事件0『ジェットコースター殺人事件』(第1巻)



この事件の説明は、一言で足りる。

「『金田一少年の事件簿』のパターンのパロディである」と。

主人公は、探偵としての推理力を誇る17歳男子、高校2年生。
当然、刑事とも仲が良かったりする。
同い年で幼なじみでクラスメイトの女の子とも仲が良かったりする。

そんな主人公と幼なじみが、出先で殺人事件に巻きこまれる。
主人公は刑事と協力して事件を華麗に解き明かす。

と、ここまで類型的・典型的な設定である事には理由がある(と思う)。
何せ、主人公はこの殺人事件の後、空前絶後のトラブルに遭うわけだから。
(始まりこそ、物凄く小じんまりとしてますが)
そんな彼の背景は、逆に分かりやすく描かれるのが自然なのだ。

けれども。そんな主人公である工藤新一の性格が、
フツーのミステリ世界から相当にぶっ飛んでるというのもまた事実。

例えば、逃げる犯人を捕らえるためとは言え、
地球儀を使って
取りあえず蹴り倒すって行動はいかがなものかと。
探偵以前に人として(汗)。

探偵をやる目的も、この時点では、正義や真実のためでない。
自分の名声や興味のためと言いきってる様は、見ていていっそ清々しいほど。
正統派主人公というより、ダークヒーロー一歩手前だ。(←ほめてます)

そんな主人公に対抗する、相方の蘭だって負けてない。
笑顔で電柱破砕ですから。器物損壊ですから。
「可愛い顔して力持ち」の言葉が相応しい、
このアンバランスな描写に、当時は逆にリアリティを感じた。
(連載が進むにつれて、か弱い優しい部分がどんどん強調されていきますが)

なお、肝心の殺人事件のトリックは、後の作風とは似ても似つかぬ豪快な物。
あんな雑技団も顔負けの芸を見せてくれた犯人は、体操よりも、
アクロバットサーカスなどの道を目指してくれないかと思ったものである。



事件1『社長令嬢誘拐事件』(第1巻)



工藤新一とは違う「江戸川コナン」誕生の回。

蝶ネクタイ・ブレザー・半ズボンの七五三ルックに伊達眼鏡という、
彼の基本的な外見がココで完成する。

まだ身元が落ち着いてない事もあり、
毛利父娘に気に入られようと振る舞うコナンは、ことさら可愛くて仕方なく。
(そのコナンに新一への思いをノロける蘭もまた可愛いんだなコレが)

そんなコナンが初めて挑むのは、
異なる犯人によって、同時に二重に起こってしまった誘拐事件。

工藤新一としての権力もなければ、江戸川コナンとしての探偵アイテムもまだ持ってない、
ないない尽くしの無力状態で、コナンは戦う羽目になる。

けれど、だからこそ、この事件でのコナンは一生懸命の全力投球。
犬のジャンボと共に走り回り、息を切らし、
挙げ句に犯人に殴られる様は、ある種、健気なヒロイン状態。

その一方で、そのコナンを護る蘭も一生懸命。
凶悪犯を倒すためとは言え、ハッキリ言って殺す勢い。
あの暴れっぷりは、人型兵器と呼んでも過言ではないかもしれない。

なお、この事件では、重要な伏線がいくつか用意される。
「蘭の母親はどこかに逃げている」「新一の両親はアメリカに住んでいる」
特に後者は、記憶に留めておく必要があるのです。



事件2『アイドル密室殺人事件』(第1巻)



コナン・蘭・小五郎の三人で事件に挑むという基本フォーマットの、
言ってみればプロトタイプにあたるのが今回の事件。

この時のコナンはまだまだ、新一時代の癖が抜けず、
手探りで子供のふりをしている状態。
懸命に、それでいて自然にヒントを出す姿はもう、殺人的な愛らしさだ。

ただし、この時のコナンが持っている探偵アイテムは、
音声のみの万能変装機である「蝶ネクタイ型変声機」のみ。
まだ小五郎を眠らせる手段がないため、コナンが取った手段は、
後頭部に灰皿を蹴りつけて昏倒させる事なんだから恐ろしい。
お前はホントに名探偵を名乗る資格あるんかいと、
私は問いつめたくてならない。

なお、殺人事件そのものへの意見としましては。
一見悲恋めいた美談として扱われているが、
実のところは、昼ドラも真っ青のドロドロ愛憎劇じゃないのかコレと思ったり。

しかしながら、この事件を『コナン』の歴史から外す事は決して出来ない。
この事件の真骨頂は、エピローグにこそ有るのだ。

スキャンダルを乗り越えたヨーコを見つつ、新一への思いを抱えて独り震える蘭。
そんな蘭に、近所の公衆電話(!)から励ましの言葉をかける新一(コナン)。
彼ら二人の、近くて遠い恋愛劇は、まさしくここから始まったのだ。



事件3『赤鬼村火祭り殺人事件』(第2巻)



連載初期の事件たちは、そろって密度が濃い。

今回大きいのが、コナンの小学校生活の始まり。
新一の知人である阿笠博士の計らいで、コナンの新生活は着々と固められていくわけだ。
ただ、些細な点かもしれないが、戸籍も住民票もないコナンが
小学校に転入できたのは純粋に謎である。

そんな怒涛の展開であるせいか、逆に事件そのものは極めてシンプル。
ゲストキャラは、アリバイトリックを仕掛けた犯人と、
その犯人が殺した被害者しか出てこない。
というか、実質的には犯人ただ一人しか登場しない。
トリックの性質上、本当はもう一人存在するはずだが、
その人物は名前も素性も一切明かされない謎の人だ。

トリックが判明する流れもシンプルだ。
しかしながら、
写真が事件の糸口になるというのは、連載当時としては画期的だった。
小説でも動画でも不可能、静止画である漫画だからこそ可能、
という描写は見事だったと言える。

そして終盤は、完全にコナンの独擅場。
事件の謎を解き明かし、果ては犯人の捕縛まで、人知れずやってのける。
ただし、校庭の大木をも破壊するシューズの力で、
車のタイヤで蹴り倒す(!)という、明らかに尋常ではないやり方で。

この時代のコナンはスマートな探偵というより、
変身ヒーロー、あるいは必殺仕事人とでも名乗った方が相応しいかもしれない。



事件4『奇妙な人捜し殺人事件』(第2巻)



死を意味する不吉な数字、「4番目」の事件。

行方不明の男性を探し求める話……と思わせて。
実は少女・広田雅美を探し求める話……と思わせて。
本当の本題は、最後の最後。
埠頭での、
宮野明美のエピソードこそが本命である。

新一の姿を変えた「奴ら」の再登場。
ジン(※この時点ではまだ呼称不明)の左手に構えられる銃。
妹を遺して命を散らし、物語から“退場”していく明美。

結論を言えば、結局この事件は解決されないまま終わってしまう。
表向きは、明美が全ての主犯であると片づけられてしまう。
真犯人が罰される事なく、死体だけが次々と並んでいく様は、『コナン』としては異色だ。

個人的には、この明美というキャラには思い入れがある。
まだ新しい姿に不慣れなコナンが唯一、「工藤新一」と名乗った彼女。
その「新一」に全てを打ち明け、組織の壊滅を託した明美の心中は、いかなる物だったのか。
そもそも彼女は、“誰”に向かって話しているつもりだったのだろう。
自分と無関係な7歳の子供に話しているとは、私にはとても思えないのだ。

そんな思いが高じて、こんな二次創作をまとめた、かつての当方だったりする。

最後に、この事件で一番印象に残っている台詞。
明美を追うべく、タクシーの行列に割りこもうとした蘭の言い訳。

「父が雪山でバラバラ死体で生き埋めになって、 早く行かないと間に合わないんです!!!」

何度読んでも笑える。



事件5『幽霊屋敷殺人事件』(第2巻)



「少年探偵団もの」のプロローグに当たるエピソード。
そのじつ、小学生トリオの歩美・元太・光彦は、
まだ「少年探偵団」を名乗っていない。
勇者や戦士など、ファンタジーRPGのパーティに例えている。

そんな彼らが挑むのは、近所にある「幽霊屋敷」への探検。
(私たち読者の大抵も経験あるだろう。私も空家探検したもんだ)

ただしこの時点での彼らは、まだまだチームワークも固まっていない。
(コナンを含め)めいめいがバラバラに独り勝手な行動を取ってしまう。
それでその結果、更に事態が悪化するという悪循環。

もっともこの事件は、論理的に謎を解く事よりも、
コナン達(と読者たち)の恐怖心をあおる事の方に主眼が置かれている。
そのため子供たちが一人ずつ消えていってしまう展開は、むしろ効果的と言える。

事件の真相で明かされる、母子の関係もまた、歪みきっている。
もしコナンが彼らを諭さなかったとしたら、
それこそ恐ろしい惨劇が引き起こされた可能性も高いだろう。

そして最後はお約束。
小学生トリオが第二の「幽霊屋敷」を見つけて終わる。
この家に乗りこむエピソードを、連載当時は期待したが、
結局そのような展開にはならなかった。

よって原作では、
小学生トリオと新一の間に接点がない
序盤で既に面識をもっているアニメ版とは、設定が明確に異なるのだ。



事件6『旗本家連続殺人事件』(第3巻)



コナン・蘭・小五郎が偶然に巻き込まれる最初の事件。

「蝶ネクタイ型変声機+時計型麻酔銃=眠りの小五郎」
という方程式が生まれた最初の事件でもある。

この回をきっかけに小五郎、ひいてはコナンは、
周りの人に死神扱いされていくようになるわけだ。

(因みにコレ、PCだと文字がまともに表示されないのが困る事件でもあったりする。
本当は「旗」の上に竹かんむりが付く)

そんな彼らが出くわす事件そのものは、
これまたミステリ世界では、極めて典型的なタイプの物。

資産家の一族が、当主の遺産相続を巡って、閉じられた環境で連続殺人に遭い、
疑心暗鬼に陥っていくという展開は、いっそ逆に新鮮に映る。

出てくる単語も、古き良きミステリならではの物ばかり。(婿養子・復讐・借金etc)
今時ここまで分かりやすいミステリ作品は無いだろう。

因みに小ネタとしましては。
ゲストキャラの一人である旗本麻理子が、かなりイイ味を出していると思う。

「あたしゃ知ってんだよ!」

彼女がこの一言を発するたびに、新事実が泉のように湧き出る様には、
読んでる当時は本気で笑った。
実際いるよね……こういう噂話の好きな人って。



事件7『月いちプレゼント脅迫事件』(第3巻)



前回の『旗本家連続殺人事件』の後日談から始まるこの事件。
(なお、夏江&武の話は、『上野発北斗星3号』へ続く)

さて、この度に解くのは、小五郎を訪ねた依頼人から告げられた、奇妙な出来事。

毎月毎月、謎の人物から送りつけられるオモチャと大金。
その差出人の正体と目的は、果たして何か?

