≪SCENE 4≫
「お客さん、お客さん! お釣り」
「あ、どうも」
店員から小銭を受け取って、新一は歩きだした。
西日に目を細めつつ、今し方買った新聞を広げる。
記事の活字と、大写しにされている自分の顔写真とに、少し複雑な気持ちになる。
電気店で立ち止まる。ショーウィンドーの中のTVでは、
ワイドショーのキャスターが新一の活躍について盛んに叫んでいる。
「!?」
新一は目を瞬かせた。
そのTVを食い入るように見ている子供三人。男二人、女一人。
「何やってんだよ、お前ら……」
気がついたら声に出していた。子供たちは一斉に振り向いた。
カチューシャの似合う少女――吉田歩美が真っ先に顔色を変えた。新一を指差して、
「あーっ! 高校生探偵の工藤し――」
「わぁっ!」
新一は血相を変えて歩美の口を手で塞いだ。
「オイ、歩美に何すんだよ」
「あ、悪い」
ガキ大将にあたる少年――小嶋元太に言われて、新一は歩美から手を離した。
……それにしても。
「本当に小さいんだな、お前らって」
「余計なお世話ですよ」
と、もう一人の少年――円谷光彦が気色ばんだ顔をする。新一は焦って、
「あ、ゴメン! 深い意味はないから気にしないで」
「何やってるの新一、こんな所で?」
呼びかけられて、新一は振り向いた。愛すべき幼なじみが、後ろに立っていた。
毛利蘭は新一の持っている物に気づいて、
「へぇ、また載ったのね」
「ああ。今回は特に扱いが大きいよ。解説の文もついてる」
「あの、失礼ですけど。こちらの方は?」
と、光彦が丁寧な口調で問うてきた。
「え? あ、わたしはただの」
「オレの保護者」
「茶化さないでよ、新一」
元太はニヤニヤ笑って勘繰るように、
「もしかして付き合ってるとか?」
「違うって! そんなんじゃないよ」
寸分違わぬタイミングで、新一と蘭の声が重なった。歩みは手を打ち合わせて、
「わぁ、息ピッタリ」
「あのな……」
「もう……」
新一と蘭は、それぞれ困って目を逸らした。
「でも、知らなかったなぁ」
「何を?」
「新一って子供好きだったんだね。あんな優しい顔、久しぶりに見た」
「どういう意味だよ、ソレ」
「だって新一、クラスの友達にだってあんなに気さくには話してないよ?」
「そうか?」
「うん。何か自然に溶けこんでるって感じだった」
「かもしれないな」
「え、何か言った?」
「イヤ、別に」
「変なの」
と、蘭は首を傾げてから、
「そうそう。そういえば明日の約束、忘れてないでしょうね」
「約束?」
「言ったでしょ。新しいアトラクションが出来たから、一緒にあの遊園地行こうって」
「?」
違和感があった。あの時コイツが言った台詞、こんなのだったっけ?
疑問を抱えたまま、新一は蘭の手元を見て更に混乱した。
蘭が持っているのは鞄だけ。他にはない。
「オイ。お前、空手着はどうした? 今日も部活あったんだろ?」
「へ?」
と、蘭は目を丸くして、
「何ソレ。どういう意味? 何でわたしが空手なんかやらなきゃならないの?」
「は?」
今度は新一が呆気に取られる番だった。
「ど、どういう意味って、お前」
「そういう新一こそ、今日サッカーの部の練習サボったでしょ。先輩が捜してたよ」
「な――」
「それじゃ明日の10時、トロピカルランドで待ち合わせだから。忘れないでよ」
「ちょ、ちょっと待てよ。お前、一体なに言って」
自宅の方へ歩き始めている蘭を引き止めようと、新一は彼女にしがみ付いた。
「きゃ! 何よ、いきなり」
「あ」
新一は赤面した。小さくなっていた頃なら、せいぜい足の辺りをつかんでいただろう
新一の手は、今は蘭を抱きしめる形になっている。悲鳴を上げられて当然である。
「もう!」
と、蘭は新一を押しやった。急に押された新一はバランスを崩し――電柱に後頭部を
したたかぶつけた。目の前に星が飛んだ。
「ヤダ! ちょっとシッカリしてよ、新一! 新一ってば!」
――暗転――
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