神の宿る場所。 ――霊媒をカガクする――

「そんなカオしないで。……おとぎ話よ」
(『再会、そして逆転』探偵パート2回目より)


『逆転裁判』の「初期三部作」における、最大の謎の一つ。
それが倉院流霊媒道だろう。


死者の自我を自由自在に呼び寄せる、というだけでもトンデモナイが、
それ以上に特筆すべきは、
「霊媒を行った術者の姿が、降りてきた霊のそれに変わる」という設定だ。

17歳の綾里真宵が、27歳の綾里千尋に変化するくらいはまだ序の口。
綾里春美に至っては、まだ小学生だ。
千尋との年齢差は、じつに約20歳。
明らかに術者は、身長などの骨格レベルで変わってしまっている。


しかし。実のところを言えば。
霊媒している術者の肉体そのものは一切変化していない、
という可能性がむしろ高い。

その根拠の一つが、『華麗なる逆転』にて
天流斉エリスこと綾里舞子に霊媒された美柳ちなみが、
自らの血液で現場に血文字を残した時、
後に現場から検出されたのは、綾里舞子の血液だったという点だ。

この点から分かるように、霊を宿した術者の、
その肉体の細胞やDNAなどが物理的に変化しているというわけではない。
また、術者の体が物理的に刻々と変化する決定的瞬間も、
作中では一切描かれていない。


やはり霊媒の際、術者の肉体は、変化していないのだ。


では、術者の肉体は変化していないにも関わらず、
術者の姿が明らかに変化して見えるのは、果たして何故か。

この矛盾を解くのに使うのは、我々にとってのいつもの手段。
逆に考えればいい。


霊媒の際、変化しているのは、術者ではない。
術者以外の人間の方だ。
術者を見ている人間たちの、意識の方だ。


倉院流霊媒道の術者たちが用いている力の本質は、
人間の思念を増幅させ、周囲に強力な暗示を与える、
精神感応(テレパス)と催眠(ヒュプノ)との合成能力である――
というのが、当方が現在もつ結論である。

簡単に言えば、術者以外の人間(降ろされた霊自身含む)たちは、
「今、霊媒している術者の姿が別人に変わっている」と、
思い込まされているだけなのだ。


この結論に、そんなバカなと思う方も少なくなかろう。
だが、人の五感という物は、意外に当てにならないものだ。

幻視幻覚の例を引き合いに出さずとも、
世の3Dゲームたちを見ればいい。
視聴覚に関しては、ほぼ完璧なバーチャルリアリティ世界が、
既に完成しているではないか。

そのようなバーチャルリアリティをも超える、完璧な暗示を周囲に与えるために。
術者たちは霊媒の際、降ろす霊の特徴――特に身体的特徴――を
充分に把握しておく必要があるのだ。
(『華麗なる逆転』での春美は、美柳ちなみの写真を利用している)


そして。その霊媒の際、術者が別人の姿を保つ原動力となる物こそ。
霊媒する術者と介在する、他者の意識だ。


もともと霊媒現象というのは、霊を降ろす術者だけが行う物ではない。
霊媒現象において、術者がトランス状態に入るためには、
依頼人(クライアント)との信頼関係(ラポール)が必要なのだ。


死者が自ら降りるのではない。神や仏がお与えになるわけでもない。
生者こそが、依頼人こそが、器である術者に、霊を呼ぶのだ。

そんな生者たちが、
「自分の求める霊ならば、このような言動をするだろう、
するはずだ、してほしい」
などと、欲し求める「想い」――潜在意識こそが、霊媒の原動力となる。

霊媒現象とは、術者と依頼人との相乗効果の賜物なのだ。



……以上の論を進めていくと、
「もし事件が起こったらその被害者を霊媒すれば?」
という疑問も氷解する。

被害者の身体的特徴について情報が足らないのもそうだが、
何よりも、術者と依頼人とのラポールが一切存在しないのだ。
被害者の霊を心から求める人が、誰も居てくれない状況では、
そもそもシステム上の問題から、霊媒現象自体が起こり得ないのである。



以上をupした後、掲示板で追記した文章のまとめ (ネタバレ防止のため伏字です)

綾里舞子が御剣信を呼んだ際のクライアントは、DL6号事件を追っていた警察捜査陣。
よって、警察が容疑者と見ていた灰根高太郎が犯人として挙げられたのは、
ある意味、必然だったとも言える。

綾里春美が美柳ちなみを呼んだ(呼ぼうとした)際のクライアントは、綾里キミ子。
春美の行動が、常に「おかあさま」の望みに基づいている事は明白である。

問題として残るのは、綾里真宵が美柳ちなみを呼んだ際のクライアントである。
綾里千尋をクライアントだと考えても良いが、
千尋は、あくまで霊媒される側――死者である事を忘れてはならない。

実を言えば、一人だけ存在するのだ。ちなみという存在を呼べるクライアントは。
その人は、倉院流の事や、ちなみとあやめとの関係を理解している人であり、
誰よりも、ちなみを欲し求めている人でもある。
「彼」ならば、自分の大切な物を全て奪っていった彼女を
呼ぶ事も出来るだろう。

さて。ちなみが現れた時、即ちちなみが真宵に襲いかかった時、即ち「彼」がちなみを殺めた時、
「彼」は、ちなみに一体何を欲し求めていたのか?
こればかりは、「彼」本人しか(というか本人にも)分からない。
もしかしたら、「彼」がちなみに長く抱いていた復讐心によって、
当時のちなみは一層、悪霊として力を増していたのかもしれない……。


……以上。全ては、オカルト好きの当方による勝手な憶測であります。あしからず。




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