『名探偵コナン』という作品は、この辺りから、独自の色を持ち始める。
今までの、既存の推理漫画のパロディ路線から、
言ってみれば
『コナン』らしい路線へ移っていく。

この事件で、コナンは依頼人の素性を一目で見抜き、
子供の演技で小五郎から推理を引き出し、
探偵アイテムを一通り使いこなし、
そして蘭からかけられた疑いもかわしてみせる。
「コナン」を知らない人に紹介するには最適の事件の一つだ。
そのじつ私も、この事件の頃から真剣に連載を読み始めたし。

コナン(新一)と蘭の駆け引きも、この時代は、じつにシンプルで分かりやすい。
「コナン=新一」の疑惑を打ち消した時の蘭の笑顔も、
深読みする必要は一切ナシ…………のはず。
(もしも深読みしてしまうと、トンデモナイ結論が導き出される。
その件については、後の事件で語ります)

因みにこの事件、今となっては時事ネタになってしまった部分もチラホラ。
たかだか3年前のオモチャにバーコードが付いていなかったり。
コナンが遊んでいる携帯ゲーム機が、明らかに初代ゲームボーイ(白黒画面)だったり。
物語が古さを帯びていくのは宿命だが、ちょっと寂しい気もする。



事件8『美術館オーナー殺人事件』(第4巻)


描写において、「漫画」という媒体を最大限に使いこなしているのが、
今回の事件だ。


まず、警備員たちが巡回する、夜の美術館。
その美術館内でさまよう、謎の甲冑。

次に、その甲冑をモチーフとしている絵画。
コミックスの紙面1/2を占める大ゴマは、迫力がある。

そして最後。
その絵画と全く同じ構図での惨殺死体がトドメを差す。

そこに更に、殺人が起こった時の記録映像が畳みかける。

長剣で壁に串刺し……などというのは、
後の作風では、もう絶対に不可能な殺し方だ。
醜すぎ、いっそ美しいとさえ錯覚させる、
このような描写力は、小説などでは真似できない。


その一方、殺人トリックそのものは、やはりシンプルな物。
個人的には、簡単なノック式のボールペンなら、
床に落ちた衝撃でペン先が引っこんでても、
不自然って事ないんじゃないかなかなー……なんて。

ともあれ今回も、コナンの機転のおかげで、真犯人は潔く退場していく。
そのおかげで、小五郎もマスコミに取り上げられる身分になれた。
コナンの当初の目的――小五郎を有名にする事は、
ここでひとまず達成されたのだ。



事件9『新幹線大爆破事件』(第4巻)



苦を意味する不吉な数字、「9番目」の事件。

初期の事件は、こうして事件ナンバーと内容とが完全にリンクしていた。
後の事件に比べ、遥かに整合性が高かった証拠である。

さて今回。
コナンは、蘭&小五郎との旅行中、あの黒ずくめの二人組と再会する。
てっきり彼らは、もう最終回までコナンと会わないだろうと
思っていたので、読んだ当時は急展開に驚いた記憶がある。

なお、この事件で、二人組の名前(コードネーム)が「ジン」と「ウォッカ」である事が判明。
この時の彼らは、コナンの盗聴機を看過したり、
不用意にコードネームを口走ったり、まだチンピラめいた性格を残している。

そんな彼らが新幹線内に仕掛けた爆弾を探し、コナンは孤独に戦う。
自らの正体を打ち明けるべきか葛藤する姿は、今見ても重みがある。
当時の彼は、自分が命を狙われているという自覚があった。
れっきとした危機感を、間違いなく持っていたのだ。

それから特筆すべき点。
この事件が連載当時、
鉄道マニアは必読と讃えられていた事だ。

少なくとも、サンデーに掲載された1994年当時、
「14:30に名古屋に到着する新幹線」は、山陽新幹線に実在した。
現在は時刻表も、新幹線の構造も大幅に変わってしまったが。
当時はまさしく、カンペキな実証主義を貫いていたのだ。

ただ、その一方で、「ショックを与えるとすぐに作動する爆弾」を、
コナンが車外に蹴り飛ばして事なきを得るってのは、まさしくご愛敬。
このクライマックスに限っては、爆破寸前10秒間の美を、理屈抜きで味わうのが正解だろう。



事件10『大都会暗号マップ事件』(第4巻)



「暗号」をテーマに活躍する小学生トリオ&コナンの話。

彼らは今回から、「少年探偵団」らしい形を取り始める。
偶然手に入れた1枚の紙切れをもとに、町を狭しと駆け回る。
シンプルな暗号解読が、最終的にはイタリア強盗団との対決に
なだれ込んでしまうというのは、豪快かつ痛快な展開だ。

因みにこの事件では、小さな名場面が数多い。

新一&蘭による、東都タワーでのデート。
歩美を守ろうと(暴走して)蹴りを繰り出す蘭。
洋品店での試着室まで入りこむ、子供ならではの捜査ぶり。
キャップをかぶり直す、コナンの本気モード発動。
コナンに銃を突きつける敵と、その敵に平然と応じるコナン。
歩美がコナンの頬にキスするラストシーン。

その中でも、
暗号を調べるために書店で辞書をめくるコナンの姿を、
個人的には強く推したい。

このように、自分の知らない事・出来ない事を努力で埋める様は、
読者として感情移入しやすく、好感も持てる。
何もかも完全無欠の主人公ほど、つまらない物はないのだから。



事件11『山荘包帯男殺人事件』(第5巻)



この事件は、挙げるべきポイントが多い。

1.伏線の質と量
この事件は、純粋にミステリとして高水準である。
物語の序盤、それも第1話の時点で、幾つもの伏線が仕込まれている。
クライマックスの謎解きで、山荘に着いたばかりの蘭による「え?」という一瞬こそが、
最重要の場面だったと知らされた時は、ニヤリとさせられたものだ。

2.凄惨な死体描写
この事件は、連続殺人でこそないが、その代わり、死体描写が最強の破壊力を誇っている。
青山氏のデフォルメされている絵柄だと、

リアリスティックな趣のバラバラ死体
が逆に怖い。
更に特筆すべきは、なぜ死体が切断されたのか、(トリック上の)理由があったという点。
無闇に読者を怖がらせるだけの残酷描写ではないのだ。

3.園子の初登場
蘭&新一のクラスメイトで、お金持ちのお嬢様。
好奇心旺盛のため、流行好きの恋愛好き。
そんな彼女は、『コナン』という物語を動かす装置としても最高のキャラクターの一人だ。
どんな時でも陽気で気さくな性格。接していて好感を持てるタイプである。

4.(新一でなく)コナンと蘭との関係進展
他の男性に言い寄られた蘭を守るため、森の茂みを突き破って駆けつけるコナン。
一人で眠れないため、コナンを頼ってベッドを共にする(!?)蘭。
純粋に相手を思い合う姿は、見ていて微笑ましい。

5.犯人を断罪するコナン
この時点でのコナンは(園子の声で)、自殺しようとする犯人に
「死にたきゃ勝手に死にやがれ」と怒鳴りつける。
ややもすると犯人をいっそう追いつめかねない暴言だが、
一直線に熱く叫ぶ彼の姿は、貴重な物だと言えよう。



事件12『カラオケボックス殺人事件』(第5巻)



前回の『山荘包帯男殺人事件』の後日談から続く今回。

『コナン』では貴重な季節ネタ――
クリスマスを描いた事件
初めての毒殺事件でもある。
そのためミステリとしては、
「毒物は如何にして被害者にもたらされたか?」がテーマとなる。

端的に言って、そのトリックそのものは、確実性に欠ける。
毒物の王道・青酸カリと言えども、最初のクリームから被害者の口まで、
あれほど何ヶ所も渡り歩いた状態で、致死量に達するとは、
あまり考えにくい。

だが、そのような「毒物の移動」の伏線の張り方は、
やはり小説では表現不可能だろう。見事だと言える。

因みにこの事件を解く探偵役は、園子でも小五郎でもなく、工藤新一(の声)。
この時点でのコナンは、自分が事件を解く事を、
取り立てて隠そうともしていない。

そんな油断が、次の事件を引き起こすきっかけとなった……
と思ったものだった。連載当時は。



事件13『江戸川コナン誘拐事件』(第5・6巻)



西洋では不吉な数字、「13」番目の事件。

純粋にミステリとして考えた場合、
この事件は失格である
今まで具体的には一切示されていなかった設定が、
事件の終盤で唐突に明かされて、それで幕切れするからだ。

その幕切れに至るまで、読者側はただひたすら、
作者側のミスリーディングに踊らされるしかない。
江戸川コナンこと工藤新一の両親が何者なのか、どのような人物なのか、
私たちには知る術がないのだ。

せめて、今までの事件でさりげなく、新一の両親の厄介さが紹介されていたら、
ミステリとしてのレベルも格段に跳ね上がっただけに、個人的には惜しい。

逆に言えば、そうやって散々踊らされるのが、
謎めいた黒ずくめの仮面の男に怯えまくるのが、
この事件の正しい楽しみ方なのである。

そのじつ、当方も連載当時の数週間は、まさに踊らされて振り回された。
だって、仮にもミステリ世界で、「ルパン三世」みたいな
仮面(マスク)が出てくるなんて思わないだろ普通。

ところで。事件最後で、工藤夫妻が語っていた「インターポール」。
いつかその内『コナン』に出るかと待ち続けて今に至る。
まさか、後にソレ以外の国際組織たちが出まくるなんて、想像を超えてたなあ……。



事件14『骨董品コレクター殺人事件』(第6巻)



