≪SCENE 5≫


「───と、いうわけだ」

事の顛末を述べ終えた阿笠は、ふと気づいた。
相手二人、俯いている。その肩が震えている。
上げた顔は、笑いを噛み殺していた。

「博士。凄いですよ、ソレ」

「もう一回話してくれますか? メモしますから」

声を震わせている妻と、雑記帳を開こうとする夫。
阿笠はため息して、

「二人とも、認めたくないのは分かる。でも、コレが事実なんだ」

「ですよね」

「やっぱり」

平静に戻る二人。
優作は頭を下げて、

「すみません、笑ったりして」

「イヤ、構わんよ。ワシだって最初は信じられなかった」

「しかし参ったな」

と、優作は口許に手を当てて、

「組織……そんな物に狙われるなんて。こりゃ由々しき事態だぞ」

「どうする、あなた?」

「そうだな」

自分を見つめる有希子に頷いて、

「いい方法がある。アイツの目を醒まさせる、方法が」





「は……?」

「へえ、おもしろーい!」

優作の説明を聞いた者の反応。前者が阿笠、後者が有希子である。
有希子はニコニコして、

「一見すると良家の奥様、しかしてその実体は──なーんて最高じゃない」

「そう。因みに名前は「文代」。ソレ以外の設定は自由に決めてくれ」

「ハーイ」

「お、オイ待ちたまえ、工藤くん。ワシに芝居なんて」

「大丈夫ですよ。取り引き相手役に台詞はありませんから」

「い、イヤ、そういう問題じゃなくて」

「で? あなたはどんな役を演るの?」

「ソレは後のお楽しみ」

「あ、ズルーい」

と口を尖らせる有希子。
優作は意味あり気な顔をしてみせて、

「さあ、それじゃ準備を整えて、そして出撃だ。名付けて『工藤新一抹殺計画』開始!」

「オーツ!」

喜々として、拳を振り上げる二人。
目が燃えている。教育的指導などといった最初の目的は、完全に忘れられて
しまっている。

……覚悟しておきたまえよ、新一くん……。

阿笠は、心から同情した。


〈了〉





『名探偵コナン』作品群へ戻る


inserted by FC2 system