目指せ、「法廷マニア」の世界。(笑)
最初に、気をつけたほうがいいことを、少しだけ。
傍聴に行くときは、ぜひ筆記用具の用意を。
どんな事件がどんな流れで進んでいるのか、メモしながら聞くと、より楽しめます。
服装については、外に出て恥ずかしくない格好なら、普段着でもOK。
ただし、持ち物は、出来るだけ小さくまとめましょう。大荷物は目立ちます。
あと、もう一つ。
法廷内では事実上、大きな物音は禁止です。
ペン一本を落とすだけでも、法廷内には音が響きわたります。
怒られるわけでもないけど、思いきり目立ちます。
大きな音の立つビニル製品の袋などは、持っていかないほうがよいかと。
……なんて最低限のことを踏まえたら。
とにかく地元の地方裁判所(以下「地裁」)へ、実際に行ってみるのが一番。
平日の午前10時〜午後5時なら、いつ誰が出向いても問題ナシです。
ちなみに、裁判は1回あたり、1時間くらいで終わります。
映画を見るより簡単です。
さて。以下は、私の地元である、千葉地裁に関する話になります。
(※東京地裁についても、少しだけ触れています。こちらをどうぞ)
千葉地裁があるのは、県庁の近く。
JR千葉駅からだと、歩いて10分くらい。
地裁の近くには、小さな公園(吾妻公園)や、千葉市科学館(&プラネタリウム)などがあります。
なお、2007年現在、千葉地裁は仮庁舎。新庁舎への工事中です。
で、そんな裁判所のお向かいには、地方検察庁の建物が。
この両庁舎の掲示板を眺めるのもまた、楽しみの一つです。
裁判所に行って、すぐに法廷に入っても構いませんが、まずは下調べ。
庁舎内の「受付」に向かいます。
「傍聴したいんですがー」と声をかければ、いろいろ教えてくれます。
その受付でもオススメされる、そして当方もオススメするのは、
モチロン「刑事事件」の裁判。
「刑事事件」なら、「弁護士VS検事」のカードを見られます。
「民事事件」だと、「弁護士VS弁護士」のカードになります。
それで一番大事な物が、その日の「公判予定表」。
法廷それぞれの入口に貼られている紙です。
そこに、その日に扱う裁判が、一覧表の形で書かれています。
予定表のうち、見るべきところは、3ヶ所。
まず、罪名。
「殺人」とか「詐欺」とか「窃盗」とか、やたら素っ気なく書いてあります。
その中で、自分が興味を持てそうな罪名をチョイス。
どんな内容の事件かは、選んだあなたの運と勘にかかってます。
万引きだろうが、車上荒らしだろうが、空き巣だろうが、
書かれている罪名は全部「窃盗」ですから。
次に、裁判の種類。
「新件」「審理」「判決」の、3種類から選びます。
「新件」は、第1回目の初公判。事件内容が一通り説明されます。
「審理」は、第2回目以降の公判。三部作の第二部みたいなポジション。
「判決」は、そのまま。ただ判決が出されて終了。
……という区分なので、傍聴するなら基本的に「新件」がオススメです。
そして、開始時刻。
自分の都合よい時間帯のものを選びます。
後は、自分の傍聴したい裁判の時刻まで、のんびり待つだけ。
ただし、少なくとも千葉地裁の場合、裁判所内で待てるスペースは、ごく限られています。
一応、待合室はありますが、そもそも事件関係者でもないし……という気後れが。
よって、目当ての裁判が始まる5分前くらいに、裁判所に戻ってくれば、
良いタイミングのようです。
開始5分前。
まるで病院の手術室みたいに、「開廷中」の緑ランプが点いてる法廷の外側。
「傍聴人入口」と書かれたドアに付いてる小窓のフタを開け、