三人の容疑者から真犯人を割り出す事件、いわゆる「フーダニット」。

この事件の真犯人による仕掛けは、他の事件と比べて、群を抜いている。

自分が一旦怪しまれるような状況を作り、その上で嫌疑を免れようという多重トリック。
この発想は、まさしくミステリ世界ならではと言えるだろう。

我々の実社会だったら、少しくらいのムジュンがあろうと、
「全部グーゼン」で済ませて、取りあえず任意同行を促されて、それでもう終わると思う。
実際、真犯人なんだし。


しかし、そんな犯人の更に上を突っ走ったのが被害者側。

「FILE4 留守番電話の謎」のページにある、刀傷だらけのタンス。
コレがそのままズバリ、真犯人の名前を指し示す
ダイイングメッセージだというのだから恐れ入る。

思えば当方、この話がサンデーに掲載された時は、
作中のコナンと同じように、タンスの画をカッターナイフで切り刻んで
実験して、ビックリ仰天したもんだ。
もう『コナン』では二度とないだろう、
精緻なパズルを楽しめる回である。



事件15『消えた死体殺人事件』(第6巻)



本格的に結成された「少年探偵団」が受けた、最初の依頼は猫探し。
そんな小さな出来事が、いきなり殺人事件につながってしまう豪快な展開はいつもの通り。

この事件で注目すべきは、

警察(の目暮)が、コナン(達少年探偵団)を全く信用していない
という点だ。

もしもコレが、後の事件のように、
コナンが警察の信頼を完全に得ている状態だったら。
警察が死体発見現場である風呂場にルミノール検査をするだけで、
事件はアッサリ解決していただろう。

使われているトリックも、シンプルといえば実にシンプル。
いわゆる「
双子トリック」のパターンだ。
ある程度ミステリに慣れている読者なら、たやすく察する事の出来るレベルのはず。
逆に、あまりに定番すぎて、はやばやと候補から外す推理だと思う。コレは。

しかし。この事件の真骨頂はトリックではない。
事件終盤での、まだまだ無力なコナンと、凶悪な犯人との息詰まる攻防戦にある。
また、コナンを救おうとする小学生トリオ、特に歩美の機転は拍手もの。

それにしても。
まだ齢にして7歳でありながら、小学校の放送室を完全ジャックしてみせる彼らの腕前、
やっぱりスゴすぎると思うんだな。私は。(無理だろ普通)



事件16『天下一夜祭殺人事件』(第6・7巻)



記念すべきサプライズが、いくつも並ぶ事件。

1.『コナン』初の「倒叙もの」
ただし『コナン』の場合、犯人の仕掛けたトリックの全景までは明かされない。

「倒叙」と「本格」との中間という描き方は、この作品独特の物である。

2.『コナン』初の「地方事件」
後の連載では、(静岡・群馬など)数ヶ所に集中していく「地方事件」だが。
この時点では、事件はもっと広い地域に散らばっていく予定だったらしい。
なお、この点については、以下の文章につながっていく。

3.『コナン』初の「有能な刑事キャラ」
個人としては有能であり、しかも小五郎のシンパ。
そんなムジュンしている設定を飲み込んでいる横溝刑事。
(この時点ではまだフルネームは不明)

なお、横溝は本来、コナン達が地方へ旅するごとに転勤をくり返していく、
というトンデモ設定も持っていたらしい。
しかし、その設定は流石に無理があるという事で、
代わりに他の刑事キャラが量産される事になった次第。

それから忘れちゃいけない小ネタ。
「文芸時代」の山田さんの初登場。
担当する作家がことごとく不幸に遭っていく彼は、
現在は消息不明。一体どうなったのだろうか……。

なお、殺人事件のトリック自体は、コレまたシンプルかつ豪快な物。
謎の提示から解決まで、一貫して「写真」が効果的に用いられている点は
高く評価したいところだ。



事件17『ピアノソナタ『月光』殺人事件』(第7巻)



もし万が一、まだ『コナン』を全く知らないという人に、
一つだけ事件を紹介するなら、この『ピアノ〜』を私は挙げる。
コレこそ『コナン』の長い歴史の中で最も印象に残る、
至高の事件だからだ。

まず、シチュエーションからして胸が躍る。
本土から離れた孤島。
12年前に起こった、謎めいた死。
その島を巡る選挙の最中、その死者から届けられたのは、
連続殺人予告の手紙。

そんな奇妙な事件に挑むコナンは、
命をもてあそぶ犯人に心から怒り、嘆き、そして悲しむ。
犯人によるミスリーディングには散々惑わされ、
苦手な音楽関連の暗号に手こずる。
その後、やっと真相をつかんだのも束の間、
結局、犯人には“逃げられて”しまう。
そんな犯人の姿は、コナンの心に――しばらくの間――
確実に深い傷を刻みつけるのだ。

なお、余談ながら、
この事件でコナンは何故か、床にこぼれた謎の粉を一舐めしただけで、
その粉の正体を見破るというトンデモ行動を起こしている。
この、ツッコミ所のかたまりのような行動は今もって、
一部のファンの間でネタ扱いされている事を記しておこう。



事件18『プロサッカー選手脅迫事件』(第7・8巻)



二つの流れが並行して進んでいくこの話。

一つは、有名サッカー選手の弟が誘拐され、八百長試合を強要されるという事件。

そしてもう一つは、ヤヤコシイ事態にしてくれた女子高生に振り回される、
江戸川コナンこと工藤新一と、毛利蘭との騒動。

もっとハッキリ言えば、新一が女遊びしてると思いこんだ

蘭の激しい暴走(&妄想)ぶりが、最大の見所なのだ。

蘭の中での新一のイメージは、もう完全に、女殺しのジゴロ状態。
それで先走った蘭は、他人様のトイレのドアは壊そうとする、
やっぱり他人様のの玄関のドアは(チェーンごと)粉砕する、
そのついでに誘拐事件の犯人までぶっ飛ばす。
なお、この時、蘭に罪の意識は皆無。正直なところコワイ。

が、だからこそ終盤、途方に暮れている蘭と、
そんな彼女を慰める新一(の影)の姿が映える。
本来、直に会って話し合えれば簡単に解決するトラブルも、
彼らにとっては本当に大事(おおごと)なのだ。
彼らはつなぐ糸は、実にか細く、不安定な物なのだ。

因みに、この事件で初登場したサッカーチーム
「東京スピリッツ」と「ビッグ大阪」は、今後の『コナン』でレギュラー化。
特に「ビッグ大阪」の方は、忘れた頃に重要な位置で再登場するのでお忘れなく。



事件19『闇の男爵殺人事件』(第8巻)



パソコン通信で集まった面々による、1枚のフロッピーディスクを巡るミステリーツアーの物語。

1990年代当時は、コレが最新のデジタル事情だった。
後の時代ならさしずめ、
「ケータイサイトで集まった面々が、1つのUSBメモリーを巡る」
なんて言い回しになるだろうか。

そんな時代背景のズレは仕方ないものの、事件そのもののレベルは高い。

伏線たちはどれも正々堂々と描かれており、
特に注意力のある読者ならば確実に解ける、
絶妙なバランスを誇っている。

黒ずくめの怪人「闇の男爵(ナイトバロン)」に
コスプレした被害者が貫かれる場面も、強く印象に残る。

また、7人ものゲストキャラ全員、何らかの思惑を抱えている曲者ばかり。
彼らそれぞれの秘密を読み解くのも、楽しみの一つだ。

そして終盤、「もしも、自分が好意を持っている人が犯人だったら?」
という命題に対し、作者が示す一つの答え。
この事件は、
「悪人は全て罰される」という
『コナン』のテーマが、明確に述べられた重要な回でもあるのだ。



事件20『六月の花嫁殺人事件』(第8巻)



この事件、タイトルに偽りあり。

「殺人事件」と銘打たれているが、被害者は一命を取り留めているからだ。
コナンの(人知れぬ)救命活動のおかげである。

この事件も、注目すべき点は多い。

新一・蘭・園子の過去(=中学時代)のエピソードが披露される事。
殺人にトリックが使われた、とミスリーディングさせる
トリックが使われている事。
そのトリックが、カメラの録画を手がかりにして解かれる事。

ゲストキャラ達のネーミングにも目を向けたい。
この事件あたりから、
ゲストキャラのネーミングが、
あるテーマで統一される
ようになるからだ。
なお、この事件でのテーマは「植物」。
もっと言えば、今回はそのキャラ名を見比べるだけで、犯人が分かってしまう。
ヒントは、「仲間外れ」を探す事だ。

そしてこの事件は、『コナン』で唯一、未来の出来事が予見されている回でもある。
新郎新婦が、幼なじみとしての長き恋を成就させるのは、3年後。
一日でも早く、幸せになってほしいところだ。



事件21『歩美ちゃん誘拐事件』(第9巻)



この事件も、タイトルに偽りあり。
別に歩美は誘拐されたわけではない。
彼女自ら、アヤシイ車に潜り込んだだけである。

もっと言ってしまえば、この話は「事件」と名乗る事さえ、はばかられる。
この話に、
深い意味は無いのだから。

ひたすら凄惨で、ひたすら激しく、そしてひたすらバカバカしい。
けれど、だからこそ、面白くてたまらない。

歩美が凶悪犯にさらわれた!という事で、
しゃにむに燃える小学生男子3人(うち高校生1人)。

胡散臭い言動をやらかした“凶悪犯”たちにも困ったものだが、
コナン達の暴走もメチャクチャ極まりない。

コナンの操るターボエンジン付きスケートボードは、
元太&光彦をも乗せて、街を駆け抜け、
空を舞い、ついには粉々に砕け散る。
この一連の流れは実にテンポ良く、いっそ美しいと言えるほど。
ぶりっ子の仮面を捨てているコナンと、
そのコナンと付き合っている小学生たちの連携ぶりも心地よい。

それで結局、コナン達はお手柄どころか、自業自得の不運を食らって話は終わる。
が、もしも彼らが小学生でなかったら……この程度では済まなかっただろう。
子供の姿で良かったね。コナンくん。



事件22『小五郎の同窓会殺人事件』(第9巻)



