3.

 それから、しばらくの間、特に語る事は少なくなる。
 てきぱきと事を済ませた御剣に促され、一息つける頃には、ぼく達はシートベルトの付いた席に座っていた。
 白い屋根をした、小さな赤い車は、駅前を離れて繁華街へ向かって行く。
 ドライブの間、御剣は通して上機嫌だった。
 何でも当人いわく、この辺りの道は相当に走りやすいそうで。
「これなら、最初から私の愛車で来ても良かったかもしれんな。惜しい事をした」
 と、悔しがっていた。
 ……ぼくにはサッパリ分からない世界だ。
 そうやってアチコチに動きながら、それぞれが気になった景色で止まり、宛てなく巡るのを繰り返す。
 ぼく達が見るのは、何の変哲もない商店街(ショッピングモール)、レストラン、喫茶店。
 大概は、建って間もない建物ばかりで、ぼくの知らない店も多かった。
 よく知ってるはずの町のはずなのに、ゼンゼン知らない町でもある。ぼく達は、そんな不思議な町をさまよった。
 食事代をどっちが出すかでモメたせいで(結局ワリカンに落ち着いた)、昼食は少し遅めになったけど。
 二人でゆっくりご飯を食べるってのも、考えてみれば久しぶりだったなぁ……。
「…………何をボンヤリしている? 成歩堂」
「ん?」
 呼ばれて顔を向けると、御剣はもう、かなり先の方まで歩いてしまっていた。
 ついさっき、ここの店先に見つけて追いついたばかりだったのに。
「早くしたまえ。時間には限りがあるのを忘れるな」
「あ。うん。いま行く」
 と答えて、ぼくは足を急がせた。
 そうして歩きながら、何となく浮かんだ感覚。
 「デジャブ」って言うって教えてくれたのは誰だったっけ。
 そうだ。コレと似たような出来事なら、昔あった。
 ぼくらが仲良くなり始めたあの頃は、御剣がリーダー役だったんだ。
 大抵は矢張が、面白い噂とか変わった場所とかを聞きつけてくるのが最初。
 そのアイディアに乗る形で、ぼくや御剣が引っ張られていって。
 そして、いざ出かける時には、いつも御剣が先頭だった。
 やれやれとか、まいったとか、口に出す言葉はちっとも素直じゃなかったけれど。
 待ち合わせでも毎回、アイツは一番乗りで。
 早すぎるくらいの時間に、当たり前のように待っていて。
 それで一人前に説教するわけだ。
 そんな事を思い出しながら、待つ御剣のそばに近づいた時。
「やれやれ、参ったな。油断すればすぐコレだ。先に待っている身にもなって欲しい」
 子供の頃に聞いたそのままの台詞に、ぼくはつい吹き出した。
「何がオカシイ?」
「ううん、別に何でも。……それよりさ」
 ぼくは話の流れを変えた。
「この後、次はドコ行く? 目ぼしい所は全部回ったと思うけど」
「いや、まだ行っていない地域は残っている」
 御剣は懐から出した地図を広げて言った。
「ソレは……ココだ」
 指差したのは、地図の本当に隅の方。
 道路の他には、ほとんど何も書かれていない。
「幸いにも、我々が今いる場所とは直接に道がつながっていると思われる。
 ドコまで行けるか分からんが……、行ける限り行ってみよう。よろしいか?」
「………………………………」
「成歩堂?」
「え! あ、うん。いいと思うよ。そっちは特に、悪くない」
「……?」
 御剣は眉を寄せて首を傾げた。
 ぼくは急ぎ足で歩き、逆に御剣を呼んだ。
「さぁ、早く行こうよ。時間がもったいないんだろ?」
「無論だ」
 まるで競うような足取りで御剣が追い上げて来る。
 やっぱりだ。こういうところも変わってない。
 予想通りに進みそうな流れに、ぼくの心は軽く弾んだ。
 あと、もう一息だ。




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