第一の冒険 シャムタンティの丘を越えて

第1話「冒険の始まり」

 いよいよ今日は、待ちに待った冒険の始まる日。
 ぼくは必ず、このアナランドの国から遥かマンパン砦の魔法使いに奪われた、
 王様の大事な冠を取り戻してこなければならない。
 人々を束ねる、不思議な力を持っている冠なんだって。
「本当は私が行ければいいんだけど。この町を守る仕事もあるからね……」
 ぼくを送りだしたミア先生は、最後まで心配そうな顔をしていた。
 先生は、母(というか姉)代わりにぼくを育ててくれて、魔法使いとしても鍛えてくれた立派な人だ。
 ぼくは胸を張って言ってあげた。
「大丈夫ですよ。ぼくには頼れる味方がいるんですから」
「リブラ様が付いてますって事? まあ確かに、あなたは昔から、運だけは人一倍よね」
 ソレはどういう意味ですか。
 だいたい、リブラ様って本当にいるのかな。冒険の神様だっていうけど。
 そんな事を考えながら、ぼくはもう一度だけ、忘れ物がないか確かめた。
 ついでに、気に入っている濃紺のローブを直していると、声をかけられた。
「あいさつは終わったか? ニック」
 生まれた時から一緒に暮らしてる、幼なじみの戦士のエッジ。
 ぼくみたいな魔力こそ持ってないものの、頭は切れるし、戦いだって強い。
 歳はほとんど違わなくても、冒険については先輩だ。
 彼は緋色のマントを翻し、厳しい顔つきで言った。
「キミの旅には、わたしが付き添う。何としてでも、キミを目的地へ導こう」
「大げさだなあ。おまえとの旅なら、絶対に上手くいくって」
「その油断が命取りだぞ。まず、魔法書はキチンと暗記したか?
体調管理は整っているか? 紙とペンの準備は?
 それに今回は、くれぐれも食料や金貨は計画的に使いたまえ。それから……」
 相変わらずだな。こういう時だけ口うるさいんだコイツは。
 ぼくは苦笑いを堪えながら、国境兵士にあいさつして、門をくぐった。



第2話「おかいもの」

 国境を出て、シャムタンティ山地をしばらく歩いた頃。エッジがぽつりと言った。
「そろそろ、休まないか?」
「そう?」
 まだ出発から、ほとんど時間も経ってない。
 今日一日で出来るだけ、遠くまで歩いておきたいんだけど……。
 やがて着いた場所は、商人の町カントパーニ。
 入ってみた酒場では、珍しい品物がたくさん並べられていた。
「わ、凄い! この石キラキラ光ってる」
「一通り買っていこう。どれも使い道がある」
「ええと、それじゃやっぱり、この剣とかかな?」
「いや、わたしは斧だ。書かれているこの紋様が気にかかる」
「そうなんだ。じゃ、ぼくは……すいませーん、この竹笛と、
それから……そうだ、この『生き物の歯セット』っての下さい」
「何とも奇妙な名前だな」
「これは召喚術で使うからね」
 派手な値切り合戦もやったりした後には、手に入れたアイテムの確認。
 確かに斧には「グランドラゴル233」なんて文字が刻まれている。
「生き物の歯セット」に入っていたのは、死の猟犬、類人猿、ゴブリン、スナタ猫、巨人ってところ。
 召喚術で使えるのは、ゴブリンと巨人と……あと何だったっけなあ。



第3話「みんな、踊れ!」

 そろそろカントパーニの町ともお別れ。
 このご時世に旅の話なんてしてるのを、皆ジロジロ見てる視線が痛いです。
 それどころか、二人組の山賊まで現れてしまって。
「そこのオマエ! その荷物おいて、とっとと消えやがれ!」
 ……って。そんな事いわれて従う人がドコにいるよ。
 せっかくマジックアイテム買いそろえたってのに。
 すると、早速エッジが険しい顔で、山賊たちの前に立ちはだかった。
「わたしの前でそのような口を叩くとはいい度胸だ……!」
「あ。エッジごめん。ちょっと待った」
 出鼻を挫かれてずっこけるエッジ。ホントごめん。
 けど今は、無理に戦う必要ないんだ。
 ぼくは、買ったばかりの竹笛を構えた。

「JIG――!」
 魔力をこめて吹き鳴らすと、山賊たちは音楽につられて踊りだす。
 もう彼らには、野蛮に襲いかかってくる能力も意志もない。
 向こうに行けーと手を振ると、彼らも手を振って去っていった。
 こうやって平和に解決できるから、ぼくは魔法が好きなんだ。
「…………成長したな。ずいぶんと」
 変にしみじみとした口調で、エッジがつぶやいた。
 そりゃぼくだって、いつまでもお守りされてるばかりじゃないよ?



