Rainy Day

 下校時刻。
 昇降口から校門から、色とりどりの傘を差した生徒たちが流れ出て行く。
 そんな外の様子を、工藤新一は下駄箱のそばに佇んで、ボンヤリと眺めていた。
 鞄を開ける。手を突っこむ。ゴソゴソかき回す。ため息をつく。鞄を閉じる。
 全く同じ繰り返しの、4回目が始まろうとした時だった。
「あんた、また傘忘れたの?」
 新一は横を見た。見慣れた幼なじみが、そこにいた。
 毛利蘭は呆れ返った顔で立っていた。無論、彼女の手には大ぶりの真紅の傘がある。
「天気予報くらい見なさいよ。『午後から降る』って言ってたのに」
「いいよ、止むまで待つから」
「夜まで降るんだってば。ホラ」
「何だよ」
「入れてあげる、って言ってるの」

「どうしたの?」
 と、蘭は相手に尋ねた。
 今彼らは新一の家の前にいる。なのに新一は中に入ろうとしないのだ。
「今日は用事があるんだよ」
「用事?」
「今日出る新刊の予約、入れてあるんだ」
 と、新一は書店の名を上げた。蘭の近所の店である。
「分かったわ。じゃ、行きましょ」
「誰も頼んでねーぞ」
「どうせ通り道だもの」

 レジの店員から、新一は厚い本を受け取った。鞄を開け、そそくさと本を仕舞った。
 蘭が首を伸ばして見た限りでは、どうやら海外の翻訳本らしかった。
「さ、帰りましょうか」
「イヤ、もうココでいいよ」
「え?」
 と、蘭は聞き返そうとして言葉を失った。新一は鞄で頭を庇って駆け出していた。
「ちょ、ちょっと!?」
 止めるいとまもない。あっと言う間に、新一は蘭の視界から消えた。

 新一は無言で玄関を通った。
 気楽な一人暮らしである。うるさい親は、海を越えた向こうにいる。
 濡れた鞄から荷物を出し、机に放った。バインダー、ペンケース、雑誌、さきほど買った本……。
 そして最後に残った物を、新一は手に取った。
「……何やってんだろ、オレ」
 真新しい青の折り畳み傘は、再び鞄の底に戻された。

〈了〉




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