知らない事は罪である。

御剣「私は、信じる道を歩んできた。恥じるコトなどない!」
(『蘇る逆転』探偵パート2回目より)


シリーズ外伝と言える『蘇る逆転』において、
御剣にまつわる「黒い疑惑」の発端は、「SL9号事件」の裁判で、
捏造された証拠を、それと知らずに使ってしまった事だと判明した。


が、しかし。実際のところは、そんな単純な話ではない。

というのも、少なくとも「DL6号事件」解決時までの彼が正々堂々と戦ってきたとは、
どうしても言えないからだ。


例えば、第1作の『逆転姉妹』での御剣は、
捏造も証拠隠匿も証言操作も、存分に行なっている……としか思えない。
プレイヤー(の私)としては。

特に解剖記録を書き直させ、その最新版を隠していた件は強烈な印象だ。
他にも何度、論点をすり替えられ、はぐらかされ、手こずらされた事か。

また、第3作の『始まりの逆転』の時も、
証拠を隠し、証人を隠し、何度も何度も尋問自体を千尋にやり直させている。


このような御剣の、検事としての「法廷テクニック」。
確かに、明らかな「ルール違反」は何もしていないのかもしれない。
しかし、部外者の目から見た限りでは、真っ当なフェアプレイとは言いがたい。
寧ろ、ファウルすれすれのラフプレイ、“歪んだ”行為、と呼ばざるを得ない物ばかりだ。


つまり御剣は、「SL9号事件」の裁判より前――検事職に就いた最初の頃から――
「黒い疑惑」に染まりつつあったはず。
特に、世間の口さがないスキャンダルのレベルでは、大いに話題になっていたはずである。

御剣と同い年である成歩堂が、20歳・大学2年の夏の時点で既に、
弁護士を目指すための勉強を始めていた事が、その最大の証拠だ。
(『思い出の逆転』参照)


そんな状況でありながら、なぜ当時の御剣は、自分に非は無いと訴え続けたのか。
彼が嘘をついていないとするなら、答えは一つ。

この時点での御剣は、本当に何も「知らない」のだ。
自分がしてきた行動の、本当の意味を。
検事職に就いた最初の頃から、“歪んだ”テクニックを使って戦っていた事を。
自分にも他人にも厳しく接する、ストイックな正義漢の性格であるにも関わらず。
あるいは、何も「自覚できていない」と言ってもいい。

そもそも、第1作の時点での御剣は、
他人とコミュニケーションを取る事が非常に苦手な人物として描かれている。
それ故、当時の御剣には、自らの行動を客観的に捉える事も
極めて難しかったのでは、と考えられる。


が、仮にもミステリ世界において、知るべき事を「知らない」でいる事は罪なのだ。
どんなに痛く辛い結果が待っているとしても、
目を閉じ耳を塞ぎ、いたずらに時を過ごすという事は、絶対に許されない。
(この点については、奇しくも『蘇る逆転』での御剣自身が語っている)


自分が「知らない」でいた事――隠匿・捏造・偽証などの行為――を、
全て受け止め、認める事が出来た時、
初めて彼は、法廷に戻って来られた。

だからこそ彼は、『さらば、逆転』で、証言を拒む華宮霧緒に対し、
あれほど激しく恫喝する事も出来たのかもしれない。




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