はじめに

まさか、ゲームの物語にココまでハマるとは……。

『逆転裁判』。対応ハードはGBA(ゲームボーイアドバンス)。
(後にDS、3DSへ移行。PC版、携帯版にも移植)

2001年に、第1作が登場。
第3作までが「初期三部作」と言える位置づけであり、現在は第5作までが展開している。
その一方で、外伝にあたる『逆転検事』シリーズも、第2作まで稼働中。
……という事が予備知識。


因みに、GBA版第1作のソフトケース表面に書かれている文字は、「1人用 法廷バトル」。
因みに、その裏面に書かれている文字は、



「ドタバタ法廷ミステリー!」



…………「ドタバタ」って何やねんソレ。


思えば、コレがこの作品への最初のツッコミだったかも。


さて内容に入りますが。
テキストを要(かなめ)とする推理ものアドベンチャーとも言える、
この作品の基本設定は、至極単純。


簡単に言えば、

「弁護士である主人公が、無実の罪で捕まった被告人を救い出し、
事件の真犯人を確保する話」


なのである。


…………って、自分で言ってて、少々、もとい相当に恥ずかしい。

我ながら、いわゆる「ありえねー」設定である。
少なくとも、この現代日本の感覚では。

現在でなく近未来(2010年代以降)の話だからとか、
犯罪が増えすぎたため、裁判が簡略化された社会だからとか、
一応の理由付けは有るけれど。それでも浮世離れしまくり。

誤認逮捕や冤罪多発、なのに裁判は、最長でも三日(!)で終わる。
たとえ、どんなに重大な事件であっても、だ。



……まかり間違うても住みたかないわい、んな世界……。



この、ぶっ壊れてる(?)世界観が、この作品最大の特徴であり、また欠点かもしれない。
裁判や法律に詳しい人なら、それこそツッコミを入れたくなること請け合いだろう。
(私自身、タイトルだけ知ってた頃は、もっとカタイ内容のゲームだと思ってたので尚更でした)

だがしかし。
壊れて見えるのは世界観「だけ」(だと思う。多分)。
その欠点が吹き飛ぶほど、ほめたい美点が多いのだ。

1. 綿密な伏線
2. 親切設計のシステム
3. 印象に残るキャラクター
4. 画面の演出
5. テキスト(文章)の処理



1. 綿密な伏線

このゲームには、一つのソフトに幾つもの刑事事件が入っている。
その事件たちは、どれも「逆転」というべきドンデン返しを魅せてくれる。

けれどまさか、その事件たちがそれぞれ互いに絡まり合い、
一つの物語としてつながっていくとは、全く予想できなかった。
一見ハチャメチャな展開に思わせて、実は重厚な本格ミステリの世界。
何となくつまんだ菓子が、食べたら絶品の味だった……みたいな感覚。

全話クリアして伏線を知っている上で、もう一度「読み返す」のも、また楽しい。
シリーズを重ねるごとに、文章のスキップ機能も使いやすくなっているので、
読みやすくなっているし。

……と、実はこの美点を詳しく語る事が出来ないのが、辛いジレンマ。
第1作を全部バラさねば第2作、第2作を全部バラさねば第3作を語れない、という調子なので。
「初期三部作」の最終話である第3作の第5話や、その次の第4作に至ってはほぼ全編、
ネタバレしないで話せる部分は無い、と言っても良いだろう。
外伝である『逆転検事』も、第1〜3作をクリアしている人こそ楽しめる作りになっているし。
第5作も、過去作を踏まえてプレイすれば、また違う感慨がありますし。

だから本当の本音だと、
「とにかく、プレイしてみて下さい」という言葉しか言えなかったりして。

率直に言って、『逆転裁判』をこれからプレイする人たちは幸せである。
主人公である弁護士・成歩堂龍一を始めとする人物たちの深いドラマを、
これから体験する事が出来るのだから……。


取りあえずは、公式サイトの情報や、「体験版」を是非どうぞ。

「逆転裁判 蘇る逆転」
「逆転裁判2」
「逆転裁判3」
「逆転裁判4」

「逆転裁判5」
「逆転検事」(※2020年現在アプリ版のみ)
「逆転検事2」(※2020年現在アプリ版のみ)
「レイトン教授VS逆転裁判」


(※情報をまとめて見られる、シリーズ総合ポータルサイトはこちら)



2. 親切設計のシステム

『逆転裁判』は、いわゆる推理ゲームに当たる。
しかし、世間の推理ゲームとは大きく異なる点が幾つかある。

その一つは、物語の事件全てを一度に解く必要が無いという事。
つまり、目の前に出された謎を一つずつ、一つずつ潰していき、
最終的に真犯人を確保できれば、それで良いのだ。

それに手がかりを見落としている時やミスした時には、たいてい何らかのフォローが入る。
そのため、誰でもいずれ、はたと真実が見える瞬間が来るはずだ。

もちろん、どうしても事件が解けない、という時もある。
そんな時は、ためらう事なく即セーブ。
話を進められている以上、その時点で使うべき証拠は全て揃っているので、
何一つ心配する必要は無いのだ。

因みにセーブは基本的に、どんな場面だろうが大丈夫。
台詞を一つ読むたびにセーブしたって構わない(はず)。再起動も楽だし。

そうしてセーブした上で、後は度胸とハッタリで突き進む。
それこそ主人公たちがやってるように。
それで上手くいけば良し。玉砕しても良し。
(むしろ玉砕した方が面白かったりする)