中の様子を確かめてから(帽子やコートなども脱いでから)、いよいよ進入。
ドアをくぐると、すぐ目の前、柵の手前に傍聴席が並んでいます。
ちなみに、私が入った法廷では、18席。
部屋の広さは、中学や高校の教室くらいでしょうか。
で、柵を隔てた向こう側こそが、「法廷バトル」の登場人物たちの世界です。
中央の長椅子にいる人が、被告人。両脇に係員がついてます。
また、このときの被告人はまだ、手錠と腰縄で拘束されています。
それから、傍聴席から見て、右側が弁護人席、左側が検察官席。
コレは『逆転裁判』をはじめとする、法廷ミステリと同じです。
そんな彼らの座席台たちには、イスとスタンドマイクがあります。
他には書類の束とか山とか、六法全書も置いてあったり。
……というわけですから、
弁護士をよく見たい人は左側の席に、
検事をよく見たい人は右側の席に座るようにしましょう。
なお、一旦、傍聴席に座ったら、途中で席替えは出来ません。(途中入場・途中退場はOK)
ただし、このポジショニングには、一部例外も。
弁護人は廊下に近いほうに座る、というルールもあるので。
裁判所内の「間取り」(法廷の向き)によっては、弁護士と検事とが、左右逆に座っている場合もあります。
あと、部屋の右手奥には、なぜかテレビの台があったり。
また、柵のそばには、「証人用 出頭カード 宣誓書」と書かれた紙束入れもあったりして。
裁判官が木槌をコーン!……なんて始まるなら分かりやすいんですが。
実際は、ものすごく地味です。
上座のドアから、法服姿の裁判官が入ってくる、それを開始の合図として。
何となく、全員起立。
何となく、全員一礼。
何となく、全員着席。
しかもこの間、全員無言。挨拶も号令も一切ナシ。
そして、係官が被告人の手錠と腰縄を外したのを境に、
「では開廷します」と裁判官が宣言。
これで始まり。
あと、そうそう……
実際の裁判官は、木槌なんか持ってません。
一応、念のため。
序盤戦では、フィクションだと省略されがちな手続きが入ります。
1. 冒頭手続。
「被告人は台に立ってください」(by裁判官)が最初の合図。
1-1. 人定質問。
「名前を言って下さい」
「生年月日はいつですか?」
「本籍地はどこですか?」
「住所は××××でいいですか?」
「職業は××××でいいですか?」
……と、裁判官が、被告人の身元を確認。
1-2. 起訴状朗読。
被告人がどんな事件を起こしたか、検察官が一通り説明。
最後に、何条の何刑に基づいて起訴します、と宣言します。
ただし、懲役何年求刑!とかは、まだ言いません。
1-3. 黙秘権の告知。
「あなたには黙秘権というものがあります。
答えたくない質問があれば、黙っていても構いません。
ただし話したことは有利不利にかかわらず、すべて記録に残ります」
……と、裁判官が被告人に説明。
1-4. 罪状認否。
リアル裁判における、序盤のポイントがココ。
「検察官の言った事に間違いはありませんか?」と、裁判官が、被告人に尋ねます。
リアル裁判では大抵、被告人は、「はい」と答えて、次の段階に進みます。
(フィクション世界ならココで、「いいえ! 私やってません!」……みたいになるわけですね)
2. 証拠調べ手続。
ここから、しばらくの間、検察官の一人舞台になります。
やってることは、やっぱり地味なんですが。
2-1. 冒頭陳述。
今回の事件の被告人は、どんな人物なのか?
事件の起こった経緯は?
なぜ事件が起こったのか?
関係者たちは今どうしているのか?