小五郎ファンは必読の事件。

小五郎の過去(=大学)時代のエピソードが披露され、
小五郎の友人が殺害され、小五郎の友人が犯人となり、
その事件を小五郎が解決する。自分の力で。眠らずに。

いつも事件が起こった際、コナンは無意識に喜んでしまっているのに対し、
小五郎はどこまでも悩み苦しみ、何としてでも悲劇を止めようとして足掻く。

小五郎の推理が概して、殺人よりも自殺、自殺よりも事故、
内部犯説より外部犯説に進んでいくのは、ひとえに彼の優しさゆえだ。
少なくとも人前では、どんな時でも明るく軽く、平和にトボけるのが小五郎流。

その性格の象徴とも言えるのが、彼の柔道の腕前だろう。
条件さえ整えば本来なら、凄腕を誇るはずなのに、
いざ勝負本番となると、勢い余って空回りして負けてしまう。
最後までキザにカッコよくキメる事が、根本的に出来ない人なのだ。小五郎は。

ただ、この事件のトリックそのものは、ところどころ無理がある。
痴情にもつれた男女が長時間、卓球なんてするだろうか。
凶器の拳銃の出所についても、少しばかり謎が残る。

なお、私事ながら、「拳銃を密着して撃つとコゲアトが出来る」とゆー
トリビアを初めて知ったのは、この事件の時でした。

最後に。小五郎が犯人を諭すために一本背負いを放った時の、彼の名言を記しておこう。

「どんな理由があろうと……殺人者の気持ちなんて……わかりたくねーよ……」



事件23『資産家令嬢殺人事件』(第9・10巻)



典型的すぎるほど典型的な「陸の孤島(クローズドサークル)もの」。

犯人の細工によって、山奥の山荘に取り残された一同。
彼らは止むなく、山荘で一晩を明かす事を決める。

そんな彼らは一見、親しいグループに思えるが、
実は全員、過去に謎めいた事件と関わっている。

その事件の真相を知る犯人は、その恨みを晴らすため、
他の仲間を次々と葬っていく。

この展開からして、
王道すぎるほど王道の内容だ。

そんな事件で犯人が企てる殺人計画もまた、実にミステリらしい物。
とても人とは思えない、大胆かつ残虐な代物だ。

本命の殺害相手を、じわじわと水責めに処する。
その水責めの最中を、他人の見ている前で堂々と観察する。
挙げ句の果てに、全くもって無関係な蘭をも巻きこみ、
彼女を半殺しの目に遭わせるのだ。
全ては、自らのアリバイを作るためだけに。

確かに、大罪を犯した二人を恨んだ、犯人の心情は分からなくもない。
だが、やはり復讐は更なる悲しみを生むだけだ。

「誰かが死ぬという事は、誰かが悲しむという事じゃ……」

家政婦・七尾米のつぶやいたこの言葉を、噛みしめたいものである。



事件24『外交官殺人事件』(第10巻)



第一の『コナン』最終回である。

この事件の注目ポイントはモチロン、新一の劇的な復活だ。
なぜか大阪から押しかけてきた「西の名探偵」こと服部平次が
なぜか土産に持っきた中国酒「白乾児(パイカル)」で、コナンは一時的に元の姿を取り戻す。
そして、「真実はいつも一つ」というあの名台詞を実際に遣った、
唯一の場面が登場するのだ。

なお、余談ながら、「白乾児」は、『ルパン三世』でのゲストキャラの名前の一つ。
「暗黒街の魔術師」を名乗る殺し屋である。

ところで、この考察のために、久しぶりに単行本を読み返しているわけだが。
とにもかくにも驚いたのが、平次というキャラクターの変貌ぶりだ。
今の彼とはもう、完全に別物になってしまっている。

基本的にはクールでドライでビジネスライク。
それでいて飄々とした態度の中に、情熱を秘めている。
当時の彼は、本来的な少年漫画の主人公像そのものだったのだ。

そんな二強の名探偵が揃い踏みしている構図は誠に結構なのだが。
事件トリック自体は、一見単純なようで、よく考えると何とも複雑。

特に奇妙なのは、犯人のトリックが
「適度なレベルの探偵役が現場に訪れる事」を前提としている点。

ごく普通の探偵や警官でもダメ。全ての真相を見破れる名探偵でもダメ。
このような微妙なトリックに“使われた”時点で、
平次の今後は予見されていたのかもしれない。

ともあれ、殺人事件は解決するものの、ストーリーは完結せず、次の事件へなだれ込む。
今回は、こうした重要な局面を迎えたパターンが、初登場した事件でもあったのだ。



事件25『図書館殺人事件』(第10巻)



前回の『外交官殺人事件』から、つながっている事件。

この事件の骨格は、むしろ地味。
行方不明になった図書館職員を探す少年探偵団の冒険だ。

しかしながら、この話の全体的な雰囲気は、ひたすら「怖い」の一言だ。
私の中では、『山荘包帯男殺人事件』を超えている。

子供たちが想像した死体の隠し方も怖い。子供たちが目撃した実際の死体も怖い。
中でも、とりわけ怖いのが、この度のゲストキャラである、図書館館長の津川だ。

前述した『山荘〜』での殺人鬼は、
あくまでも登場人物たちが空想している謎めいた影に過ぎない。

対して津川は、表向きはごく普通の一般人である。
警察による捜査にも、常識的な対応をしている。

しかし、日が暮れて一人きりになれば、その態度は一変。
人目を避けてとは言え、壊れたような高笑いをする。
背後から忍び足で近づいて、子供をさらおうとする
その果てに、子供4人に凶器を振るい、まとめて皆殺しにしようとする。
ひとえに、私腹を肥やす自分の保身のためだけに。

この通り、
生きている人間ほど恐ろしい物はないのだ。

ともあれ事件は無事に解決。
これで中国酒「白乾児」を手に入れたコナンが、
無事に元の姿に戻れれば、そこで『コナン』は完結していた。
が、そうは問屋が卸さない。物語は、まだまだこれから盛り上がるのだ。



事件26『雪山山荘殺人事件』(第10・11巻)



スキー場に訪れたコナン・蘭・小五郎。
この時、スキーをする蘭&小五郎はともかく、スノーボードを使いこなしているコナンに驚く。
そもそも、こういう行為って年齢制限があるんじゃなかったか?

それで、ミステリで雪が出てくれば当然、吹雪に閉ざされた山荘が出てくるのがお約束。
その山荘内で起こった殺人事件のトリックを、コナンが解き明かすわけだ。


そのトリックの内、特に際だっているのが、

登場人物の字面(漢字)が手がかりになっているという点。

『コナン』では基本的に、現れたゲストキャラの名前が字幕で表示される。
その字幕が伏線になっているというのは、ある種の叙述トリックとも言える。

というのも、コレは、この「漫画」という媒体でなければ使えない手法なのだ。
漫画での字幕は作中で、少ししか出てこないが、後からいつでも読み返せる。
ところが、同じ印刷物でも、小説などでは厳しい。
いわゆる「神の視点」で、登場人物全員の名前を、地の文で均等に出さなければ
いけなくなる。
アニメ(=動画)に至っては、字幕を後から見返す事は、基本的に不可能だ。


このようなトリックを、斬新な荒技と見るか、強引な反則と見るか、
意見が分かれるところだろう。



事件27『TV局殺人事件』(第11巻)



よみうりテレビ(YTV)ならぬ、日売テレビ(NUT)の局内で起こった殺人事件を解く。

TVシリーズ化、映画化と、華やかなメディアミックスが始まった時期に相応しい事件だ。

ただし、この事件でのトリックについては、取り扱いが難しい。
というのは、同時代に放映された、他の有名な推理ドラマで、
ほぼ同じトリックが使われているからだ。
ここでは、タイトルなど具体的な言及はしないが、
アニメ放映がされた当時は、2番どころか3番煎じと指摘されていた記憶がある。

しかしながら、この事件は『コナン』だからこその強みもある。
実在のタレント・松尾孝史氏が、
実在の(それも『コナン』の)プロデューサー・諏訪道彦氏を殺害する、
という、
楽屋オチのメタ構造を堂々とやってのけた事だ。

事件の起こる番組名や、その番組でのアナウンサー達の名前も、
実在の物をパロディするという徹底ぶり。

当時、漫画原作者とアニメスタッフとが、カンペキなコンビネーションを取れていたからこそ、
成し得たエピソードだったと言えるだろう。



事件28『コーヒーショップ殺人事件』(第11巻)



蘭の母親・妃英理が初登場した事件。

それで、改めて読み返して感じる事。
この作品の新キャラは、必ずといっていいほど、思わせぶりに登場する。
それも、散々ミスリーディングを散りばめた上で。
(例:自分の母親を「あの人」呼ばわりしてる蘭)
よく考えれば、メインキャラの母親が、ここまで出てこなかったのは不思議なくらいだ。

ただ、さすがに新一の両親の時のような完全ノーヒントでないのが救い。
その名前がミステリに由来するのもヒントの内だ。
また、英理と久しぶりに顔を合わせたコナンが、本能レベルで拒絶してしまう姿も興味深い。

なお、事件そのものに関しては、殺人トリックはともかく、犯人探しは比較的楽だ。
第一発見者の直前にトイレに入った人こそ、誰より怪しいと考えるべきだろう。

ところで。もし、新一と蘭も結婚したら、ある種、小五郎と英理のような形になりそうな
予感がする。
仲こそ良くても、同居している時間が限りなくゼロに近いような。
家族の歴史というのは、得てして繰り返すものなのだから。



事件29『霧天狗殺人事件』(第11巻)



山桜を見た旅の帰り道、泊まった山寺で起こった事件をコナンが解く。

この事件の特徴は、
カガク的なトリックが用いられている点だ。

筒状に作られている部屋で、死体を空中に浮かせ、
ついにはその部屋そのものを破壊する、豪快なトリック。
サンデーで読んだ当時は、心から喝采を上げたものだ。

ただ、冷静に考え直せば、このトリックにも問題点がある。
完全に密閉されている頑丈な空間ならともかく、ずっと昔に作られた
木造の建築物が、果たしてあのトリックに耐えられるだろうか。
それも一度ならまだしも、2年おいて再び使われるほどに。

しかしながら、作中でのコナンの解説が、文句なしの説得力を誇る事は間違いない。
彼によって、もっともらしい数字と数式が一気に繰り出される事で、
こちら読者は圧倒的にねじ伏せられて感服するのだ。