「ミステリは嫌いじゃないけど、謎を解くのは苦手で……」という人は、
是非プレイしてみて頂きたい。必ず独力で解ける仕組みになってます。
特に第1作(GBA版)は、常識と注意力があれば、いつかきっと……。



3. 印象に残るキャラクター

主人公やメインキャラは言うに及ばず。
どんな端役に至るまで、フツーの人は居ないと断言できる(←ほめ言葉)。

例えば第1作では、見た目だけでも、
くねくね怪しくモミ手するオジサンに始まって、
ピンクのハートを振りまく究極ぶりっ子、
宝石や貴金属をギラつかせるアメリカかぶれのオッサン、
読み取るのが全く間に合わないハイスピードで喋り倒すオバチャン、
汗を飛び散らせながら舌なめずりまでしてくる番組監督、
……etcetc……。

と……こう書くと、一見ギャグの世界だし、実際そうなのだが、
逆に言えば全員、リアリティを感じる人ばかりでもある。
その人の「好きな事」「苦手な事」「譲れない物」「悩み」などが、
それぞれキチンと作中で描かれているからだ。

また、そんな登場人物たちのネーミングセンスも要注目。
これまた主人公やメインキャラは言うに及ばず。
一度聞いたら一生忘れない名前がズラリと並んでいる。
「この人の名前何だっけ?」と困る事はまず無いと言いきれる。

物語、特にミステリで最も描かれるべき物、ソレは「人間関係」。
「逆転シリーズ」は、その「人間関係」を丁寧に扱っている作品だと私は思う。

初めて会った時と、いざ付き合ってみた時とで、印象がガラリと変わる――
そんな“出会い”が、毎回あります。本当に。



4. 画面の演出

『逆転裁判』が世間の推理ゲームと大きく異なる点の一つ。
ソレは、効果的な画面の「魅せ方」――演出である。

この作品では、弁護士も検事も証人も、事あるごとに座席台やら壁やらをバンバン叩き、
腕を振り上げ指を突きつけ声を荒らげる。裁判官の木槌もガンガン大安売り。
お前らやり過ぎだろとツッコミを入れたくなるくらい。
しかし、コレらのオーバーアクションは、『逆転裁判』の物語を盛り上げるために必要不可欠。
イメージすべきは「舞台劇」だ。

また演出においては、映像面だけでなく、音声面も要注目。
そう、このゲームは絶対に、音声付きでプレイするべきである。決して音を消してはならない。
絶妙なタイミングで流れるBGM、効果音、そして台詞たちを楽しむべきなのだ。
(※更に言えば、第4作を音声ナシでクリアする事は事実上、不可能になっています)

この作品に出てくる、重要な台詞たちを、以下に示す。
まず、「待った!」と宣言して、証人の発言をゆさぶる。
次に、「異議あり!」と宣言して、発言の矛盾を指摘する。
そして、更なる推理を求められたら「くらえ!」と宣言して論理展開を続ける。
(※この他、「そこだ!」「これだ!」「ちょっと!」などの変則パターンも存在)
この三つ(プラスアルファ)の台詞が決まった時の快感は、
実際にプレイすれば必ず納得できるはずだ。

なお、これらの重要発言は全てフルボイス。(メインキャラに限る)
その演技は、誰も相当に上手い部類。
自他共に認める声優好きとして、一体どんな声優が演じてるんだろうと調べて、絶句。
まさか、基本的に制作スタッフ本人たちが声を当てておられるとは。
「初期三部作」の主人公・成歩堂に至っては、ストーリーの創り手・巧舟(たくみ しゅう)氏ご本人。
他のキャラも全員、イメージに合ってる声なので、(一見ならぬ)一聴の価値はあるだろう。



5. テキスト(文章)の処理

気づいている人が少ないとされている、この長所。

『逆転裁判』の一画面で表示されるテキスト(文章)は、
全部でたった32文字(16字×2行)しかない。

試しにこの文字数で、自分の言いたい物事を何か書いてみるといい。
まず、不可能なはずだ。

漢字を使えばもう少し情報量を増やせるが、しかし漢字はそうそう増やせない。
あまりに複雑な物だと、(特に昔の)デジタル画面ではフォントが潰れてしまうのだ。
(例:「頻繁」「躊躇」「贔屓」「鬱積」「顰蹙」)

それに、一応32文字と言ったが、実際に使える文字数は、本当はもっと少ない。
画面のテキストは必ず、文節で区切らなければならない。
単語が2行にまたがる事は許されないのだ。

ここでイメージすべきは、京極夏彦氏の作品だろうか。
どのページを開いても、どの段を見ても、キッチリキッカリ句点で区切られている。
このように書くととても読みやすいし、
何より美しいのだ。(←自他共に認める理系人間の感覚)

繰り返し言うが、『逆転裁判』のような書き方は非常に難しい。
まして『逆転裁判』のテキストは、調査や尋問でどんどん違った方向に動いていく。
その上、どんなに違った方向へ進んでも、いずれは元の道に戻さねばならない。
小説より遥かにハードな制約があるのだ。

が、そんな制約に縛られているはずなのに、
実際に読む話自体も泣けたり笑えたりする……とゆーのが何ともはや。



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