≪SCENE 3≫


激しくドアチャイムが鳴らされた。

「ああ、ハイハイ」

実験器具を片づけてから、阿笠博士は玄関へ向かった。

「焦らんでもすぐ開けるよ、新───」

言いかけた台詞は、喉で凍りついた。

「お久しぶりです、博士」

「こんちはー」

薄く開いた扉から、来客たちは巧みに中へ入りこみ、当たり前のように上がりこむ。

「イヤあ、柏変わらず手入れが行き届いてますねえ」

「ホーント、見習わなくちゃ」

「あ、あの、工藤くんに、有希子さん……あんた方、いつこっちに」

「ついさっきですよ。真っ直ぐ来たんです」

席に着き、出された茶を前にして、優作は陽気にうそぶいた。

「向こうにいると、どうしてもこちらの時事に疎くなりますから、
たまには直接取材に来たというわけでして」

「はあ」

「ところで一つお伺いしたいんですけど、ウチの子ドコヘ行ったか御存知ですか?」

「!?」

「チラッと見ただけですが、どうやら留守みたいなんですよね。
どこかへ出掛けてるらしくて」

「そ、そうかね? ワシは聞いとらんよ。
もっとも、そういう事をひとに断っていく歳でもないが」

「ソレは言えますね」

と、優作は深く頷いて、

「何を考えてるのか、我々でも分かりかねる時がありますから。
聞いた話じゃ探偵業を始めたとか何とかって……
まったく、今にトラブルに巻きこまれるんじゃないかって心配ですよ」

「……」

阿笠は壁の時計を見た。マズい。早く帰さねばならない。
今日はもともと客が来る予定なのだ。
このままでは最悪の場合、親子が鉢合わせする事になる。

「何ソワソワしてるんです?」

「へ?」

有希子が恐縮そうにこちらを見ていた。

「ひょっとして私たち御迷惑ですか? これからお客でも?」

「! い、イヤ、そんな事ないさ。どうぞごゆっくり」

自分で言ってしまって後悔する阿笠。しかし、こう言うしかないのだ。
下手に「大事な客」と告げようものなら、根掘り葉掘り尋ねられてしまう。
暫く、無意味な時間が流れた。
優作が口を開いた。

「博土。そろそろ本当の事を話して頂けませんか?」

「!?」

「分かってます。あの子に口止めされてるんでしょう? 
でも私たちは、あの子の親なんですよ?」

「そうですわ。私たちには息子の消息を知る権利があります。
たとえどのような事実でも受け止めますから」

「あ……」

と、阿笠は正直に言おうかと思いかけ、しかし口を噤んだ。
“息子”に言われた事を思い出したのだ。

『アイツらに騙されるなよ。作家と役者、どっちも演技の天才なんだ。
ホントの事は、いつかオレの口から話す。だから余計な事は言うんじゃねーぞ』

「実は……」
と、阿笠は話し始めた。





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