「………………………………あ。……ダメだ、またズレた!」
「成歩堂……キサマ、同じ箇所を何度書き直せば気が済むのだ?
 たかが一文字を白く塗りつぶして書き換えるだけの事に、いったい何分かかっているのか」

「ううううう」
「仕方ないですよ、御剣さん!
 なるほどくん、こういうの、一回で上手くいった試しがないんですから」

「それに。左手で失敗したから今度は右手で書いてみる……という理屈からして意味不明なのだが」
「えっと、えっと。確か、うまくいかない時のオマジナイだって言ってました。
 困った時は、使う手も逆転させるんだって。……あたしも意味わかんないけど」

「しかしだな。忘れてはならんぞ、真宵くん。
 この男こそが、今夜の件を言い出した張本人である事を」

「うんうん。なるほどくんてば、知り合いの人全員に連絡しまくってましたよねー」
「それぞれ立場を離れて無礼講だとも言っていたな、確か。
 今夜その場でだけは、弁護士というより一個人として接したいと」

「だからバッジも、もうポケットに仕舞ってるわけだしね。
 あ、そういえば御剣さんも、なるほどくんみたいなバッジ持ってるんでしたっけ?」

「ああ。現在の検事局では、付ける事はほとんど無いのだが。慣例としては持っている」
「へー、そうなんだー……って、こうして話してる間に、何とか終わらない? なるほどくん」
「だから。もう少しだけ待って。もう少しだから」
「そんな事言っても。このままだと皆、二次会のお店に移っちゃうよ? きっと。
 ……ねぇ、御剣さん?」

「うム。その点に関しては一応、大丈夫だ。
 次の会場に移る段になったら、現場から電話するよう、あらかじめ命じてある」

「おおっ、さすが! やっぱり抜け目ないですねー!」
「それより問題なのは。我々の、この手持ち無沙汰な状態だ。
 せめて何か、読み甲斐のある書籍でもないものか」

「あ、あ。それならコレなんか、どうですか?」
「……? キミが苦労して買って来た、その菓子箱がどうかしたのか?」
「コレね、コレね。入ってる物、フィギュアだけじゃないんです!
 ズヴァリ! この食玩限定! この幻の没設定資料集!も一緒に入ってるんですよ!」

「ほう…………それはまた、興味深い品物かもしれんな。拝見できるだろうか」
「モチロン喜んで! 一緒に見ましょうねー」
「かたじけない。
 ……では、成歩堂。キミは我々の待てる限界までには、必ずや業務を終らせたまえ。良いな?」

「そういう事! さあ、さあ、なるほどくん。早くがんばって! フレー、フレー!」
「……………………だー、もうッ!!
 頼むから、ひとの後ろで色々言わないで! ますます気が散るッ!」



……おあとがよろしいようで。

〈了〉




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