第二の冒険 魔の罠の都

第25話「南門の前で」

「この南門からが、城砦都市ことカーレの領土だな」
「あれ? この町の名前って『カレー』じゃなかった?」
 ぼくが尋ねると、隣の戦士は、なぜか困ったような顔で黙りこむ。
 相変わらず、よく分からない奴だ。
 とにかく、ぼくの知っているカレーの町は、一言でいえば「無法の楽園」。
 どこよりも開放的である一方、犯罪者の溜まり場にもなっている、魔の罠の都だ。
 ぼく達の目的は、このカレーの町を南から北へ突っ切る事。
 大いなるジャバジ河を安全に渡るには、コレしか方法がないんだ。
「そういえば……ニック、キミ宛てに昨日、矢文が届いていたぞ」
「やぶみ?」
「今も、キミの背中の荷物袋に刺さっている」
「そういう事は早く言えよ……」
 物騒な話にあきれながら、ぼくはその矢文とやらを読んでみた。

『拙者、本日カレーの町に到着し候。
 再会せし暁には、ゆめゆめ合言葉をお忘れなく。フランカー』

 ぼくは頭に手をやって考えこんだ。
「合言葉って何だったっけ?」
「シャムタンティで襲われた時、彼が言っていただろう」
「っていうか……フランキーって誰だったっけ?」
「自分が命を救った相手を忘れるな。第一、彼の名前は『フランカー』だ」
「あ。いや、冗談だよ冗談」
 って、あながち冗談でもないんだけどね。どんな顔してたっけあの人……。



第26話「四人の有力者」

 スヴィン族の族長さんから受け取っていた鍵で、ぼく達はカレーの南門から、町の中に忍びこんだ。
 少し進むと見えてきたのは、石造りの建物。
 その中では、おじいさんが一人、長椅子で休んでいる。
 あいさつしようと入ってみたら、後ろで扉が乱暴に閉められた。
「今閉めたのは衛兵だよ。旅の方。許可が下りるまでココからは出られん」
「そんな……。ぼく達、一刻も早く、この町の北へ抜けないといけないのに」
「ほう、となると魔法使いという事だな。例の呪文を知っておられるのか?」
「呪文? ソレ、どういう事ですか?」
「おや、さては何もご存知ないのか。ならば教えて進ぜよう」
 おじいさんの話によると、この町の北門は、呪文で封印されているのだそうで。
 呪文の全文を知っているのは、今は旅に出ている第一貴人のサンサス、ただ一人。
 後は、この町にいる四人の有力者それぞれが、呪文の一部分だけを知っているのだという。
 つまり、ぼく達は、町の有力者たちから、その呪文を何としても聞きださなければならないわけだ。
「確か、有力者の一人は学者だったはずだ。……この話、お役に立てれば良いが」
 そうと分かれば、さっそく行動。
 ぼくは
「DOP」の呪文を唱えて、おじいさんと一緒に、衛兵の詰所から逃げ出した。
 どうか、他の人たちに見つかりませんように……!



第27話「話しかけども……」

 北門を目指すなら、北に行けばいいけれど。
 四人の有力者も探さないといけないし。
 そう考えながら、さまよっているぼく達は、道に迷う一方で。
「一体全体ドコなんだろ……ココって」
「カーレの入口付近だな。いまだに」
 ……コイツに尋ねたぼくがバカだった。
 もういい。道に迷ったら左に歩く。それが、ぼくのやり方だ。
 そう決めて歩きだした途端、出くわす衛兵。
 見つからないよう、慌てて隠れた家には、三人のダークエルフが住んでいた。
 部屋には、変に甘ったるい匂いの煙が立ちこめている。
 水煙草で盛り上がってる最中なんだ。
 ぼくは鼻を押さえながら隣を見た。
 ぼく以上に煙にやられたエッジが、それこそ死にそうな顔で倒れそうになってるのに気がついて、
家から飛び出した。
 その後、ぼくは池に泳ぐ魚を見かけた。
 顔を近づけると「ぐぼおだばび」とか何とか言っているみたい。
 その後、ぼくはお馬さんを見かけました。
 ぼくは、お馬さんにごあいさつをしました。
 ぼくは、おうまさんと、おはなしを――――――――痛ってェ!!!
「何だよエッジ、いきなり頭たたくな!」
「今頃になって水煙草に酔っぱらってるのを放置しておいて良かったと?」
「へ?」
 言われてみれば何か、痛い以上に頭がボーッとしてるような……。
 でも、だからって、手刀を食らわす事ないと思うんだけどな。ううう。



