nightmare Part 2

……オレ、死ぬのか……?
あおむけに倒れたまま、オレは心で呟いた。
銀色の刃に貫かれた胸は、焼けつくように熱かった。
長い刀身を伝わって、鮮血が一滴ずつ失われていくのが分かる。
指先が、爪先が少しずつ冷たくなっていく。
いっそ意識が手放されればいいのに、と何度願った事か。
なのに頭の方は寧ろ冴えわたっているから、始末が悪い。
誰か何とかしてくれないかとさえ思った時、足音が聞こえた。
相手はオレのそばまで寄って来た。立ったまま、話しかけてきた。
「どうしたの?」
――誰だ、お前は?
「ねぇ、どうしたの?」
――「どう」って、見りゃ分かるだろ?
「血が出てる……」
――やられたのさ、奴に。
「奴って? 誰?」
――分からない。ただ、オレを追ってるんだ。そして、襲った……。
「一体どんな奴なの?」
――顔は知らないけど、男だ。黒い服を着ていて……。
「今あなたが着ているみたいなやつ?」
――何言ってんだ? オレ、黒なんか着てねーぜ?
「……」
――まぁいいや。助かった。早く救急車を……頼む。
「キュウキュウシャ?」
――知らねーのか?
「うん。何なの、それ?」
――だから、その、何だ……ええと……。
「ねぇ、どうして逃げたの?」
――え?
「どうして、そいつに立ち向かわなかったの? 戦わなかったの?」
――バカ言うなよ。奴に勝てるわけないじゃないか。
「あなたがそう決めつけてるだけじゃないの?」
――何だと?
「逃げるのは誰でも出来る事。でも、それじゃ何も変わらない。
 あなたはいつまで逃げる気なの?」
――うるさいガキだな。お前に何が分かる!?
「……」
暗闇の中、沈黙が辺りを支配した。
「楽にして、あげようか?」
そう言うと、相手はオレの胸の刀を持った。
柄も鍔もない、剥き出しの金属を引き抜いた。
オレは咳きこんだ。そして仰天した。
穴が塞がったのだ。痛みは消え、体に力が戻ってきた。
傷痕のあった場所を何度もこすりながら、オレは立ち上がった。
「もう行くの?」
――ああ、礼は言っとくよ。すまな――!?
目線を上げたオレは、絶句した。
「じゃあ、今度こそ仕留めなくちゃな」
オレと同じ、黒一色の服。刀を握る右手は、真っ赤に染まっている。
奴の顔を見る事は、しかしオレは出来なかった。
それよりも早く身を躍らせた奴は、真一文字に刀を薙いだからだ。
オレの首を、飛ばすために。


彼は、布団から跳ね起きた。全身が冷汗で濡れていた。


彼が幼なじみの家に居候を始めた、最初の朝に見た悪夢である。


〈了〉


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