第二の幽霊屋敷

≪SCENE 1≫


重々しいノック音がした。阿笠博士は不審な顔で、部屋から玄関へ向かった。

「オヤ、君か」

黒縁眼鏡をかけた小学生――ただし中身は高校生――の工藤新一こと江戸川コナンが、
仏頂面で戸口に立っていた。
阿笠は訝し気に、

「何でチャイムを使わないんだ?」

「そういう文句は故障を直してから言えよ」

「え? あ、確かに鳴らんな。すまん」

「ったく、悪い時には悪い事が重なるんだから」

「ん?」

ソファに座ったコナンが言った台詞に、阿笠は首を傾げた。
コナンはテープルに頬杖を突いて、

「学校でさ、友人は出来たんだよ」

「ほう、そりゃめでたいな。一体どんな」

「男二人、女一人。秀才とガキ大将と、それから蘭に似てる子」

「可愛い子か?」

「イヤ、向こう見ずでお節介なトコが似てる」

「はあ」

「それで、そいつらと洋館探検に行ったわけだ」

と、コナンは阿笠に顔を向けて、

「博士。咋日、迷宮入りだった殺人事件の犯人が自首したって知ってるか?」

「ああ、ニュースで見たよ。大学受験ノイローゼで、息子が父親を殺したというやつだろう?
母親がその息子を長年、家に匿ってたとか」

「その家に入ったんだよ、オレ達は」

「何!?」

「報道はされてないけどね。オレが説得してやったんだぜ」

と肩を疎めて、

「それでさ、そいつらまた幽霊屋敷を見つけてきたんだよ。なんでも家の中は
怪しげな本で埋まってて、一人暮らしの少年は魔物に食われちまってて」

「む……?」

「住所は米花町2丁目21番地。名前は『えとう』」

「ちょっと待ちたまえ。まさか」

「そう、ココの隣。オレの家だよ」

深くうなだれるコナンの前で、阿笠は顔を強張らせていたが、やがて――吹きだした。
コナンは牙をむいて、

「笑うな!」

「い、イヤすまん。でも傑作じゃないか。
噂には尾ヒレが付き物だが、まさかそんな話になるとは」

「冗談じゃない。あそこは空き家じゃねーんだ。
父さんの蔵書もオレの私物も何もかも、全部そのままなんだぞ」

「それもそうだが、実際あの家に近づかれるのは危険だな」

「え?」

「考えてもみたまえ。わざわざ君が蘭くんの家に世話になってる理由は、
組織の情報収集と、それから何だ?」

「……オレの家を、避けるため……」

「そうだ。万が一にもその子たちが住み着いたりしたら一大事だ。
奴等は君の家に出入りする者を真っ先に疑うだろうからな」

「けど、どうすりゃいいって言うんだ? オレが『来週にしよう』って止めなかったら、
最悪アイツら、今日にでも押しかけるつもりだったんだ。時問がない」

「一番いいのは管理者が名乗り出る事だが」

「ムチャ言うなよ」

と、コナンは顔を渋くして、

「何せ魔物に食われてる身だぜ、オレは」

「拗ねるな。うまい手段もなくはないんだぞ」

「え? 一体どうやって」

「簡単さ。ただしそのためには、君に手伝ってもらう必要があるが」

「出来る範囲なら」

「君の高校生の時の全身像が欲しい。
写真でも映像でも構わんが、出来ればカラーのが欲しいな」

「そんなのなら幾らでもあるよ。でも、ソレが?」





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