……などなど数々の情報を、検察官が滔々と語ります。
分厚い書類束を手にして。
このとき、検察官の読むスピードは、かなり早口。
次の裁判が始まる時刻までには終わらせなきゃいけないからなんだけど。
なんだか必死の勢いです。
2-2. 検察側の立証。
ここで、検察側からの証拠品が登場します。
ただし。その提出にはまず、弁護側の許可が必要です。
検察官が証拠を提出する事について、「すべて同意いたします」と弁護人が応じたとき、
そこではじめて証拠品が受理されます。
(フィクション世界ならココで、「同意しません!」……みたいになって、
それではじめて「検察側の証人」の証言と、その証人への尋問が行われるわけです)
そんな流れのあと、続々と提出されていく、数十品の証拠品たち。
警察での供述調書とか、実況見分調書とか、写真とか、そのほか色々。
その大量の証拠品を説明するのに、検察官が、また必死の勢い。
オバチャンのマシンガントークみたいなハイスピードで読み上げていきます。
ただし、全部スラスラ読めるわけでもなく。たまに噛んでたり。けど必死。
ちなみに、証拠品の種類は、
被告人の自白に関しない「甲号証拠」と、
被告人の自白に関する「乙号証拠」とに分かれます。
それで、このときに証拠品を裁判官に運ぶ役目が、法廷の廷吏。
検察官と裁判官と、たった2、3メートルの距離を往復。
じかに渡したほうが早いんじゃないか?ってツッコミが頭に浮かびます。
あと、小ネタ。
検察官の秋霜烈日バッジ。千葉地裁では、未だもって見れてません。
左側の席の左襟だから、見えないだけかもしれませんが。
少なくとも、目立つ位置には付けてないような気がします。
金色の弁護士バッジのほうは逆に、これでもかという数を拝めてますが。
(※東京地裁では、どちらもアッサリ見ることができました。銀色の検事バッジは、見えると目立ちます)
2-3. 弁護側の立証。
当然、弁護側も証拠品を提出します。
さきほどの「検察側の立証」と同じように、
弁護人が証拠を提出することについて、「すべて同意いたします」と検察官が応じたとき、
そこではじめて証拠品が受理されます。
その中で、 証人もまた、立派な証拠品の一つです。
そう。
一般的な本来の裁判で、証人を出すのは弁護側です。
証人喚問は、被告人の情状酌量のために行うのが基本なのです。
そのため、出てくる証人は基本的に、被告人の身内――家族とか恋人とか――です。
証人尋問ナシの裁判、というのも多いです。
そんな流れのあと、いよいよ始まる証人尋問。
「証人は中に入って証言台の前に立ってください」
と、裁判官に言われて、証人は、傍聴席から入ってきます。
「証人は名前を、自分の声で言ってください」
「生年月日を言ってください」
「台の上の紙を取ってください。それを自分の声で読んでください」
……という裁判官の説明を受けて、証人は以下の文を読みあげます。
「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
このセリフを言った瞬間から、証人の証言は、裁判の証拠品として動きはじめます。
まずは、主尋問。
証人の“味方”である、弁護側からの質問。
「質問が終わってから、落ち着いてはっきりと答えてください」とか、優しい感じで始まります。
次に、反対尋問。
証人の“敵”である、検察側からの質問。
このときの、検察官がコワイです。
主尋問に対抗して、これでもかとツッコミ、ツッコミ、またツッコミ。
例えば……
検察官「証人。あなたは被告人が窃盗の常習犯だったことを知っていたんですか?」
この質問に、被告人の身内として、どうにか首尾よく答えようと努力しても……。
パターンA:
証人「いいえ。まさか彼が悪いことをしていたなんて、夢にも思いませんでした」
検察官「そうですか。……それじゃ、あなたは、彼がまた罪を犯しても、気づけないかもしれませんね」
パターンB:
証人「はい。じつは、彼が悪いことをしてるんじゃないかって、なんとなく気づいてました」
検察官「そうですか。……それじゃ、あなたは、彼がまた罪を犯しても、止められないかもしれませんね」
じゃあどう答えろってんだよ検事さん!
この通り、「あー言えばこー言う」のプロフェッショナルに、素人が勝てるわけありません。
逆に言うと、検事ってスゲーな、とゆー事を実感できます。
最後に、裁判官から証人への質問もなされて、それで証人尋問は終了です。
2-4. 被告人質問。
リアル「法廷バトル」・最大のクライマックス。
被告人が証言台に立ちます。
被告人は、証人とは別枠の扱いです。
だから、この場での証言は証拠品になりません。偽証罪にも問われません。
まずは、主尋問。
証人の“味方”である、弁護側からの質問……なんですが。
被告人が反省してることを強調したいためか、けっこう口調はキツイです。