第28話「おかいものパート3」

「降参!」
 ぼくは両手を挙げて、エッジに頭を下げた。
 ただでさえ方向音痴なぼくが、水煙草に酔っぱらってフラフラ歩いたせいもあって、
もう完全に迷子になってしまっている。
「今度は、おまえの行きたい方に行くよ。
 そうでもなきゃ、同じ所を永久にぐるぐる回ってそうだもの」
「そうか」
「どっち行く? 左? 右?」
「北」
「いや……、だからソレが分からないから困って」
「こっちだ」
「え!?」
 何で? 何で分かるの?
 面食らいながらも付いていくと、確かにだんだん大通りっぽい街並みになってきた。
 ただし、建物がどれも小さい。住むには、ちょっと窮屈そうだ。
 その疑問の答えは、道ゆく人たちを見た時に分かった。
 ココはドワーフの住んでいる地区なんだ。
 そこで見つけた雑貨屋さんで、ぼく達は必要な物を買いこんだ。
「何はともあれ、まずは食料だね!」
「この蜂の巣は、蜜蝋が多そうだ。これならば旅の最後まで使える」
「わ! 見てコレ。ビンの中身。海の砂だよ。サラサラしてる」
「ニック。我々はあくまでも、国を救うためにだな……」
「分かってるよ。この砂も立派な魔法の道具なんだってば」
 出来れば、最後まで使わずに取っておきたいのが本音だけどね。



第29話「彫像のある家」

 かやぶき屋根の家の前。
 ぼく達がソコで足を止めたのは、不思議な形の彫像が立っていたからだ。
 まるでお祈りでもしているように、両手と両腕をぴったりと合わせている男の像。
 その首には、金細工のロケットペンダントが飾られている。

 「SUS」の呪文で確かめると、「家の中は安全、彫像は危険」という暗示。
 それならと家の中に入ってみて――ぼくは自分の魔力を疑った。
 部屋の中に散らばっている、骨、ほね、ホネ。
 明らかに、ぼく達と同じ冒険者のそれも交じっている。
 ココは、モンスターの住みかなんだ。
 思わず唾を飲んだ時、コツコツという物音にぼくは飛びあがった。
 敵かと慌てて振り仰ぐと、音の主はエッジだった。
 なぜか長剣を使って、タンスの開きかけの引き出しをいじっている。
「………………何やってんだ?」
「鉱山でのキミの言動を参考にした。今回は“意外なお宝”が見つかった。
 金貨と……それからコレは骨製の腕輪だな」
「と、とにかく出るよこんなトコ!」
 そそくさと家から出た後が、また大変だった。
 さっきまで家に背を向けていたはずの彫像が、今はこっちを向いている。
「この像……実は生き物のようだな。こちらから動いたら、死ぬぞ」
 簡単に言うなよ……。
 ぼくは後ろ手で印を結び、呪文を唱えた。

「LAW――!」
 コレは、知性の低い生き物を操る術だ。
 像はぐらりと揺れて、台座から下り、ぼくに大人しく頭を下げた。
 ぼくは、像の首からロケットペンダントを抜き取った。
 像を元通りの位置にしてから、ぼく達はそろそろと家を後にした。
 ちなみにロケットペンダントには、魔法に使える「太陽石」が入ってました。



第30話「フランカー再び」

 二人で交互に道を選ぶうち、にぎやかな音と声が聞こえてきた。
 ぼく達が近づくにつれて、その正体が分かってくる。
 色とりどりの天幕。大勢の人々。
 ココは、お祭りの会場なんだ。
 踊り子たちがくるくると踊っていたり、紐でつながれた熊が曲芸をしていたり。
 眺めているうちに、あちこち見物したい気持ちが湧いてくる。
「なあ、エッジ。ちょっと」
「寄り道をしているような暇は、我々には無いぞ」
 けち。
 だったら、こんなトコに長居しても仕方ないと思った時、スゴイ人を見かけた。
 全身黒ずくめ、おまけに刀まで帯びているくせに、あんな陽気にはしゃいでる人なんて、
普通は居ないと思うよ、ぼくは。
「……出たな」
 エッジが一言つぶやいた。
 確かにアレなら、ぼくでも分かる。フランカーさんだ。
 近寄って、決めておいた合言葉で呼ぶと、相手はますます上機嫌になった。
「おお、我が強敵(とも)よ! 拙者と同じく、祭りに馳せ参じられたか!」
「あ。いやその。ぼく達、今、北門の呪文を知ってる人を探してるんですが」
「ほう、北門の呪文か。さすが事情通よな。
 その件ならば、我が知人である、長老ロルタグが知っているやもしれぬ。案内して奉ろう」
 相変わらず変な話し方するフランカーさんに連れられて。
 ぼく達は、町はずれへと向かった。



