≪SCENE 4≫
「なるほど。内密な事件の捜査、ね」
「ああ。ワシも詳しい話は知らんのだよ。そういう、依頼の条件なんだとかで」
「ふむ」
と唸る優作。納得はしかねるが、これ以上の追及は無理か、というような様子である。
阿笠が安堵した時だった。ドアチャイムが鳴り響いた。
「ハーカーセ!」
「少し早いけど、来ちゃいました」
「コナンの奴、もう来てるかぁ?」
「アラお客さん?」
と、有希子が席から立った。
阿笠は声を引っくり返して、
「あ、いい、いい! ワシが出るから」
しかし抵抗は虚しく終わった。
「やあ、いらっしゃい」
優作が既に迎えていた。
客は三人。全員、幼かった。せいぜい小学1年というところか。
そのうちの一人の少女──吉田歩美は優作を見上げて、
「おじさん、誰?」
「あ、私は博士の友達さ。よろしく」
「へえ」
「あの、それでコナンくんはもう来てますか?」
と、ソバカスの目立つ少年──円谷光彦が問うてきた。
優作の隣に並んだ有布子は、小首を傾げて、
「こなん? クラスメイトの子?」
「ええ。江戸川コナンくんです」
「は……!? どーゆー字書くの、ソレ?」
「いえ、別に普通の字ですよ。名前はカタカナですけど」
「そうそう」
と、大柄な方の少年──小嶋元太が頷いて、
「なんか偉い人の名前だとかって言ってたぞ」
顔を見合わせる夫妻。ポソポソと言葉を交わす。
「ねぇ、『コナン』ってやっぱり」
「ドイルだろうな。それに『江戸川』っていうのは」
「乱歩よね。ムチャクチャ嘘くさくない? その名前」
「ああ。まるで推理小説マニアのペンネームだ」
「その子って、まさか」
と、有希子は真顔で子供たちに、
「頭よくて運動神経よくて結構可愛いんだけど、
やたら目つきと口が悪い自信の固まりみたいな子?」
三人は暫し考えて、
「頭は……いいよね」
「ああ。サッカーも上手いし」
「性格は彼、その場その揚で変えますから、一概には言えませんけど」
「……」
無言で聞く夫婦。
「でも、どうしてそんなに知ってるんですか?」
「え?」
「イヤ、ソレは」
「あーっ!」
と、歩美が急に叫んだ。満面に笑みを浮かべて、
「そっか、そうなんだ。ふぅん」
「何だよ、歩美? 独りで頷いて」
「だって分かったんだもん。この人たち」
と大人たちを指して、
「コナンくんのお父さんとお母さんなんだよ、きっと」
「あ……」
「言われてみれば似てますね。特に───そうだ、その眼鏡」
「へっ?」
と驚いて、優作は自分の黒縁眼鏡に触れる。
「まさか、その子もかけてるっていうのかい? コレ」
「同じですよ。──ねぇ?」
「うん。そうだ」
「でしょ?」
納得顔をしている三人へ、優作は穏やかに、
「なあ皆、悪いけれど今日は帰ってもらえるかな?
おじさん達、これから博士とコナンくん、と話をしなくちゃならないんだ」
「え?」
「そうなんですか?」
「そんなぁ」
「お願いだから、ね?」
と、有希子も説得に回る。
二人は子供らを外へ出し、戸を施錠した。チェーンロックもかけた。後ろを向いた。
忍び足で去ろうとしている阿笠の肩に、優作は手を置いた。
「ドコヘ行かれるんです?」
「……」
「世には似た人間が三人はいると言いますが、ずいぶん面白い状況ですよね、コレ」
「……」
「そう言えば、以前は頻りに話して下さったボイスチェンジャーの研究、
今どうなりました? 最近、教えてくれませんよね。ねえ?」
物腰は極めて優しい。その表情も恐らく、いつもの人懐こそうな笑顔であろう。
だがしかし、振り向かずとも阿笠は分かっていた。
これ以上隠したら──只では済まない。
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