第4話「覚えておこう」

 悪戯好きのエルヴィンによって大木の枝に乗せられてしまったという、おじいさんを見つけた。(スゴイ事情だ)
 助けてあげたら、お礼として、旅のヒントになるらしい詩を教えてくれた。


『見られずして見届けよ。
 黒き眼の者、地を這う。
 番人なりし身も今は、
 自由の鍵を預かる身。』


 それから、魔法書の破れた一部分も渡してくれた。
 見てみると、害虫駆除の術が途中まで書いてあるのが読み取れた。
「む……何だろうな、この数字は」
「紙の隅っこに書いてあるって事は……ページ番号だね、きっと」
 後で役立ちそうだから、雑記帳に書き留めておく。102……っと。
 エッジみたいに、一目見ただけで覚えられるほど、ぼくは記憶力に自信ないから。
 その大木の近くでは、ぶんぶんと蜂が巣を作っているのを見つけた。
 エッジは素早く木の上にのぼり、その蜂の巣を、剣で地面に落とした。
「無茶するなあ……。いきなり何やってるんだ?」
「蜂の巣は貴重だ。蝋と蜜が取れる」
「そうか。蜂蜜はれっきとした食料になるものね」
「……本当は蝋の方が大事だと思うのだがな。シロウト魔法使いくん」
「え、そうなの?」
「先が思いやられるな、これは……」



第5話「分岐点」

 分かれ道に着いた。
「こういう時ってさ、どうして道に立て札ないんだろうね」
「旅人たるもの、旅の道のりくらい知らんでどうする」
「じゃ、そういうおまえは知ってるの?」
「こういう時は、谷より山を選ぶのが定石だ」
「…………やっぱり分かんないんじゃないか」
 なんて、よく分からない会話をしばらくしてから、取りあえず山の方へ進んでみた。
 入った森の中では、木漏れ日がキレイに差してくる。
 だけど時間がたつにつれて、森はどんどん深くなり、道も暗くなってきた。
 満月のおかげで、景色が見えるのは助かるけれど。
「さあ、今夜はこの辺りで野宿だ。ココならば不穏な輩も出てくるまい」
「うん。そうだね」
 そういえばコイツ、町でも休もう休もうって騒いでたな。
 ぼくは別に、そこまで疲れてるわけでもないんだけど……。
 と思ってたわりには、いざ野宿の支度を始めたら、急にお腹がすいてきて。
 これなら宿に泊まれば良かったと少し後悔。
 今日の食事は結局、アナランドで用意してきたパンとチーズ。
 正直、こんなノンビリとしてていいのかとも思うけど。
 この先もこんな風に過aごせる保証なんて無い。
 ぼく達は代わる代わる、たき火の番をしながら眠りについた。
 朝起きたら、エッジはコウモリを追っぱらうのに苦労したと報告してくれた。



第6話「続・分岐点」

 また分かれ道に着いた。
「良かったなニック。待望の道しるべだぞ」
「………………絶対にワザと言ってるだろ。ソレ」
 道しるべと言っても、「こちらへどうぞ」なんて優しい代物じゃない。
 いわゆる、首狩り族の戦利品が、これでもかと陳列されてる杭の群れ。
 そうかなるほど、この辺にお住まいなんですねえ……っていうか……。
「コワイよ! 普通ないよコレ! 子供が見たら泣くよ!」
「怖いと思うから怖い。そもそもコレは普通の旅でない。それに我々は子供ではない」
「しれっと冷静に答えるなよ! ……って、おまえに言ってもムダか」
「分かればいい」
 分かってないけどもういいや。
「じゃあ、とにかく行くよ。出来ればもう、登り道はカンベンしてほしい……」
「………………………………」
「……けど、いいです。登ります」
 ぼくは、がくがくとうなずいて歩きだした。
 何だよもう。何でにらんでくるんだよ。何で剣の柄なんか握ってるんだよ。
 でも、まあ、言いたい事は分かる。
 山の頂上まで登ると決めたからには、最後まで登る。
 そういう事でいいんだろ?
「…………世話が焼ける」
 小声で何か言われたけど流した。
 また話が長引いたら、大変だから。



