ずっとおかしい思とった。何でそない東京ばっか行きたがるんかな、って。
しかも毎度毎度おんなじトコ居座っとるし……」
ちょ、ちょっと待て。もしかして君、とんでもない勘達いしてねーか?
「蘭ちゃんは『違う』言うとったけど、これでハッキリしたわ。
言葉まで無理にこっちに合わせようしとるくらいやもん」
と、和葉さんは下を向いて、
「けどな。言うとくけど、アタシはその事に怒っとんとちゃうで」
「えっ?」
「あんたがたとえ何しようと、そらあんたの自由や。せやけど、アタシら幼なじみやろ?
昔から何でも腹割って話してきたやんか。平次らしないよ、こない黙って
コソコソしよるなんて。お願いや、平次」
涙の交じった声を張り上げて、
「お願いやから、アタシにだけは嘘なんかつかんといて!」
「!」
その瞬間、和葉さんの泣き顔が──蘭のそれと重なった。
──今何してるのよ! ちゃんと説明してよ!
電話する度に、すれ違う度に、アイツも同じようにオレに語め寄ってくる。
そうだ。オレは只でさえ蘭を裏切ってるのに。このうえ和葉さんまで騙す気か?
「そう、だよな。これ以上嘘つくなんて、ダメだよな」
「え?」
と驚く和葉さんを置いて、オレは来た道をそのまま駆け戻った。
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