一歩先だけの灯/逆転裁判

 逆転裁判のポイントは、証言の矛盾点が一つずつ現れて、それを一つずつ指摘していくところにある。
 論理学からいえば、たったひとつでも矛盾を含んだシステムは、全体が汚染される。したがって、係争中の事件についての記述言述のどこかに虚偽がある以上、その矛盾を示すために指摘しなければならない場所は、実は、どこでもいいのである。「矛盾は明らかです!」と叫びながら、事件に関する言述の中のどの事象を指さしてもいい。どの事象であっても、必ず矛盾しているのだ。
 そこが逆転裁判の巧妙なところで、証言を切り分けて、非常に細かい段階をひとつひとつ踏んでいかせるのである。これによって上記の問題を解決している。微細な部分の中でなら、なんとか、プレイヤーに特異な1点を指摘させることができるのだ*df
 つまり、一つの情報の中の一つの矛盾点の発見、を繰り返し蓄積していくことで事件の全体像が曝されていきついに解明をみる、のが逆転裁判の展開進行だといえる。

逆転裁判の1ステップ:
ゲームシステムが情報(Sn)を提供する
プレイヤーが矛盾点(Cn)を指摘する

 さてそうすると課題になるのは、プレイヤーの理解と、それをゲームシステムに伝える手段である。逆転裁判でも何箇所かに、情報提供管制の失敗がみられる。あるステップにおいて、そのステップで必要となる以上の情報がプレイヤーに与えられてしまうのである。そうするとプレイヤーは深い理解を得て、より真相に近づくのだが、それをゲームシステムに伝える手段はない。ゲームシステムはもっと浅い矛盾点Cnの指摘を待っている。それを指摘されたら次のステップに進んで、そのステップで矛盾点Cn+1が指摘できるようになるのだ。しかしプレイヤーにとっては、浅い矛盾点Cnはもはや問題ではない、どうでもいい些末なことであって、より深い矛盾点Cn+1こそを指摘したい。せっかく発見したんだ、そうだろう?
 極端になると、事件の真相が隅から隅までわかっているのに(隅から隅までわかっているからこそ)、それを指し示すことができないことになる。自分が真相を理解しているという事実を、しかしどうやってゲームシステムに伝えればよいのか。もどかしくて死ぬが、GBAPS2が「理解していることを理解する」能力を持たないことなど皆さん百千もご承知なわけで。
 プレイヤーをいかに、過深に理解させず、ステップ・中継点をジャンプさせず、過程を短絡させずに一歩一歩引っ張っていくか。はやり立つ馬をなだめながら跳び石を伝っていくか。ということなのだろう。

参考:
茂内克彦推理するゲーム
開発者コラム年末崩壊 開発初期の仕様について;
だれ1人、ムジュンの指摘はおろか、ツッコミさえ入れることなく即刻ゲームオーバー。呆然指数100%。大不評、大酷評の大嵐。
ちなみに、このときのゲームシステムは、現在とはずいぶん違っていました。
“一瞬のスキも許されない緊張感を!”というコンセプトのもとに、
●完全リアルタイム制。開廷から閉廷まで一気に流れる。ツッコミどころに気づかなかったら、それはもう有罪。
●証人の発言が、すべて法廷記録にファイルされる。ムジュンをつきつける際は、過去の全証言の中から探す。
“一瞬のスキも許されない緊張感”どころか、“どこで緊張すればいいのかわからない”というありさまでした。

[df] 微細な部分の中の特異な1点
 情報提供に関して考える方向としては、「いかに少ない量の情報提供で済ますか」「どれだけ切り詰められるか、削ぎ落とせるか」という観点が有益であろう。情報提供を小さなユニットに細分化すると、それらが多数個並ぶことになり、それぞれに1つずつ含まれる矛盾点を、プレイヤーは多数回指摘していくことになるわけだが、
1)ユニットが小さいのでショートカットが起こりづらく、
2)入力を多数回することになるのでプレイヤーの主体感が高まる。
 言い換えると、ユニットが小さければ、浅くしか先読みしないプレイヤーであっても自分で解いている気にさせて引っ張っていくことができ、しかも、深く先読みするプレイヤーに作業感を与えずに済む。先読みするプレイヤーにとって自分の予想が実現していくことは快楽であり、5ユニット10ユニット先までの展開が読めていたとしても、それをなぞって次々矛盾を指摘し物語を進行させていくことは作業ではない。それは予言の成就であり、成就は物語の持つ快楽のうちの一つである(参考:破滅兆候)。それはおつかいADVにおける場所移動??「やっぱり次は本署に戻って部長に会うんだよな」??とは、多様性・レスポンスの速さ・物語にとっての本質性および貢献度において異なるものである。

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