第31話「ルーン文字を解け」

 教えてもらった家にある、凝った作りのノッカーで扉を叩くと、落ちついた物腰の男性が現れた。
 その足元には、トカゲめいた生き物が、ペットのように寄り添っている。
「君がフランカーの友人か。……やはり、物騒な物を持っておられるな」
 まあ、確かにね。
 ぼく達は、ロルタグさんの頼みに従い、武器を戸口に置いてから、家の中へと入った。
 招かれた部屋は、ロルタグさんの書斎だった。
 何でも、ロルタグさんはこの町を住みよくしようと努力してる最中だそうで。
 近所の子供たちに勉強を教えたりもしているんだとか。
「それで……あの、北門の呪文なんですけど」
「ああ、一節で良ければ知っている。必要ならば教えて差し上げよう。
 ただし、私が今取り組んでいる研究を手伝ってくれればだが」
 そう言われて見せられたのは、ズラズラと記号の書かれた紙切れたくさん。
「今、このルーン文字を正しい順に並べているのだが。
 最後の1枚が分からんでな。この4枚の候補から、お選び願いたい」 
 え。そう言われましても……。まいったな。
 もっとミア先生からキチンと習っておけば良かったよ。
 頭を抱えそうになったぼくのその手を、エッジが不意に引き寄せた。
 握らされた1枚の紙を、よくよく他と見比べて……それで思い出した。
「ちょっと待ってください。どれも一見似てるけど……
 コレ以外の3枚は、そもそもルーン文字じゃない気がします」
「ほう、そうかね! ……ふむふむ、そうか、なるほど。そういう事か」
 何やら独りで満足したらしいロルタグさん。
 約束通り、呪文の一節を教えてくれた。
 『封印されたる二本の軸よ』……というそうだ。
 それからお礼の品として渡してくれたのが、緑色の毛のかたまり。
 多分カツラとして使うはずだ。
 ……念のため言っとくけど、あくまで魔法の道具としてです。あしからず。



第32話「炎の芸術」

 今度は工芸展のような場所に行き当たった。
 焼物、織物、絵画などなど、数々の芸術品が並べられている。
 その中でぼくが惹かれたのは、次々と色を変えて燃えている炎だった。
 発表している職人さんは、特別な石を火にくべる事で、こうしたキレイな色を出すのだと説明してくれた。
「取っておきの作品があるんですよ」
 そう誘われて入った家の奥では、ひときわ大きな炎が燃えさかっていた。
 だけど、近づいてもちっとも熱くない。
 それに炎の中心には、何やら小さな箱が(燃えずに)据えられている。
 気になったぼくは、こっそり呪文を唱えた。
「MAG――!」
 魔法攻撃を中和する術をまとってから、炎の中に手を差しこむ。
 取り出した箱の中には、金貨と、それから金縁の鏡が入っていた。
「あのー、どうかしました?」
「!」
 いけない。バレたら一大事だ。
 ぼくは、職人さんのヘソクリを懐にしまってから、愛想よくあいさつしてお別れした。



第33話「お祭り参加」

 その後ぐるぐる巡っていたら、またも着いてしまったお祭り会場。
「もうコレは運命なんだよ。このお祭りを見なさいっていう、リブラ様のお導きなんだよ。うんうん」
「……それはある種、間違ってなくもないと言えなくもないが……」
 遠い目をしてため息をつくエッジを横目に、ぼくは一番大きな人ごみに近寄っていった。
「さあさあ、張った張った! 連勝のチャンピオン・オーガのカグーが勝つか、
勇敢なチャレンジャー・バーバリアンのアンヴァーが勝つか!?」
 うわ。コレは闘技場での賭け試合だ。盛り上がってるはずだよ。
 対戦する二人自身も、勝った方には賞金がもらえるらしい。
 どうなる事かと見ていたら、オーガがみるみるうちにバーバリアンをねじ伏せて、
また次の挑戦者を募る段になった。
「なあ。この試合、おまえなら勝てるんじゃないか?」
「というよりも、あれしきの相手、キミでも何とかなるはずだ」
「え、そんな事ないよ…………って、うわわああッ!?」
「皆さん! 次なるチャレンジャーが現れました! 見たところ魔法使いのようです!」
 ち、違います、違います、違うんですー!!
 エッジに押されて闘技場のリングに送りこまれたぼくは、半分パニック状態。
 だって、ただでさえ(呪文で)体力は減ってるし、そもそもぼくは直接の戦闘が得意じゃないのに。
 でもまさか、今更ココから逃げ出すなんて出来るわけがない。
 ぼくは小剣を手に、それこそ死に物狂いで戦った。
 それで何とか、オーガをよろめき倒した時には、ぼく自身も、もう死にかける寸前の状態だった。
 まあ、確かに勝てて賞金ももらえたから、まだ良かったものの、いくら何でも、こんな所で力つきたら
シャレにならない。
 ……買いかぶりすぎなんだよな、エッジは……。はあ。