なお、この事件から、コナンの探偵アイテムに「ボタン型スピーカー」が加わる。
コレのおかげで、コナンは推理の際、傀儡探偵たちのそばに付いている
必要がなくなったのだ。

ところで。この世界では、車が壊れる確率が異様に高い。
タイヤがパンクしたり、バッテリーが上がったり。
コナン達が立ち往生する”装置”として使いやすいのは理解できるが、
あまり頻発されるのは勘弁してほしいところだ。



事件30『月と星と太陽の秘密』(第12巻)



この事件は、「暗号解読もの」を語るにあたっての、最高のテキストである。

というのは、この事件のための暗号システム――

オリジナルの表音文字が用意されているからだ。

今は亡き阿笠博士の伯父の家で見つかった、謎めいた記号たち。
コナンは、いくつかのヒントから、その記号たちの解読表を作り上げる。

彼の説明に基づいて調べていけば、読者はこの事件での暗号たち全てを
自力で読み解ける。
阿笠の回想シーンに出てきている手紙のメッセージさえも。
(第29頁:「はいけい さむいひがつづきますがいかがおすごしで」と読める)

そこまで出来れば、応用も出来る。
読者オリジナルの暗号システムを作る事も不可能ではない。

なお、この事件では、死体こそ見つかるものの、凄惨な殺人シーンなどは出てこない。
実際の玩具メーカー「バンダイ」とタイアップした、
どちらかというと、ほのぼのとしたエピソードになっている。
世のミステリでは、「取りあえず人殺しときました」
ってな流れの話が少なくない中、こうした展開は実に貴重だと言えるだろう。



事件31『ゲーム会社殺人事件』(第12巻)



TVゲームの新作発表会で起きた殺人事件。
連載当時はソニーのプレイステーション(PS)全盛時代でありながら、
任天堂がモチーフに使われている点は興味深い。
(作中のゲーム機はPSに酷似している)

しかし、殺人事件そのものは、実のところ添え物に過ぎない。
クロークでの殺人トリックに巻き込まれた形で死んだ被害者こそ、
登場した途端に退場してしまったその人物こそ、今回最大のキーパーソン。
ジン&ウォッカに続く、新たな組織員・テキーラである。

この度の事件から、彼ら組織の目的(の一つ)が、
何らかのコンピュータープログラミングである事が判明する。
だが、それ以上の真相は今もって全て闇の中。
彼らは事件が表沙汰になるや否や、
その取引現場である店ごと爆破するという暴挙に出る。

少なくともこの時点では、
関係者全員皆殺しが、組織の基本スタンスだったのだ。



事件32『ホームズフリーク殺人事件』(第12・13巻)



服部平次の魅せ場である。彼にとって最大最強、――そして最後の。

この事件において、まず印象に残るのは、(特に物語前半の)コナンが上機嫌である事だ。

日頃「いい子」を演じる彼が、蘭&小五郎の許可も得ずに申し込んだほど入れ込んだのは、
その名も「シャーロックホームズフリーク歓迎ツアー」。

コレを最初に見た時、ミステリ好きの当方は、
本来なら「シャーロキアン」とすべきじゃないのかと思ったものだ。
実際、その単語を登場人物も使っているし。

その理由は、読んでいる内に明らかになった。
このツアーの参加者、ほとんどロクなのが居やしない。
特に、真犯人の行動原理がトンデモナイ。
まさしく、現実と架空の区別の付いてない人間の典型。
更に言うなら、その真犯人に狙われ殺された面々の言動も、
人として如何な物かと思ってしまう。
こんな輩が「シャーロキアン」を名乗ったら、TVアニメでそんな話を放映したら、
創り手はどう非難されても言い返せないだろう。

だが、この回では、そんな殺人事件そのものよりも、遙かに大きな出来事が起こった。
前述した通り服部平次が、ほぼノーヒントかつ独力で、
「コナン=新一」の方程式をカンペキに解き明かしたのだ。
コナンはずっと隠していた秘密を知られて、激しく戸惑うものの、
この辺りから一段とリラックスした態度を取れるようになっていく。

この事件の時こそ、「ホームズとワトソン」ならぬ
「ダブルホームズ」の名コンビが生まれた瞬間だったのだ。



事件33『三つ子別荘殺人事件』(第13巻)



「容疑者が三つ子の話」。
本筋として語るべきはコレだけだ。

しかしながら。ある意味、この事件では学べる小ネタが非常に多い。
真犯人が仕掛けたトリックだけでなく、
他の容疑者が(ミスリーディングとして)仕掛けたトリックや、
偶然に発動してしまったトリックが、次々と紹介されていくからだ。


・右バッターがライトスタンドへ打球を運ぶのを「流す」という。

・国内線を利用する際は、替え玉でのアリバイを作れる。

・衛星放送の電波はラジオでは受信できない。

・パチンコ屋の営業は午後11時までと、各自治体の条例で定められている。

・腕時計の中になら盗聴機を仕掛ける事が出来る。

・停電すると留守番電話機能は使えない。

・ただし、通話するだけなら電話線からの電力で可能である。


逆に言えば、コレらのトリビアをご存知の読者なら、
誰が犯人なのか瞬時に見破れるというわけだ。

ところで。この事件で登場した、園子の姉が婚約した件。
本来ならば、数ヶ月後に結婚する予定だったはずだが、
時の流れの止まっているこの作品では、未だに叶わないままだろうと思われる。
不憫だ。



事件34『イラストレーター殺人事件』(第13巻)



作者お得意の「ワイヤートリックもの」
犯人は、釣り糸と釘、そして他人の手を使って、
遠く離れたアパートのベランダから、被害者の死体を落としてみせる。
良くも悪くも、極めてミステリらしい展開だ。

ただ、何よりも恐るべきは、この事件が、あくまでも偶発的に起こったという点だ。
私には、練りに練った計画的な犯行にしか見えないが。
少なくとも、何度も実験しなければ、成功する保証はないだろう。
もしかしたら犯人、実はミステリマニアだったりするんだろうか。

それから、この事件でのもう一つの特徴は、犯人と被害者との関係だ。
彼らは、今時の少年誌らしからぬ、色事めいた不倫の仲。
作中でしている事は、二人してベッドのそばで服を脱いでいるだけだが、
その描写が逆にリアルで艶めかしい。
特に、「男の眠っている間に、こっそりマニキュアで染めようとする女」
……という場面には、寒気すら感じる。
男性諸氏も女性諸氏もお互い、くれぐれもご用心、ご用心……。



事件35『大怪獣ゴメラ殺人事件』(第13巻)



『コナン』世界で活躍している作中作は、大きく二つ。
一つは、変身ヒーロー「仮面ヤイバー」。
そしてもう一つは、この度の事件で登場する「大怪獣ゴメラ」である。

日頃はマセている小学生トリオが、中途半端に知ったかぶりながら、
それでもゴメラを純粋に信じている様は、実にリアルで微笑ましい。
(特に、光彦には要注目)

また、この事件では、新たな傀儡探偵の役に、阿笠が加わる。
ただし、阿笠は「コナン=新一」を知っているため、
麻酔銃で眠らされる事はない。
今までの小五郎や園子と異なり、
「眠り」ならぬ「目覚める探偵」というわけだ。

……といった、楽しい話題とは裏腹に、事件そのものは考えさせられる。

長く続いてきた作品を打ち切ろうとしたプロデューサー。
辞めたがっているというデマを流された主演俳優。
そして、その復讐のために、「正義のヒーローが罪を犯す」場面を
子供たちに見せてしまった犯人。

今の私には、コレはある種、
遠い未来の予言だったのではと、思えてならない。



事件36『連続二大殺人事件(その1)』(第14巻)



壮大な謎解きの出題編である。
この度の事件で、差し当たって解くべきは、
毛利探偵事務所に持ち込まれた依頼――マジシャンの死の謎――である。
そして、その事件と平行して出される問いに、読者はしばらく悩まされる事になる。
問いの内容自体は、実にシンプル。


この事件から、蘭は「コナン=新一」を確信しているのか否か。

世間的には、蘭はこの事件の時から、「コナン=新一」を完全に確信しているとされている。
しかし、私個人は今も、「コナン=新一」と思っていない説の方を取っている。
より厳密には、「コナン=新一」かどうかを決めかねたまま、あいまいな立場を
保っているというか。

コレはあくまでも、私の感覚に過ぎない話だが。
蘭は、誰にも言わない思惑を抱えたままでいられる子だとは思えないのだ。
考えてる事は全部、態度に出るのが、彼女の基本的性質だと思うのだ。

もっとも、もっと率直に言ってしまえば、このような憶測は結局ナンセンス。
そもそも物語において、純粋にミステリとして検証できる物は、
登場人物の行動原理・行動理由までが限界だ。
一個人の心理状態を推し量るのは、ミステリを読む際の仕事ではない。
文学的解釈の領分になってしまう。
まして作中には、具体的な手がかりさえ存在していないのだから。

なお『コナン』では、この事件かから「マジシャン」というモチーフが、
ひんぱんに登場するようになる。
その代表とも言える存在については、いずれ時が来たら語る事にしよう。



事件37『連続二大殺人事件(その2)』(第14巻)



前回のマジシャン事件からの直接の続き。
群馬県警刑事の山村が初登場した事件でもある。

事件の流れは、一見シンプルだ。

遺産相続を巡って集まる一族。
その中に、偽物かもしれない疑惑を持つ人物が加わる。
その人物は、命を狙われているという事で、
ボディガードと共に行動する。
が、その最中、遺産相続人の一人である、一家の後妻が殺される。

このように事件は、いかにも典型的な展開で進んでいく。
しかし最後、彼ら登場人物の構図は、ことごとく引っくり返されていく。

どんでん返しの逆転劇が次々と続いていくのだ。

と、そんな彼らの間を、(結果的に)引っかき回す人がいる。
見た目も言動もトコトン怪しさ大爆発のその人も最後、
自らの正体を明かしてからは、打って変わって大活躍。
コナンの推理を補強、というか凌駕する。
が、そのあまりの優秀さは、脇役としては逆に問題だったりするわけで。
抜けてるキャラである山村の方が、脇役としては寧ろ扱いやすいと言えるだろう。
そのせいか、山村の登場頻度は今後、意外に増えていくのである。



