≪SCENE 3≫


「工藤くん。聞いとるかね、工藤くん?」

「!?」

新一は机から顔を上げた。どうやら眠ってしまっていたらしい。

「大丈夫かね? 居眠りなんて君らしくない」

と、目の前の相手――警視庁捜査1課刑事・目暮警部は心配そうな顔をしている。

「す、すみません! 平気です。ちょっとボーッとしてただけで」

「イヤイヤ、何もそんなに謝らんでも。無理を頼んでるのは我々の方なんだから」

「は、ハイ」

そうだった。「今」の自分は子供ではない。然るべき権限――依頼された探偵としての
権利を持って、ココにいるのだ。

「それじゃもう一度説明しておこう。まず事件前後の状況だが……」

目暮の話を聞き終えて、新一は席から立った。

「警部。現場の部屋に、関係者全員を集めて下さい」

「え? まさか、もう犯人が分かったのかね?」

「ええ。それから、もう一つ頼みがあるんですけど」

「何かね? 何でも言ってくれ」

新一は暫し瞑目してから、こう言った。

「部屋の入口にも、警官を二人ほど配置しておいてもらえますか?」





「さて皆さん」

大広間の中央。メイドや執事、そして年配の紳士淑女の前で、新一は口火を切った。
淡々と話を進めていく。トリックの綻びを指摘する。疑問が上がればソレに応じる。

「だから早く言いたまえ。いったい誰だね、私の家内を殺した犯人は」

と、車椅子に座る男が棘のある声で急かした。包帯の巻かれた右足が痛々しい。
新一はその車椅子の男に顔を向けた。ひたと見据えて、

「ソレは御主人――あなたです」

「じょ、冗談はよしたまえ。第一、ワシの足はまだ……」

とギプスの足を見せる男に、新一は抑揚なく言を継いだ。

「ダメなんですよ。あなたの足は3ヶ月前に、もう治ってるんですから。
――そうですよね、目暮警部?」

「観念しろ。お前の主治医が全て吐いたぞ」

目暮にとどめを差され、男は低く唸った。車椅子を捨て、戸口へ駆け出そうとする。

「!」

しかし男の抵抗はそこまでだった。潜んでいた刑事たちに、男はあっさり拘束された。

「おお、でかしたぞ高木くん、佐藤くん!」

と、目暮が快哉を上げた。嬉しそうに新一の背中を叩いて、

「イヤあ、また君の力を借りてしまったな。工藤くん」

「そんな……」

「いつもいつもスマンな」

「いいえ。ボクはただ、事件を解いてるだけですから」

と笑顔で答える新一に、なぜか目暮は驚いたような顔をした。

「どうかしましたか?」

「イヤ、久々に見たような気がしてな。君がそんな穏やかな顔をしているところは」

「はぁ」

「しかし流石だな、工藤くん。犯人が逃げる事まで計算に入れておくとは」

「そりゃ当然ですよ」

コナンとして、いつもしていた事だ。眠らせている探偵役に、
犯人を押さえてもらう事は出来ない。

パトカーに乗りこんだ。座席に着いた途端、大きな欠伸が一つ出た。

「やはり疲れとるようだな。気にせんで少し休みたまえ。着いたら起こすから」

「ハイ……」

目暮に返事する端から、新一は舟を漕ぎ始めていた。





――暗転――





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