第34話「ヴィクの助け」

 闘技場での賭け試合に、命からがら勝利して。
 勝った以上はチャンピオンとして次の試合に出てほしいと頼まれたけど、それは無理ですと断った。
 体力の限界も理由だったけど、こんな会話が聞こえてきたからだ。
「今の対戦、なかなか見物(みもの)だったなあ、ヴィク」
「ああ、あの魔法使い、最後は紙一重で避けてたぞ」
 ヴィク。グランドラゴルさんの友達。カレーでの顔役。
 ぼくはリングから離れると、早速ヴィクさんに事情を話した。
「北門の呪文を知りたいのかい?
 それなら、この先をまず左に曲がって、それから右に曲がるといい。
 一節を知っている人の所に着くはずだ」
 左→右……ね。覚えたぞ。
「もう知っているとは思うが、この町は危険に満ちている。
 ゴロツキどもに絡まれたら、私の名前を出しなさい。
 特に私の弟は厄介だからな。関わらないで済む事を祈っているよ」
 って……そんな真顔で言われると、何だか妙に心配になるんですが。
 ともあれ、ぼく達はお礼を言ってから、お祭り会場を後にした。



第35話「幸運の箱」

 お祭り会場を後にした……その前に。
 ぼくは天幕の一つに掲げられている看板が気になった。

《幸運の箱:金貨2枚》

 覗いてみると……
「いらっしゃいいらっしゃいいらっしゃい! 正直ハンナの『幸運の箱』にようこそですぞー!」
 ……やたらテンションの高い商人に出迎えられた。
 奥を見ると、置かれているのはガラス製の大きな箱。
 その中には、大小さまざまなカラフルな小箱が積み上げられ、
 その間を小さな妖精が飛び回っている。
 ぼくは料金を払って、指示された箱のボタンを押した。
 すると、妖精がひらひらと箱の上を舞い始めた。
「左上」
 ぼそりとエッジの告げる声。
 え?と思わず後ろを向いた時、コトンと小さな音が耳に届いた。
 首を前に戻して、驚いた。
 妖精が選んで、ガラスの箱から外に落としたのは、まさしく左上に積まれていた小箱だった。
 さあ、果たして当たった景品は………………。

 骨製の腕輪。

「あの。確かコレ、おまえが家探しして見つけたのと同じなんじゃ……」
「多くあって困る物でもないだろう。受け取っておきたまえ」
 はて。コレって運がいいんだか悪いんだか。微妙だ。



第36話「算数は得意でした」

 ヴィクさんに教えてもらった順路をたどると、礼拝堂に着いた。
 その中では、司祭様による集会が開かれていた。
「さあ、我らが神・スラング様の試練に挑みたい者は他にいるか?
 我が問いに答えられし者は、いかなる願いも叶えられよう。
 されど答えられざる者は、スラング様に帰依せねば呪いがかかるぞ」
 何だか面白そうと思ったぼくは、司祭様の試練とやらに受けて立った。
「ニック……まさかキミは、リーブラへの信仰を捨てる気か?」
「それは、問いに答えられなかったその時に考えるよ」
 挑戦が始まる。
「長老の大足(ビッグフット)は、南に3ハロン歩いて大麦をまき、東に2ハロン歩いてトウモロコシをまき、
北に5ハロン歩いて小麦をまき、 南東に4ハロン歩いて青草をまいた。
 さて問題。
 ………………………………その長老の好きな色は何でしょう?」
 ……はい?
「という世間話は横に置いときまして」
 司祭様が言った途端、どっと礼拝堂の皆さんが笑い転げる。
 あの、ええと、今のはネタですか? 笑いどころなんですか? あのその。
「アナランドの人にお尋ねしたいのはこの問いだ。
 長老の大足(ビッグフット)には、6人の息子がいる。
 長老はその息子たちに、財産を厳密に分けようと考えた。
 下から2番目の子には金貨5枚。長男には13枚。下から4番目の子には9枚。
 さて、長老は全部で、いったい何枚の金貨を持っているのでしょうか!?」
48枚」 (←答えを知りたい方は反転を)
 ぼくが即答した瞬間、おおおおお!と歓声が上がった。
 てゆーかコレ、ごく初歩の算数だよね? こんなんでいいの?
 ともあれ、問題を解いたごほうびとして、呪文の一節も無事に手に入れた。
 『かけて命じる、いざ開門』……というそうだ。
 ところで。あの司祭様、どうしてぼくがアナランド出身って分かったのかな?
 それが一番の謎だよ。




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