≪SCENE 1≫
「やった、上がり!」
「また元太くんが最後ですか。コレで何度目です?」
「あーくそっ! 何でいつもオレなんだよ」
ジョーカーを手にして悔しがる小嶋元太に、他の子供たちは揃って笑った。
だが、声に出して普通に笑う吉田歩美と円谷光彦の二人に対し、
工藤新一こと江戸川コナンは弱々しい苦笑いを浮かべるだけだった。
何がきっかけだったか忘れたが、子供たちはこの1週間、
暇さえあればトランプに興じている。ただし、やるのはババ抜きばかり。
たまに七並べになったり神経衰弱になったりもするが、
それでもバリエーションは、せいぜいこの三つである。
……別にトランプが嫌だってわけじゃねーけど、コレはねーよな……。
こういう時、コナンは自分の立場を痛感する。見た目こそ彼らと同じ小学生でも、
中身はれっきとした高校生である以上、この状態は苦痛だった。
そんなコナンの真意など知る由もない歩美はカードを集めて、弾んだ声で、
「ねぇコナンくん、次は何やる?」
「う、うん。何でもいいよ。オレは」
……せめてコイツらがポーカーくらい出来るなら、まだマシなんだけど……。
もう一勝負しなきゃならんのかと沈むコナンを、隣室からの声が救った。
「どうだね皆、そろそろ休憩しては」
コナンら子供たちは顔を向けた。家主の阿笠博士が盆を手にして部屋に入って来た。
「おっ、ケーキだ!」
と、元太が真っ先に立ち上がった。歩美と光彦も声を上げる。
……助かった……。
コナンは胸を撫で下ろした。
「ねぇ博士」
と、歩美はフォークを口に運びながら阿笠に尋ねた。
「灰原さん、まだ帰って来ないの?」
「うむ」
と、阿笠は時計を見やって、
「そう言えば遅いな。すぐ帰って来ると言っとったんだが」
「確かボク達が遊びに来たのと、入れ違いに出て行ったんですよね」
「ホント付き合い悪いよなぁ、アイツ」
……付き合いが悪い、か。
確かに彼女――灰原哀は、もともと愛想に乏しい。口数の少ないクールな
性格は、とても子供とは思えない(そのじつ子供ではないのだが)。
しかしそれでも彼女は、この歩美たちには比較的、心を許している。
それが1週間くらい前から、極端に彼らを避けるようになった気がする。
学校でもあまり話そうとしない。
光彦は食べる手を止めて、
「もしかしたらですけど。灰原さん、何か後ろめたい事でもあるんでしょうか。
それでボク達を避けてるとか」
「!?」
コナンは紅茶にむせ返った。
哀が後ろめたいと言うなら、素性を隠しているという意味では自分も同じである。
「な、何言ってんだよ。そんな事……あるわけないだろ」
「そうだよ光彦くん、変なこと言わないでよ」
「あ、勿論コレは推測ですよ」
歩美にも反論されて、光彦は慌てて打ち消した。
「でもやっぱり、何か理由はあると思うんですけど。ねぇ元太くん」
「そうだな。何か、うしろめでたい事があるのかもな」
「へ?」
と、歩美が目を点にする。光彦は疲れた顔で、
「あの、元太くん。ソレ、一文字余分です」
「わ、ワザと言ったんだよ! それくらい分かれよな」
「ホントですかぁ?」
後はいつも通りの大騒ぎ。そんな彼らの様子を、コナンは黙って眺めていた。
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