≪SCENE 4≫


「ホラ、今度こそどうだ? 6と10のフルハウスだぞ。そっちは」

「……J(ジャック)のフォーカード」

「マジかよ!?」

思わず大声で叫んで、コナンはカードをテーブルに放った。
彼らを見ている阿笠も、目を丸くしている。

今頃になって、コナンは元太の気持ちが分かってきた。
連戦連敗という物がこんなにも辛いとは、夢にも思っていなかった。

哀の実力は、常人のレベルを遥かに超えていた。ついでに教えてみた
シャッフルもカットも、彼女は瞬く間に覚えてしまったようだった。
ババ抜きなどに至っては、言わずもがなである。

「なぁ灰原……お前、ホントのホントに初心者なのか?」

「さぁ、どうかしらね」

いくら尋ねても、哀はそれ以上答えない。何とも言えない笑みを湛えるのみである。
もしかしたら、自分は騙されているのかもしれない。生まれてから一度もゲームを
やった事のない人間など、よく考えたら現実味が感じられない。

「あのさ、灰原。お前ホントに――」

無駄とも思いつつ、コナンがもう一度尋ねようとした時、ドアチャイムの音がした。

「来たようだな」

と、阿笠がソファから立った。

予想通り、客は歩美と元太と光彦だった。部屋に入って哀を認めて、

「あーっ、灰原さん!」

「何か久しぶりだな」

「今日は出掛ける用事はないですよね?」

「ええ、大丈夫よ。問題無いわ」

と、哀は頷いた。ソレを聞いたコナンは、やや皮肉気に、

「無さすぎるくらいだよな、今のお前は」

「アラ、ソレどういう意味かしら」

「別に」

と、コナンは惚けてみせる。立ち上がり、子供たちにカードを示して、

「で、今日は何やるんだ? カードならココにあるけど」

「いえいえ」

と、光彦は手を振って、

「トランプもそろそろ飽きましたからね。今日はもっと凄い物を持って来たんです」

「凄い物?」

「驚かないで下さいよ」

と勿体ぶってから、光彦は大仰にポケットの中からソレを出した。

「じゃーん!」

「わぁっ!」

「スゲー!」

「でしょ?」

感嘆の声を上げる元太と歩美に、光彦は胸を反らして、

「何たって今日から新発売の、仮面ヤイバーのカードゲームですからね。
コレを手に入れるのって、本当に大変だったんですよ。
今からお店に行っても、もう売り切れになってますし――って、
あの、聞いてますかコナンくん? 何座りこんでるんです?」

……座ってんじゃなくて腰が抜けてんだよ、バーロォ……。

そう言い返す気力さえ、今のコナンからは出なかった。
やっぱり子供は、楽じゃない。


〈了〉





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