≪SCENE 7≫
鈍い音がした。代わりにベルの音が鳴りやんだ。
「……?」
恐る恐る目を開いた。時計は床に落ち、粉々に砕けてしまっている。
「オヤオヤ、危ないな」
目線を上げると、店主がホウキとチリトリを持って来るのが見えた。
ハッとして自分の姿を確認した。小さな手。小さな体。顔には眼鏡。
……戻ってる……。
コナンはその場にへたり込んだ。一方、店主は実に呑気に、
「ん、どうしたねボウヤ? 怪我はないかね」
「はぁ」
返事する気力も残っていなかった。今は一刻も早くココから逃げたかった。
「あの、ボク帰ります。雨も上がったみたいだし」
「そうかい」
と、店主は部品を集めながら、
「そうだボウヤ、今度新しく商売を始めるとしたら何がいいかな」
「は?」
「実は店を変えようかとも思ってるんだ。どんな店だったら売れるかね」
「ソレは……」
コナンは戸口に置いてあったサッカーボールを持った。付いた土は既に乾いたようだ。
「スポーツ店なんてどう? この辺、そういうのないから」
「運動具店か。悪くないな」
と遠い目をする店主の元から、コナンは去った。外に出て、看板を見やった。
「名園時計店、か」
何とはなしに読み上げて、コナンは歩きだした。
雑居ビルに辿り着く。階段をのぼって玄関に入った。
「ただい――」
ま、は喉の奥に引っこんだ。今は保護者の蘭が、仁王立ちして待ち構えていだのだ。
「コ、ナ、ン、くん?」
声がいつもより一段低い。
「一体ドコ行ってたのよ! 遅くならないでって何回言えば覚えるの。
電話すれば歩美ちゃんも元太くんも光彦くんももう帰ってるって言うし。
お願いだから心配させないでよ」
「ご、ゴメンなさい」
コナンは首を竦めて謝った。だが今日に限って、蘭の説教は終わらず続いた。
……コイツについてだけは、夢での方が良かったかもしれねーな……。
上から降ってくる蘭の大声を聞きつつ、コナンは心で苦笑した。
〈了〉
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