事件38『スキーロッジ殺人事件』(第14・15巻)



『雪山山荘殺人事件』の別パターン。
スキー場に訪れたコナン・蘭・園子の三人が、ゲストキャラ達と共に、
吹雪に閉ざされた山荘に閉じこめられ、殺人事件に巻きこまれる。
なお、連載当時、冒頭での園子の台詞が妙に印象に残った。

「わたしだってさ……17年間、一生懸命生きて来たのにさ……
いい事なんてちっともなかったんだから……」

この台詞を意味深長に思ったのは、私だけではないと思う。
まさか実は、よほど暗い人生でも送ってきたのかと。

事件トリックとしての見所は、
「ドアベルを鳴らす死者」と、そして
「消えた凶器の行方」

ただ、犯人自身も認めているが、どんなに立派なお題目を並べても、
そのトリックのために、園子を半殺しの目に遭わせた事は何とも許しがたい。

そして事件解決の際、アヤシイ新聞記者から逃れるためという事で、
コナンは(新一として)、蘭を傀儡探偵の役に選ぶ。
事実上、新一&蘭の連携プレイを拝めるのはウレシイ。

が、その一方で、ラストシーンで泣き崩れる蘭の姿は、個人的にどうにも気になる。
後の事件で、蘭のこの行動は、彼女が「コナン=新一」を確信しているからこそだと
されているが。
蘭が新一相手に、面と向かって抱きついて泣くとは考えにくくて。
別人と思っているからこそ、心の限りに泣いたんじゃないのかな……ううむ。



事件39『人気アーティスト誘拐事件』(第15巻)



気楽に読むべき、楽屋オチの話
『TV局殺人事件』と同じ、作者お得意のパターンだ。

巷で流行りの女性歌手が、なぜかコナンと全く同じ声を持っている、
というトンデモ設定での超展開。
『コナン』のアニメ版、ひいては連載当時の高山みなみ氏の音楽活動を
知らなければ、この辺りにはまるで付いて行けないはずだ。

ここでは詳しく書かないが、当時の「TWO-MIX」と『コナン』とは、
本当に驚くべきコンビネーションを見せていた。
今では考えられない大らかさだった。いい思い出だ。
ですので、アニメスタッフの皆様、いつか『コナン』の全曲集など
出す際には、どうか「TRUTH」も入れて下さい。お願いです。

閑話休題。
ともあれ、この度の事件では、「TWO-MIX」と出会ったコナン達が、
彼らの誘拐事件に関わり、実際の山手線を飛び回り、
人を食った変装劇を経て、実際の武道館ライブへとなだれ込む。
その変装劇での「入れ替わり」ぶりは、
伏線とミスリーディングとが絶妙なバランスを保っており、リアリティを感じさせる。
これくらいのサジ加減ならば、騙されるのも快感というものだ。



事件40『金融会社社長殺人事件』(第15巻)



『カラオケボックス殺人事件』と同じ、
「毒物は如何にして被害者にもたらされたか?」がテーマの事件。

ヒントは、「どんな人でも必ず右手を使ってしまう動作」。

その動作を、コナンが指摘したのを境に、
ときどき左手でもやってみる癖が付いたのは、私だけでいい。

そんな当方は、基本的には左利き。
その理由もあって、こういう「利き手トリック」は気に入っている。

その一方、犯人が現場の毒を消してみせたトリックについては、首を傾げてしまう。
コレは「利き手トリック」とは全く種類が違う。

誰でも知っている「常識」ではないからだ。
知ってる人は知っているが、知らない人は知らない知識。
というか、ミステリマニアでもなければ知る必要のない「雑学」の領域なのだ。

こういった専門知識で攻められると、正直なところ興味が冷める。
鑑識は何やってるんだという、無粋なツッコミが浮かんでしまうのだ。

ところで、この事件から、蘭のゲームでの勝負強さという設定が登場。
個人的には、彼女のこの設定を掘り下げた番外編でも読めたらなあ……なんて。



事件41『名家連続変死事件』(第15・16巻)



アニメ版でのタイトルで、既にネタバレしてしまっているのがこの事件。

序盤では犯人だと思われた人物が、死体となって発見された……というのは、
一見いくつもの真相を推理できそうな流れだが。

「連続」と書かれている以上、死体として発見された人物は真犯人ではない。
また「変死」と書かれている以上、いわゆる連続殺人事件ではあり得ない。
(※「連続殺人事件」とは、同一犯による物のみを指す)
ここまで言えば、人によっては真相を察する事も可能だろう。

もっとも、この問題点はあくまでも、アニメ版に限っただけの物。
ストーリーそのものは、「火傷を負ったために、包帯で顔を隠している人物」
というモチーフを効果的に使った、興味深い展開だ。

なお、この事件で特に挙げるべきは、コナンが言い放ったこの台詞だろう。

「犯人を推理で追いつめて、みすみす自殺させちまう探偵は……
殺人者と変わんねーよ……」

コレはミステリファンの間で、今もって物議をかもす代物だ。
個人的には、この台詞そのものは好みなのだが、
言ってる当のコナン自身が、犯人に人権はないとばかりに
蹴り倒しまくってる外道な行為をしてるというのが、何とも……。

あとそれから。この事件の頃から、平次の性格設定が確実に変化していると思われる。
新一(コナン)へのライバル意識が弱まり、明らかに軟化しているのだ。
ベタベタなボケ(というか単なるダジャレ)で蘭にゴマカしたり、
コナンにハートマーク(!)の付いた言葉を投げたり。
まあ、この程度のギャグなら、まだまだ流せるレベルなのであるが……。



事件42『帝丹小学校七不思議事件』(第16巻)



『幽霊屋敷殺人事件』に続き、今度は夜の学校に忍びこむ少年探偵団。

その目的は、自分たちの
「学校の怪談」を確かめるため。
美術室で動く石膏像と、廊下を全力疾走する人体模型と。

モチロン、最後に判明する真相は、例によって微笑ましい物。
けれど、その真相に至るまでの、場に漂う雰囲気は、
何とも不安をかき立てる。
読者としては今回も、その不安感に浸って溺れるのが、
正しい楽しみ方と言えるだろう。

なお、この事件で、1年B組担任教諭・小林澄子が初登場。
この時点ではまだ、単なる一ゲストキャラに過ぎない。
だが将来、彼女はレギュラーとして本格的に大活躍する事になる。
ただし、まだまだずっと先の話になるけれど……。



事件43『コナンVS怪盗キッド』(第16巻)



探偵と怪盗との対決。
「明智小五郎VS怪人二十面相」を連想させる、
ミステリ世界での定番の構図。

その定番に則り、コナンの前に現れたのは、
純白のスーツ・マント・シルクハットを身にまとった「怪盗キッド」。
あらゆる人物に変装し、空を飛び、
そして消失(ヴァニシング)までしてしまう、“常識の通じない”人物。

しかしてそのホンシツは……、いわゆるクロスオーバーものである。
同じ作者による別作品の主人公同士、
言うなれば
「住む世界の違う同一人物」同士の出会い。

コレこそ肩の力を抜いて、気軽に読むべき事件だ。
本来ならば。少なくとも、この事件が連載されていた当時は。
あくまでも1話限りの番外編として考えれば。

最大の問題点は、この後キッドは何度も登場し、
ついにはレギュラー扱いになってしまう事だ。
それも、本編の世界観に深々と入り込んでしまうほどに。
先に述べたような“常識の通じない”設定を持つキャラは、
仮にもミステリを名乗る世界には馴染まない。

しかしながら、「探偵VS怪盗」という構図自体は、私個人も大好物。
なので理想としては、『名探偵コナン』でもなく『まじっく快斗』でもない、
「コナンVSキッド」という、公平な「第三の枠」を用意してほしかった。
私としては、今も悔やまれてならない。



事件44『名陶芸家殺人事件』(第16・17巻)



小さなネタが幾重にも絡み合って出来ている事件。
というわけで、押さえたいポイントを箇条書きで。


・縊死体は、首をつった直後ならば助かる可能性がある。

・床に落ちた液体の形を見れば、落ちてきた高さが分かる。

・携帯電話にかけた時、コール音が聞こえれば電源が入っている。

・ミステリ世界での「有名な芸術作品」は高確率で、

「盗作」or「贋作」がお約束である。

・ミステリ世界の探偵は、問答無用で事件を引き寄せる性質がある。
「お前の行く所行く所、死体の山なんだぞ!!」(by目暮)



事件45『スキューバダイビング殺人事件』(第17巻)



『コナン』では、何か事件が起これば、
まず小五郎が迷推理を炸裂させ、その暴走をコナンが制するのがお約束。

被害者がウミヘビに咬まれた今回もまた、小五郎は事故だと断定する一方で、
コナンは事件としての真相を見破る。
ゲストキャラ同士の呼び方をきっかけに、彼らの詳しい関係を言い当ててみせるのだ。

また、ウミヘビの毒に倒れた被害者が、最終的に助かった点も評価したい。
もしあのまま亡くなっていたとしても、自業自得ではあるけれど。
『六月の花嫁殺人事件』同様、タイトルには偽りアリだが、
おかげで読後感は悪くない。


だがしかし、そんなコナンよりも、

小五郎の方の能力が跳ね上がる時が、たまにある。
彼の身内や友人が、事件の当事者になった時だ。
『小五郎の同窓会殺人事件』は、その典型的な例である。

今回もまた、最後の最後が真骨頂。
現場に居合わせた英理の気持ちを、
知らないようで実は知ってたという、スマートな結末。
この夫婦はこんな風に、たまに深く心を通わせるくらいの距離が、
ちょうど良いのかもしれない。



事件46『強盗犯人入院事件』(第17巻)



1週完結のショートストーリー。

自分の父親と同じ病室になってしまった事から、
強盗犯人を殺せと脅される、ある男性。

娘を誘拐されて人質に取られた上、ずっと敵に監視されているため、
他人に打ち明ける事さえ出来ない。

そんなどうしようもない状況を、
偶然に居合わせたコナンが華麗に打ち破り、そして立ち去って行く。
全部で、たった17ページで。

十八番の子供ぶりっ子と探偵道具と、それからサッカーのスキルとで、
コナンが四人もの敵を次々と倒していく様は、爽快の一言。
何せコナン、敵一人を葬るのは常に一撃。
ほとんど一コマしか使ってない。半分以上ギャグの世界。
この無敵ぶりはデウスエクスマキナか、あるいは寺生まれのTさんか。

