≪SCENE 3≫


帰りの挨拶が済むや否や、クラスメイトたちを振りきって(歩美たちに
関係を問われないでよかった)、有希子と手近な喫茶店に飛びこんで、
やっとコナンは一息つけた。

「さぁ聞かせてもらおうか」

と、コナンは鬼の形相で有希子に詰め寄った。

「どうして素顔で来た? 『江戸川文代』として来るのがスジじゃねーのか?
普通は」

「や、ヤダ新ちゃん、今日は頑張ったんだから、そんな怖い顔しないで」

「ココでは『コナン』て呼べよ。ややこしいから」

ゲンナリした顔で、頼んだオレンジジュースを一口畷る。
だが有希子はキッパリと、

「いいえ。今日だけは『新ちゃん』で通させてもらうわ」

「オイ……」

「だって」

と、有希子は半眼を伏せて、

「今日が初めてだったんだもの。新ちゃんの学校生活を見たのって」

「!?」

「10年前っていったら、周りが一番うるさい時だったわ。
私の方のほとぼりも冷めてなくて、優作さんの名前の方も売れ始めた頃だった。
こんなこと言うと嫌かもしれないけど、あなたが小さくなった事、私はホントに嬉しいの。
まさか、こうしてもう一度あなたを見守れるなんて、思わなかった」

「母さん……」

思わず呟いていた。この人がこんな事を考えていたなんて、想像もしなかった。

「──次も来いよ」

「え?」

「遠足とか運動会とか、これからも色々あるから。今度は二人でさ」

「新ちゃん……」

顔を背けて素っ気なく言うコナンに、有希子は瞳を潤ませた。

「分かったわ」

力強く頷いて、

「卒業式まで見に来るから」

「ちょっと待てっ!!」

縁起でもないこと言うんじゃない!!





用事が控えていると断って、有希子はコナンと別れた。
小学校の駐車場まで戻り、車の助手席に乗って、横を見た。

「ホントによかったの、コレで?」

「ああ」

運転席に座る夫・工藤優作は、無表情に応じた。
有希子は上着を脱いで、

「もう、こんな物ひとに持たせて」

隠していた小型カメラを外した。スイッチを切ると同時に、
車内のモニターの画面が黒くなった。
優作は苦笑を浮かべて、

「お前がいただけであんなに狼狽してたんだ。
オレまで姿を見せたらアイツ、人事不省になってたかもしれないぞ」

「それもそうね」

納得する有希子。

「けど後で電話くらいしてあげたら? 『今日はどうだった』とかって」

「それもいいけど」

口許に手を当てて瞑黙した後、優作は有希子に顔を向けて、

「いっその事、毛利さんの所へ御挨拶にでも行かないか?
ちゃんと『江戸川家』の人間として」

「あ、それナイス!」

と、有希子はポンと手を打ち合わせて、

「しゃあ任せて、絶対バレないように化けさせたげるから」

「よし」
と、優作はハンドルとギアに手をかけて、

「そうと決まったら行動開始だ。行くぞ」

「OK!」

この後の夜に起こった出来事については、全て御想像にお任せする。


〈了〉





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