第7話「モンスターの鉱山」

 肩で息しながらも、山の頂上まで登りきった。
 てっきり誰もいないと思っていたのに、ガションガションと機械のような音が聞こえてくる。
 そっと木陰から覗いてみたら、大勢のゴブリンが洞窟の壁を掘ってたり、大きな石を運び出してたり。
「どうやら、ココはシャンカー鉱山の近くのようだな。
 だが、山のこちら側では確か、鉱脈が尽きたという噂だったが……?」
「もしかしたら、モンスター達は鉱脈を見つけられたのかもしれないね」
 自分で言ってみてから、むくむくと好奇心が湧いてきた。
「なあ、ちょっとだけ探検してみないか? 意外なお宝が見つかるかも」
「一理あるな」
 アッサリと賛成をもらえのは意外だった。
 ぼく達は、作業に忙しいゴブリン達の隙を狙って、洞窟の奥へ忍びこんだ。
 すると、またもお約束。分かれ道だ。
「せっかくだから、ぼくは左の道を選ぶよ」
「というより、その左手を壁から離したくないだけだろう。キミは」
 仕方ないだろ。迷わないためにはコレが一番なんだから。



第8話「ゴブリンを倒せ」

 どんどん進んで、見つけた部屋の扉を開けて。
 その中に入ってみたら。入ってた。
 工場長として(?)住んでるゴブリンが。
「誰ダ、オマエ?」
 部屋が暗いおかげか、ぼく達が人間だって事はバレてないようだ。
 エッジはゆらりと剣を構え――ぼくに切っ先を向けた。
 ギョッとして後ずさったぼくに、エッジは首をかしげて訊いてきた。
「どうした? 早く蜜蝋を塗ってくれ」
「? ……あ!」
 言われて思い出した。
 ぼくはエッジの剣の刃に蜜蝋を塗りつけてから、呪文を唱えた。

「RAZ――!」
 コレは武器の攻撃力をあげる術。
 魔力をもった剣は、淡い光を放って輝きだす。
 こうなったら、戦いはもうこっちの物だ。
 って、よく考えたら、コレって犯罪みたいな事してるよね。
 他人の家に入りこんどいて暴れてるんだから。
 まあ、こっちも生きるためには割りきらないと。
 ともあれ、倒したゴブリンの部屋を調べると、銀の鍵が見つかった。「111」と刻まれている。
 見ると、ちょうど上手い具合に、次の通路に続く扉があった。



第9話「すべては下へ

 あいにくと言うべきなのか。見つけた鍵は、見つけた扉の物じゃなかった。
 扉には鍵はかかっていなかったから。
 扉を開けて首を出してみると、この先の通路は完全に真っ暗闇だ。
 ぼくは目を閉じて、思い当たった呪文を唱えた。

「SUS――!」
 魔力で意識を研ぎ澄まし、ココから進むとどうなるかを探りだす。
 それで頭の中に浮かんだのは、「下」というイメージ。
 ……って事は、この先は下り坂って事なのかな?
 ぼく達は、そろそろと慎重に足を進めていった。
 歩くうちに、通路の天井は少しずつ低くなっていった。
 土ぼこりがパラパラと、かがめている体の上に落ちてくる。
 もしかしたら、ぼくが感じ取ったのは「頭を下へ持っていく」って意味だったのかもしれない。
 そう。残念ながら、ぼくがさっき使った呪文は、ちょっと使い勝手が悪いんだ。出る結果にムラがある。
 本当はもっとハッキリした答えを教えてもらえれば助かるんだけど……。
 気がつくと、道はすっかり狭くなってしまっていた。
 このまま進んでも収穫はなさそうだ。
 ため息をつきながら、回れ右しようと思った時だった。
 ぼくは、「下」という言葉が何を表していたのかを知った。



天井が下に落ちてきたのだ。



第10話「落ちてもタダでは起きません」

 洞窟の天井が落ちてくる。


 どんなに信じたくない出来事でも、信じるしかないのがこの現実。
 ぼくは我ながらよく分からない叫び声を上げながら、ひたすら前へと走った。
 とにかく、落盤してこない場所までたどり着かないと。
 そう思った矢先、さらにトンデモナイ事態が発生。


