司る神に問う。

深い森の中にある、その洞窟を見つけたのは、もう10年も前になります。
その洞窟の一番奥には、透き通った箱が置かれています。
それは氷の棺です。

棺には、一人の女が伏しています。
白い衣をまとった姫君が。
彼女は目を閉じ、手を組んで、安らかに眠っているようにさえ見えます。

ですが、よく見れば分かります。
彼女の胸を見てみれば。
眠っているのは道理です。
黒く深く、穿たれている穴からは、今も止めどなく赤い物が溢れています。

彼女は本当は、死んでいるのです。
それなのに、彼女からは血が流れ続けるのです。
その洞窟を覆い隠す、深い森の糧として。

そんな彼女の棺の前に、もう一人の男がひざまずいています。
長い剣を帯びた戦士が。
彼は剣を持ち、身動ぎもせず、慎ましく祈っているようにさえ見えます。

ですが、よく見れば分かります。
彼の姿を見てみれば。
動かないのは道理です。
彼はひざまずいたまま、剣に手をかけたまま、石と化しているのです。

彼は本当は、姫君を救おうとした勇者でした。
それなのに、氷の棺を壊そうとしたその時に、彼は姿を変えられたのです。
天から落とされた、雷(いかずち)を受けて。

彼らの行く末を知った時、私は泣いて暮らしました。
何度も何度も洞窟の入り口で、悔し涙を流しました。
やがては洞窟に近づく事さえ、恐ろしくなっていきました。

彼らは誰の手も届かない所で幸せになっていると信じていたのに。
生きる事も、また死ぬ事も出来ないまま、彼らはずっとそこに居ます。
これは果たして美談ですか?
崇め奉られるような事ですか?

お願いします。
彼らを解放して下さい。
もしもあなたに本当に、天使の心があるのなら。





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