ところで、コレは以前ネットで見かけた意見だが。
この話の構造は、映画「ニック・オブ・タイム」と酷似しているとの事。
探せば、他にも多いんだろうな。きっと。



事件47『盗賊団謎の洋館事件』(第17巻)



「カラクリ仕掛けの屋敷」というモチーフが初登場した事件。

ありとあらゆる所に時計が並ぶ屋敷、言ってみれば「時計館」。
その時計たちが、毎日決まった時刻になると一斉に鳴り響く……
という奇妙な現象を調べるために招かれた、
コナン・蘭・小五郎の三人。

その現象を調べる展開と並んで、
ときおり挿入される謎めいた人影のシーン。
中でも、コナンが節穴を覗いた時に出てくる「目」が、本当に怖い。

やがて日が暮れて、現象の答えが全て解かれた時。
事件の更なる真相も同時に明らかになる。
しかもその伏線は冒頭の、小五郎への依頼状の時点で仕込まれている。
それを知った連載当時、慌ててサンデーをさかのぼって読み返したのは私だ。

そして最後は一気に、アクション映画になっていく。
立ちはだかる敵を相手に、
コナンのキックと小五郎の一本背負いの連携プレイ、
それから
蘭の条件反射攻撃が豪快に炸裂して、
事件は終わる。

それにしても。「あーびっくりした」と言うだけで、
あれだけの攻撃を放つのなら、
本当に本気を出したらドコまで行くんだろうか、蘭は。



事件48『時代劇俳優殺人事件』(第17・18巻)



犯人が誰かは分かっているが、そのトリックが分からない、
『コナン』独特のパターン。

ビルの5階(の一部)と6階の全室とを用意して、
入念に準備した犯人の執念には、実に恐れ入る。


ところでこの事件には、印象深い登場人物が2名ほど。

一人は、タイトルにもある時代劇俳優・土方幸三郎。
この度、初めて現代劇に出る予定だったそうだが、
この人のボキャブラリーが尋常じゃない。

「ブンヤ」「小粋」「毒婦」「サンシタ」「サンピン」
「証(あかし)」「屍」……いったい何時代の人間なんだと問いたくなる。

そしてもう一人はモチロン、高木刑事。
アニメオリジナル版から生まれた、
いわゆる
「逆輸入」の登場人物第一号だ。

この「逆輸入」現象については、語るべき事が多いが、それは別の機会に。



事件49『初恋の人殺人事件』(第17・18巻)



コレもタイトルに偽りアリ、というよりも、
ミスリーディングが仕込まれているというべきか。
それも二重に。

一つは、この事件でもまた、被害者が無事に生き延びる事。
そしてもう一つは、この事件のゲストキャラ。
新一の中学時代においての、
“初恋の思い出の人”こと、
内田麻美についてだ。

事件のトリックに関しては、今となっては連載された時代を感じさせる。
連載当時のFAXは、ああいうタイプが主流だったんですよと、
この場を借りて述べておく。

それから余談ながら。
当サイト「異説会」の用語辞典にも記してあるが、
この話に登場する「レモンパイ」の形が明らかにアップルパイの
それである事は、連載当時に話題になった。
同時に、この店の事も話題に上った記憶がある。

欧風菓子「クドウ」青山店
http://g.pia.co.jp/shop/7509

私事ではあるが、いつか行ってみたいと目論んでいる場所の一つだ。



事件50『黒の組織から来た女』(第18巻)



『コナン』二度目の最終回である。
あるいはシェリー、あるいは宮野志保、あるいは灰原哀が初登場した事件。
またあるいは、コナン(新一)の姿を変えた薬物
「APTX(アポトキシン)4869」の名称と効果が明かされた、
記念すべき事件でもある。
更に言うなら、通算事件数がちょうど50という節目の時でもある。

組織の情報を追う話……だと思ったら、
偽札グループを追う話……だと思ったら、
組織員はコナンの身近に潜んでいた、という話。

なお、この話の中で繰り出されるコナンの推理たちは、
かなり弾け飛んでいる。

レジでタバコを買うわけがないとか。
(↑マイナーな種類はレジでしか売ってないんだよ)

ジャラジャラ鳴ったら小銭3枚以上とか。
(↑釣り銭切れで10円ばっかりって可能性も残ると思うが……)

極めつきは、「漱石みたいな人」→「偏屈な人」→
「交番の隣で悪事をしてる人」
(↑ダイイングメッセージ並みの難解さだなオイ)

そして、この事件はそのまま、次の事件へとなだれ込むのだ。



事件51『大学教授殺人事件』(原作第18・19巻)



『黒の組織から来た女』の続き。

改めて読んで、最初に思った感想。
コレが連載されてた時代って、パソコンと電話を同時に使えなかったんだよな。
あ、あと、まだフロッピー全盛期だったんだな、も追加で。

そんな風に時代を感じさせる事件内容と関連して。個人的に気になっている私見を幾らか。

私見その一。
灰原は組織から逃げた後、何がどうして、阿笠家の前にたどり着いたのか。
何がどうして、阿笠に正体を明かしたのか。
何がどうして、小学校に通える身分に落ち着いたのか。
順当に考えれば、灰原はデータを「死亡確認」に書き換えた以降、
コナン(とその周辺)を監視していたとしか思えないんだが。

私見その二。
作者は、この灰原を出した辺りで、
『コナン』全体をまとめ始めていたのではと私は思う。

普通の人々の中に一人だけ「幼児化した人間」がいる、
という構造が本来の『コナン』だと、私は考えている。
身分も地位も能力も全て失い、新たに成長していく孤独な一人……
という方が、感動も興奮も増す。
そうやって成り立っていたバランスを、
良くも悪くも破壊したのが、
灰原という登場人物の位置なのだ。

しかし実際には、終わるどころか、どんどん登場人物も増え、
作品構造は複雑怪奇になる一方。
灰原個人の性格設定も、時を経るに従い、どんどん変化・変質している。
個人的には、口数少ないこの時代の方が好みだったんですけどね……。



事件52『ミステリー作家失踪事件』(第19巻)



少し進んだ「組織編」の話はひとまずストップ。
通常の事件を追う「日常編」に戻る。

今回のテーマは、推理小説「探偵左文字」シリーズ。
「ヤイバー」「ゴメラ」に続く、いわゆる作中作の一つだ。

失踪中の作家から送られてくる最新作、
「1/2の頂点」というその小説に隠された暗号を解く、というのが基本の流れ。

なので、この事件は本来なら、そのまま小説の形で描かれた方が望ましい。
この「1/2の頂点」の全文を独立して載せるのが、本当のフェアプレイというものだろう。

だが、こういう漫画の形だと、小説全体を読み通す事が出来ないため、
私には、実にもったいなく思える。

ましてアニメの形だと、小説は毎度数秒しか表示されないわけだから、
本気で事件に挑むなら、
録画してからコマ送りでもしなければ不可能だ。

なお、この話の中盤では、コナンと平次の会話シーンが少しだけ登場する。
ほぼ同時かつ対等に推理を交わし合う姿を見るのは、なかなか興味深いものである。



事件53『浪花の連続殺人事件』(第19巻)



大阪がフィーチャリングされる事件の1回目。
次々と紹介される大阪の地理や文化を見るのが、まず楽しい。
ひいては事件トリックにまで使われているのが見事だ。

初登場時は尖っていた性格の平次も、この頃にはすっかり丸くなった。
それでもまだ、秘める熱意が変わっていないのは嬉しいところ。

また、この話では、彼の幼なじみである和葉が初登場する。
因みにコレは私見だが、サンデー掲載当時の彼女には面食らったものだ。
殺人犯かストーカーかの勢いで、蘭に食ってかかるあの姿には、
今読み返しても恐ろしく感じてしまう。

そんな平和な観光旅行の一方で、起こる殺人事件は極めて深刻だ。

発端は20年前。
大切な人の命を踏みにじった者たちに、犯人は復讐を重ねていく。
最終的には六人を狙っていたところを、
その四人まで殺害、更に一人を監禁するにまで至った。
残る最後の一人も、社会的には抹殺されたと言えるだろう。

そして最後、自殺しようとする犯人を、平次は決死の覚悟で止める。
彼はこの時代から暫くの間、こうした負傷ネタが続く事になるのだが、
それは別の機会に語ろう。



事件54『競技場無差別脅迫事件』(第19・20巻)



『コナン』でほぼ唯一の時事ネタ。

時は、
1998.1.1。所は天皇杯の会場である国立競技場。

この話について語るためには、コレがサンデーに
連載されていた時について知る必要がある。

実際の世間様は当時、日本サッカーが初めてW杯への
出場を決めた事で、まさしく大騒動になっていた。

なので作中には、その時のサッカーネタが、ふんだんに登場しているのだ。

扉絵からして、少年探偵団による日本代表のコスプレだし、
野人・岡野などの実名もいくつも登場。
更にはドーハの悲劇まで語られる、熱の入れようだ。

しかし振り返ってみれば、このW杯出場自体ももう、過去の歴史に組み込まれた感がある。
この国のプロサッカーチームが出来てからも、もう随分の時が経ったのだから。

なお、他に語るべき小ネタを二つほど。

一つは、元太&高木刑事のツーショット。
概して、元太は高木に対して容赦ない発言が目立つ事は押さえておきたい。

もう一つは、新たな刑事キャラである佐藤の初登場。
後の『本庁の刑事恋物語』での方が有名な彼女だが、
真の初登場は、もっとずっと早かったのである。



事件55『奇術愛好家殺人事件』(第20巻)



インターネットが初めて取り上げられた事件。

「雪に閉ざされた山荘での殺人事件」というオーソドックスなモチーフに、
デジタル用語が散りばめられている様は、少なくとも連載当時は実に新鮮だった。

この事件の連載当時、世間様はまさしく、パソコン通信からの過渡期にして、
インターネットへの黎明期だったのだ。
『コナン』と肩を並べるミステリコミックである
『金田一少年の事件簿』でも、同時期に同じモチーフの事件が登場している。
(『電脳山荘殺人事件』。私としてはオススメしたい)

