例えば、こんな休日。

1.

「がんばれー、とのさまーんっ」
「ひめさまんもがんばれーっ」
 雲一つない、すがすがしい青空のもと。
 遊園地の名物といえる特設会場で、子供たちの元気な声が響き渡る。
 けど、そんな子供たちよりも遥かに盛り上がっているのが――ぼくの横にいる女の子、二人。
「ほらソコ! そっち動く! 行けッ、行けトノサマンッ!」
「右です! 右にお逃げになってください! ヒメサマンさまッ!」
 ……………………。
 ぼくは深々とため息をついてから、右隣の席に、異議を申し立てた。
「…………あの。真宵ちゃん。頼むから。見るなら、もう少し静かに……」
 と、ぼくが言い終わるより前に、
「えええッ! もう、何言ってるの、なるほどくん!」
 噛みつきかねない剣幕で、言い返してくる真宵ちゃん。
「ねえ、ねえ。なるほどくん、わかってる?
 この戦いはね、トノサマンVSヒメサマンVSトノサマン丙の、三大ヒーロー・夢の大決戦なんだよ!」
「はあ」
「しかもその戦いのカゲには、あのサマンサマンの思惑まで隠されているんだよ!
 これで、落ちついていられるワケがないじゃない!」
「い、いやいや。いやその。だからあの」
 その設定からして全然わかんないから。ぼくは。
 というか、確か前に、
「遊園地のヒーローショーなんて子供だましだよ! あたしは『てぃーん』なんだから」
 なんて言っていたのは、ドコの誰だったっけ?
「もう。ダメですよ、なるほどくん」
 と、更に隣の席から、もう一人の子――真宵ちゃんのイトコ・春美ちゃんも、ぼくに話しかけてきた。
「真宵さまのご趣味には、ちゃんとご理解を示していただかないと。
 こうして同じ場所で、同じ時間をお過ごしになっているのですし」
 この完璧なまでの敬語。まだ小学生の歳だとは、とても思えない。
 正直に言って、凄いと思う。
 ただ、その後がいけない。……毎度の事なんだけど。
「それに。真宵さまの想い人ならば、好きな物を合わせようと努力するべきです。
 ソレが人としての礼儀という物ですよ?」
「だだだだだ、だからッ! そういうワケじゃないから! ぼくらは!!」
「……………………成歩堂」
 そんなぼく達の会話に、今度は左隣の席から声がかけられる。
 本日のスポンサーとして、遊園地のチケットを回してくれた、御剣の声が。
「静かにしろと言っている人間が、誰よりも大声で叫んでいてどうする。
 あまりにも説得力がなさ過ぎるとは思わんか?」
「………………あ」
「それに。真宵くんも春美くんも、必要以上に騒ぐのは確かに迷惑だ。
 応援するのは結構な事だが、くれぐれも程々にな」
「あっ、は、はい!」
「申し訳ありません、みつるぎ検事さん……」
 御剣の言葉に、真宵ちゃんと春美ちゃんは素直に頭を下げた。
 事の起こりは、数日前。
 事件による縁からの知り合いからチケットを数枚渡されたと告げられて。
 ヒーローショーという物があるから、真宵ちゃんや春美ちゃんも一緒に
連れて行ったらどうかと、そう言われて。
 それでこうして、今日は四人が揃っているという次第。
 ちなみに今日は、仕事は完全オフという事で、全員私服。
 まさか、遊園地でスーツや装束っていうわけにもいかないし。
 ただ、御剣の服は、普段とあまり変わらない。あの襟のヒラヒラがないくらい。
 だから試しに、ソレってスーツ?と訊いてみたら、「トラッドスタイルと言いたまえ」と、
即座に訂正された。
(ところで何だったっけトラッドって)
「でも、助かったよ。御剣」
「? 何の事だ?」
「きみが止めてくれなかったら、彼女たち、もっと際限なくハシャいでたと思うから。
 他のお客さんに怒られちゃうものね」
「……………………。別に。他の客の事など知った事か」
「はい?」
「ああやって無粋に騒がれていては、私が観客として集中できん。それだけの事だ」
「…………」
「しかし……それにしても、先程からあの上手(かみて)の役者、殺陣の踏み込みが一瞬早いな。
 あれではタイミングを合わせにくいではないか。
 下手(しもて)の役者は体が固すぎて、所作が不自然になっているし。
 やはりプロフェッショナルの俳優でなくば、あの複雑なアクションを演じきる事は
不可能なのだろうな。ううむ……」
 そうだった。
 そういえば、コイツも密かに、特撮ヒーローには目がない奴だったっけ。
 実際、もうコイツには、ぼく達の姿なんて見えてないだろう。
 改めて右を見てみれば、真宵ちゃんと春美ちゃんも、さっき以上に張りきって、声を張り上げているし。
 ………………孤独だな。




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