「ちゃんと働けば良かったですね」とか、「もう絶対に犯罪をしないと誓えますか?」とか、
全体的に、なんとなく説教モードになってます。
次に、反対尋問。
証人の“敵”である、検察側からの質問。
このときの、検察官がまたコワイです。
と言いますか、このときこそが、検察官の本領発揮。
被告人を揺さぶりまくり、弁護側がゴマカそうとしてる点――論理の破綻や矛盾を、これでもかと追及します。
何とかして、被告人から本音を引きずり出そうと必死。
その一方、被告人は、次々と繰り出される予想外の質問に、ダメージを受けまくり。
最後のほうは、しどろもどろに。
でも何が何でも、検察官にヘタなことは言うまいと必死。
……ハタから聞いてると、じれったい感じさえしてきます。
このように。
「より重い罰 VS より軽い罰」で、検察官と被告人とが争うのが、実際の「法廷バトル」です。
(弁護人は、言ってみれば被告人のサポート役です)
最後に、裁判官から被告人への質問もなされて、それで被告人質問も終了です。
3. 弁論手続。
「法廷バトル」の終盤戦。
次の裁判が押しているため(?)、全体的に急ぎ足で進んでいきます。
3-1. 論告・求刑。
検察側の最後の言い分。
ここで具体的な「求刑」が出てきます。
被告人は全く反省していない、情状証人の発言も根拠が弱い……など訴えます。
3-2. 弁護人の弁論。
弁護側の最後の言い分。
検察側と逆の立場から、減刑を求めます。
被告人は充分に反省している、情状証人の発言を汲んでくれ……など訴えます。
3-3. 最終陳述。
最後の最後。
「被告人は、何か述べることはありますか?」と、裁判官が、被告人に尋ねます。
以上の流れを踏まえて、裁判は判決に進みます。
(ただし、即日判決の裁判でない限り、判決は数日後に改めて――となる場合が多いです)
その判決の言い渡しもまた、表面上は極めて地味に進みます。
被告人に劇的な変化が見られるわけでもなく。
裁判官以外は、誰の発言も一切禁止ですし。
でもきっと、被告人の心の中では、大きなドラマが動いているんだろうなぁ……と、思う私。
そんなこんなで、終わる裁判。
閉廷の流れは、開廷よりも更にまた、何ともなしの何となく。
いつの間にやら、そそくさと小声で、「閉廷します」と宣言する裁判官。
ウカウカしてると聞き逃します。
その裁判官の宣言に合わせて、検察官も弁護人も、何となく席を立って去っていきます。
(裁判官は、次の審理のため残ります)
あるいは、次回の裁判の日取りについて、話し合って終了する場合も多く。
例えば……
裁判官「次、結審ですけど。来週の×曜の午前10時でいいですか?」
検察官「はい」
弁護人「ええと……(手帳パラパラ)……あ、すいません、その日は用事が……」
こんな風に、その場の流れで決めちゃいます。
(※大きな事件の場合は、次回の日取りも、あらかじめ決めているようです)
終わりに小ネタ。
裁判でこそ聞ける、独特な言い回し。
「しかるべく」
「はい」「そうです」「同意します」の意味で、検察官も弁護人も、好んで遣います。
逆に「異議あり」の類は、実際の裁判では、まず聞くことはできません。
そもそも実際の裁判では、「相手に異議を唱えさせるような尋問」自体、マナー違反でありまして。
とにかく静かに進んでいくのが特徴です。
……と、ここまでが、当方の地元・千葉地裁について。
この先は、東京地裁についての紹介です。
東京地裁(ほか合同庁舎)のある場所は、「東京メトロ霞ヶ関駅A1出口」。
コレを覚えてさえ行けば、迷うことなく到着できます。
18階建ての、まさに見上げるような大きさのビルです。
着いて最初にチェックすべき場所は、やはり「受付」。
千葉地裁では、全く一切ノーチェックで「受付」に行けるのに対し、
東京地裁では、金属探知検査のゲートをくぐったり、手荷物検査を受けたりしてからになります。
そんな東京地裁・最大のセールスポイントは……ズヴァリ、地下。
『逆転裁判』の作中で、しばしば登場している「地下食堂(カフェテリア)」の
元ネタが、ココにあります。
朝ごはんから晩ごはんまでフォローしてくれる食堂たちが最低3ヵ所。
ごはんにパスタにラーメンに……と、和洋中が一応そろっています。
(テイクアウト用の飲食スペースもアリ)
ほかにも、貴金属の販売やら、住宅リフォームの相談所やら、モチロン基本の郵便局やら。
さらには、午前7時〜午後8時まで開店しているコンビニエンスストアまで完備。
(正確な店名は「ファミリーマート東京高等裁判所内店」)
なお、食事の相場は、1食あたり500円前後。
都心ならば、リーズナブルな額かと。
ラーメンやコーヒー目当てに足を運ぶというのも、面白いかもしれません。
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