Sharing with you ( true )

4.

 休日の夜は更けていく。
 僕たちが家の中で語らう場所も、居間から別の所に移っていく。
 囁き合って交わした約束に従って。
 待ち合わせ場所はいつも、僕の寝室。
 新たに取りつけた鍵をかけているドアの内側に、今の僕たちは潜んでいる。
 全ての服を脱ぎ去って、体一つになって。
「あ…………は、ぅ……ぅうん……ッ!」
 いつも普通に眠っている、自分の部屋の自分のベッドの上で、
こんなに恥ずかしい声で喘いでいるという事そのものが、また恥ずかしくてたまらない。
「………………ん、くっ、うっんん……」 
 体をくねらせる度、ベッドの柱に縛りつけたネクタイが手首に食いこむ。
 僕は、下の方に目を向けた。
 薄明かりの中。仰向けに横たわっている僕の足の間。
 その中心に、御剣が顔を寄せている。
 形よい唇の間に、僕を挟んで。
 絶え間なく、水音を鳴らして。
 一心に、舐め回し続けている。
 ………………それにしても、ずいぶん上手くなったよな。
 甘い刺激に溺れながら、ふと僕は不謹慎な事を考えた。
 僕がしている事を、自分も同じようにやってみたいと御剣が申し出てきたのは、どれくらい前だったろうか。
 最初の内は、僕は頑なに断った。
 僕の方がするのはともかく、御剣の方に奉仕させるなんていうのは、彼を汚してしまうような気がして。
 だから僕は条件として、いくつかワガママを言わせてもらった。
 特にお願いしたのが、口に含んでいる時の表情だ。
 どうか、嫌そうな顔だけはしないでほしいと。
 例えば、自分の一番好きな物を味わっている時を思い浮かべて、その時の顔をしていてほしいと。
 そんな僕の要求に、今の御剣は、まさにカンペキに応じてくれている。
 気に入っている紅茶を飲む時よりも、より一層うっとりとしているような顔つきで。
 心底から愛おしそうに、しゃぶり尽くしている。
 その顔を見ている内に、奇妙な錯覚に囚われる。
 ひょっとしたらコイツは、本当にこの行為が好きでたまらなくて、それで僕に襲いかかってるんじゃないかって。
 普段の姿は、はしたない色事なんて何も知らないような、むしろ嫌っているかのようなのに。
 そんな彼が今、僕にこんな事をしてる。
 何のためらいもなく、僕の腿をつかみ上げて。飴でも舐めているように。当たり前の事のように。
「…………あ……、や……だ、ダメ! そんな…………したら……もう、無理……ッ!」
 硬く立っているその裏側をねっとりと舐められて、僕はたまらず大声で叫んだ。
 すると、そこで御剣が顔を上げた。
「今のは、どのような意味で言った言葉だろうか」
「い、み?」
「文字通りの意味で捉えて良いのか?」
「あ…………ううん、違う……。前に教えた……ので、合ってる」
「そうか」
 御剣は再び顔を下にやった。
 コレも、僕が彼に頼んだ事の一つ。
 「嫌だ」「ダメ」「無理」「やめて」「許して」……僕のそういった言葉は、全部無視してもらう事にしている。
 どんなに黙っていようとしても、無意識の内に言ってしまうからだ。
 こうして両手首を縛ってもらっている事も、同じ理由による。
 さもないと僕は確実に、御剣の体を引き離してしまう。 
 それどころか、逆に押し倒して、メチャクチャにしてしまいかねない。
 これほどまでに高ぶらされて、大人しくなんてしてられない。
 だけど、あと、もう少し。もう少しだけ触れられたら全部終わる。
 そう思った時、御剣は音を立てて口づけてから、体を起こした。
「………………あ……っ」
「しかし……何度見ても、いい眺めだな」
 直前のところで放り出され、全身をひくつかせている僕を見下ろして、意地悪く笑った。
「今の君の状態は、ある種、変質者と変わらない。もしも私が、君のこの浅ましい姿を人目にさらしたら……
君の人生は、それだけで破滅だ」
 そんな事を実際にされたらどうなるか。
 あり得ない事を想像してしまって、一段と体が熱くなった。
 僕は、笑みを返して答えた。
「でも、もしもそうなった時は、君だって道連れだよ。死ぬ時は一緒……って事で」
 僕たちが交わっている証拠なら、いくらでも有るんだから。
 何もなかった頃には、もう二度と戻れやしない。
 その覚悟ならお互い、とっくの昔にしてるだろ?
 僕の軽口に、御剣は思いきり顔をしかめた。
「…………つくづく、減らぬ口だな。相変わらず」
「だったら、ついでに口も塞ぐ?」
「いや……、君の声を聞けなくなるのは、惜しい」
 そう言って、改めて事を始めた。
 今度は、さっきまでの焦らすようなやり方じゃない。
 一秒でも早く、僕を楽にしようと急き立てる動きだ。
 根本までくわえ込み、そして素早く前後にしごき上げる。
 コレも最初の頃は、とても見ていられなかった。
 やろうとするまでは良いんだけど、その度に激しくむせ返っていて。
 きっと、たくさん練習したんだろうな。僕の見てないところでも。
「う…………ぁうっ!」
 先の方を、いきなり舌でくすぐられて、頭の中に火花が走った。
 もう体の方は、とっくに限界。
 これ以上、我慢してたら身が保たない。
「出…………るッ……!」
「出せばいい」
 僕が口走った言葉に、御剣は唇を離して促した。
「いつも言っているだろう。遠慮などするな。君の好きな時に、好きなようにすればいい」
「で、も……」
 このままじゃ、お前がそんな所に居たら、今日こそ本当に、お前の綺麗な顔に、僕が――!
 そうやって僕が必死に訴える声を、御剣は目を閉じて聞いている。
「………………あ。だから、もう……、んん……」
「さすがに、限界か」
 いかにも名残惜しそうな言い方で、その手に僕を握りしめ、低い声で囁いた。
「教えてくれ。今夜の君の味を……私に」
 言いざまに、強く吸い上げられてしまったら、もう耐えられるわけがない。
「あっ……! ぁ、ああぁぁ…………ぁ……っ!」
 僕は、かすれきった甲高い悲鳴を上げながら、がくがくと腰を震わせた。
 出された端から、御剣の中に叩きつけられる僕の欲。
 その飛沫を、僕の恋人は一滴残さず飲み下していく。
 何もかも、すっかり空っぽになってしまうまで。
 その後も、拭き清めるような丁寧な舌使いが、長く続いた。



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