≪SCENE 2≫

「!?」
 哀は、チラリと相手の様子を窺った。
 首を戻した平次は、変わらぬ笑顔でこちらを見ていた。
 その眼差しに微かに、だが確かに読み取れた感情があった。

 言葉遊びを楽しもうよ。
 ほんの少しの間だけ。
 両肩の力を抜いて。

 哀は、クスリと微笑んだ。
「そうね。そういう可能性も、否定は出来ないわね」
「せやろ?」
 弾んだ声で応じる平次。
「でも、もしもあなたが組織の者だとしたら、私や彼は既に致命的なミスを犯してるという事になるわね。
私や彼――特に彼についての事は、あなたには筒抜けになってしまってるんですもの」
「そうなるな。あんたはともかく、アイツは自分からペラペラ喋ってくれるさかい」
 声に出して笑う平次に、哀は言葉を続けた。
「そもそも奴等が私たちを見つけられないはずないわ。私の研究結果は、全部向こうに残ってるんだし。
どんなに足掻いたところで、私たちは奴等の掌の上で踊らされてるってわけよ」
「けどそうやとしたら、その目的は何なんや? 関係者全員皆殺しゆうんが、奴等のやり口なんやろ?
 せやのに放ったらかしっちゅうんは、矛盾しとるんとちゃうか?」
「アラ、そうでもないわよ」
「と言うと?」
「分からない?」
 と、哀は噛んで含めるように、
「今の私たちは、組織にとって貴重な生体サンプルよ。幼児化した人間という物が、果たして実際の社会生活に
適応できるかどうか。解剖する前にそのデータを採取しようとするのは、寧ろ自然な判断よ」
「そら一理あるな」
 と、平次は納得したような面持ちになった。
「ほんで? 具体的にはどないすんねん」
「私ならサンプルには、最初のうちは単独の状態を保たせるわね」
 自分を知る者が誰もいない孤独に、どこまで耐えられるか。そして。
「そして頃合を見計らってサンプルに、心を許せる理解者を与えてやるの。ただし」
 茶を一口飲んでから、哀は告げた。
「『監視者』という名の理解者をね」
「つまり、ソレがオレの役目っちゅうわけか」
「悪くない説でしょ?」
「ああ、ホンマ上手いわ。辻褄合うとるよ」
 と、平次は身を乗り出して頷いた。
 話題こそ物騒極まりないものの、部屋には確実に和やかな空気が流れ始めていた。




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