 洞窟の床が抜けた。


 ぼくは同時に呪文を唱えていた。

「FAL――!」
 魔力で包まれた自分の体が、ふわりと羽のように軽くなる。
 ぼくは身をひるがえし、ひざまずく姿勢で、下の階の地面へと下り立った。
 直後にエッジも、ぼくと同じ姿勢で、ただしぼくより勢いよく着地した。
 ホント、身のこなしの軽い奴はいいよなあ。何やっても様になるから。
 二人で首を巡らせると、外への通路が見つかった。光が差してくる。
 早いトコ脱出しようと立ちあがった時、柔らかい物が指先に触れた。
 手に取ってみると、それは毛皮の長靴だった。
 ボリン皮で作られた丈夫なのが1足、キチンとそろっている。
「へえ、結構いい作りだな。後で、はいてみようっと」
「……まさか、このような時にまでアイテムを見つけるか。執念だな」
「転んでも落ちても、タダでは起きたくないもんね。少なくともぼくは」
 あきれ顔をしているエッジに、ぼくは歯を見せて笑ってみせた。



第11話「旅先での会話」

 こうしてぼく達は、ゴブリンの鉱山を後にした。
 工場長(たぶん)の倒れた鉱山は、これからどうなるんだろうか。
 下働きのゴブリンだけになったら、彼らの遊び場になっちゃうかも……。
 頂上まで登った山を、今度は下りる。
 程なくして、クリスタタンティの村に到着した。
 ちなみに、この村の人々は皆、髪を伸ばして結っている。独特な風習だ。
 どうやら今夜は野宿じゃなくて、きちんとした宿屋に泊まれそうだ。
 今日はたくさん呪文を使って、神経集中したから、ゆっくり休みたい。
 だけど、すぐ寝るのもモッタイないんで、情報収集も兼ねて酒場へ。
 お酒で口を湿しつつ、物知りそうなおじいさんの隣に座った。
 無難に季節の話から始めて。おじいさんの機嫌をうかがって。
 ただいま冒険中なんですよーと、さりげなくアピールして。
 取っておきのジョークがウケたのは嬉しかったな。
 その甲斐あって、おじいさんは帰り際に、役に立つ話を教えてくれた。
「旅の方。この先にはアリアンナの家への道と、大きな者たちの住むリー・キへの道がある。
 あと、それから、コレを持っていくといい」
 渡してくれたのは、栄養満点のボンバの木の実だった。
 食事のお供に最適ってやつ。
 やっぱり、旅先での会話って大事だね。



第12話「カレーの注意」

 宿屋のシチューは、ちょっと臭いがきつかったけど美味しかった。
 その翌朝、宿屋を出た次は、どっちの道に行こうか考えこむ。
 鉱山の洞窟でうまくいったから、今度も左に曲がろうかな。
 そう決めて足を踏み出したら、不意に肩をつかまれた。
「進むのは、右の方がいい」
「え……?」
 エッジは深刻な顔で、もう片方の道を行こうと、ぼくに訴えた。
 実を言うと、昔からこういう出来事はしばしば有った。
 魔法使いが水晶玉を使うように、彼には未来が“視える”時があるらしい。
 ある種の魔力じゃないのかと尋ねた事もあったけど、その度に難しい顔で黙りこむから、
今も確かめられてない謎だ。
 結局、ぼく達は右に進む道を選んだ。
 すると、その道端で、盲目の物乞いに呼び止められた。
 その閉じているまぶたには、真っ黒な染料が塗られている。
 同じく通りかかった馬車にも未練を感じながらも、金貨を1枚投げてやった。
「何だって! こんな高価な物をくれるなら……代わりにコレを」
 物乞いは、ぼくに銅の鍵を渡してくれた。「206」と刻印されている。
「俺は昔、カレーの町に住んでいた。
 あの町に行ったら『赤目』の連中に気をつけな。
 俺みたいな目になっても知らないぜ。
 もし番兵に捕まったら、その銅の鍵で何とかなるよ」
 話が終わった後、ぼくはエッジに尋ねた。
「……カレーって何だっけ? 食べ物?」
「れっきとした地名だ」
「でも妙に美味しそうな名前だと思わない?」
「そうか?」
「きっとシチューの親戚みたいなやつでさ。とっても香ばしくって……」
「だから地名だと言っているだろう」
 冗談の通じない奴だなあ。




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