なお、この事件で出てくるデジタル関連の描写には、
少なからず実際との食い違いが見られる。
例えば「ボードリーダー」という言葉は、ネットでなくパソコン通信の方の用語。
ネットで言うなら「管理人」ですね。

そして何より、強い破壊力を誇るのが、
綿密な犯行計画を練り上げた犯人の、直接の動機だ。
ネット上での発言には責任を持とう、という警句を意味しているのは
分かるが、それでもやはり恐ろしい。
私も、この広いネットのどこかで罪を犯してなければいいんですが……ね。(^^;)



事件56『バスルーム密室事件』(第20巻)



既に分かっている犯人の、事件トリックを暴くパターン。

そのうち、犯人が仕掛けたトリックは、確かに大胆極まりない物だ。

何せ、自分以外の他人と一緒に、
自分が殺した相手を発見しなければ成立しないという綱渡り。
しかし、その「他人」がよりによって
コナン(&小五郎&蘭)だったというのが運の尽きだ。

それから、もう一つ。
犯人自身が見落とした失点。
つまり、作者が仕掛けたトリックは、犯人の物より更に一層大胆だ。

何たって冒頭、
扉絵をめくった次のページから、
その伏線は潜んでいる
のだから。
一見、単なる作画ミス(と言いますかインクのかすれ)、
しかしよく見れば……という巧妙なさじ加減で。

なお、小ネタとしては、ゲストキャラ姉妹が集めているポスターが興味深い。
特に「星野輝美」という名前は覚えておくのが吉。



事件57『青の古城探索事件』(第20・21巻)



少年探偵団大勝利の巻。

どんな時でも四人(灰原が加わってからは五人)一緒に行動していたメンバー達。
そんな彼らが今回の旅先では、一人また一人と消えていく。

まず、一番の戦力であるコナンが消え、次に、彼らの保護者である阿笠が消え、
更には元太も光彦も消え、終いには歩美と灰原の二人きりにまでなってしまう。

頼れる仲間が失われていく展開は、問答無用で緊迫感が増していく。
だからこそ、絶体絶命のピンチと思われたタイミングで、
一挙にそろった全員が、事件の元凶である犯人の前に並んだ時には、
こちら読者の爽快感も、より一層増すわけだ。

なお、この度の事件で、とりわけ大活躍してみせたのが光彦。
コナンの残した探偵道具をカンペキに使いこなした彼の将来は、
まさしく頼もしい限りだ。
難を言えば、もう少し周りに相談してチームワークを
保ってくれればと思うが。小学1年生の身なら、これでもう十二分だろう。

ところで今回は、
「子供たちがキャンプに出かけようとして事件に遭う」
というパターンの元祖でもある。
これから果たして、何回登場するものか。
確認するべく、カウントしてみたいところだ。(まず1回目)



事件58『工藤新一最初の事件』(第21巻)



『コナン』では初めての「過去編」である。

時系列としては、作中の現在より「1年前」。

出てくる人物は、高校1年生の新一と蘭。それから目暮と高木。

出てくる場所は、空飛ぶ飛行機。
つまり、広い意味での密室劇と言う事になる。

そういえばこの刑事たち、何故に国際線に乗ってたんだろうか当時。


ミステリとしての注目ポイントは主に、
「被害者の死亡時刻の偽装」と、「意外な凶器」の2点。

前者は、ミステリを読み慣れている人なら、
早い段階で察する事が出来るだろう。
「帽子をかぶってアイマスクをして眠ってる人」が
ミステリに出てきて、何も作為がなかったら寧ろ変だ。

逆に後者は、意外すぎて少々複雑な気持ちになる。
そもそも、あのパーツだけ分解なんて出来るんだろうか。アレ。
それも、ああいう目的で、なんて人は普通いないし。


ともあれ、この「過去編」は最後まで、飛行機の中だけで話が進んで一旦終わる。
しかして実はこの話、本当はまだまだ終わらない。
ただし、その続きが登場するのはずっと後、『工藤新一NYの事件』という事になる。



事件59『本庁の刑事恋物語』(第21巻)



冷静に考えると、凄まじいタイトルである。
本来はこの作品、探偵が主人公のミステリのはずなのに。

逆に言えば、このタイトル自体が、その基本的な形式が行き詰まってきた証左だとも言える。

ともあれ、この事件は、今まで脇役だった
「刑事」たちが中心へとシフトした発端。
また、この事件の頃から、「MPD」「強行班」「機捜」など
現実的な用語が使われるようになった。


この度クローズアップされるのは、若手刑事キャラの以下3名。

1.白鳥刑事。
高木刑事に続く、アニメ版からの「逆輸入」キャラ。
より正確には劇場版「時計じかけの摩天楼」が初登場。
キャラデザインも原作者の青山氏による物である。

2.佐藤刑事。
『競技場無差別脅迫事件』から続き、この事件で本格的に活躍開始。
この時点では、彼女の設定はまだ、「有能な女刑事」という程度に
止まっている。

3.高木刑事。
今までは「目暮の部下」というポジションでしか無かったが、
この事件から細かい心情が描かれるようになった。
より人間くさくなった反面、プロとしての描写は弱くなった感も。



事件60『結婚前夜の密室事件』(第21・22巻)



誠に僭越ながら、これほど不可解な犯人というのも珍しい。
私は今もって、どうにも感情移入できずにいる。

他人に罪を着せる目的で、わざわざ「密室殺人」のトリックを
仕掛けたという事自体、私には理解しがたい。

「密室殺人」の目的は、被害者を自殺に見せかける事と、
それによって加害者が嫌疑から逃れる事に尽きる。
そこにあるのは、あくまでも被害者と加害者だけの関係だ。
本来ならば、第三者の入る余地はない。

だから、「明らかに他殺と分かる死体の入った密室を作る」
という行為には、残念ながら意味がない。

コナンや小五郎や平次のような、いわゆる「探偵」が居る世界でなければ
成り立たないトリックなど、およそ現実的ではない。

下手なミステリの読みすぎだと、犯人に言いたいところだ。

また、この犯人、自分以外の人の思惑を、まるで推し量ろうとしない点も情けない。
特に、自分が婚約した人が本当は誰を想っているのかさえ、
最後まで気づけないってのは如何なものか。
……こんな性格の犯人だから、こんな奇妙なトリック考えたりするのかな。
やれやれ。



事件61『上野発北斗星3号』(第22巻)



『旗本家連続殺人事件』でのゲストキャラ達に呼ばれ、
北海道へ赴くコナン・蘭・小五郎の三人。

その道中、列車「北斗星」の中で事件は起こる。
その事件はなぜか、推理作家・工藤優作の未発表作品と酷似していた――。

というわけで。かつて優作が途中まで考えていた
推理小説のトリックに則って展開するこの事件は事実上、
「コナン(新一)VS優作」という父子対決となっている。

真相は例によって、青山氏が得意とするワイヤートリック。
しかし優作によれば、自分の未発表作品での真相はまた別にあるそうで。
そちらのバージョンが、個人的には気になるところ。

なお、そんな今回の事件の華となるのが、列車に“偶然”乗り合わせた謎の女性・明智文代。
中盤までの彼女は、なかなか怪しく胡散臭く、こちら読者を悩ませてくれる。

ただ、いかにも偽名くさい名前から、早々に正体を察する人もいるだろう。
もっとも、『コナン』の登場人物は皆、元ネタを持つ人ばかりだったりするのだが……。



事件62『園子のアブない夏物語』(第22巻)



悩ましい事件である。

海での水着の、どアップから始まった、って意味ではない。
(↑それもあるけど)

思い返せば、私にとって、独力でトリック(の一部)に
気づいてしまった最初の事件がコレだった。

「毛深い二の腕」という語を読んだ瞬間、本当は足なのに勘違いしてるんだなと。
実のところは、かつて読んだ別の漫画のネタを思い出しただけなんですが。

おかげで、犯人の見当がついてからは、もどかして仕方なかった。
でも、中盤以降での蘭(ともう一人)のアクションが素晴らしかった事で、
その不満は一気に吹き飛んだけれど。


それから、もう一つ。
園子がついに恋に報われた事について。
園子好きの私としては、まず単純に嬉しい。
いつも明るく気さくな彼女がなぜモテないのか、
せめて男友達くらい出来ないものかと、正直なところ不思議だったから。

だが、あえて一歩引いて見て、
あくまで彼女を『コナン』で動く駒の一つとして考えた場合には、
彼女に恋人が出来るのは、決して喜ばしい事ではない。
次々と新しい物に飛びつく、流行好きの恋愛好きという、
彼女ならではの要素が失われてしまう事でもあるからだ。
実際、この事件を境に、彼女の活躍する機会は少しずつ減っていく。

そんなわけで、楽しいながらも悩ましい、そんな事件である。



事件63『最後の上映殺人事件』(第23巻)



改めて読み返してみて、連載当時と今との違い、
そして当時の大らかさ
を思い知った。
近頃はフィルムでないデジタル上映も増えてきてるよな、という感慨は、まず基本として。


その1。
作中の劇場では、定員入替制になっていない。
古い小さな劇場では今もまだ、座り続けて見続けるも出来るが、
確実に減っているのは確か。


その2。
上映されている画面をカメラで撮影。
まして、その画像を証拠品として用いている。
確かに昔は、映画をいち早く見た記念に撮影、なんて事も密かにあった。
しかし今だったら即座に、映画泥棒として断罪されるだろう。


そんな時代の流れを感じる一方で。
この作品の犯人が、子供への配慮に欠けているのは変わらず。

楽しく映画を見てるところに首吊り死体が重なって映るなんて、
本来ならば一生もののトラウマだ。
映画そのものに対しても酷い冒涜ではと、個人的には思う。



事件64『シンフォニー号連続殺人事件』(第23巻)



純粋にミステリとして興味深いのは、

物語の中盤で複数の推理が示されるという点だ。

いわゆるクローズドサークルである船内で見つかった、身元不明の焼死体。
だが、事件の裏を読んだ平次の推理も、事件の裏の裏を読んだコナンの推理も、
実際には双方外れ。

果たして本当の真相は?と戸惑った矢先には、
メインキャラが行方不明になるというスリリングな展開になだれ込む。
こちら読者としては、ひたすら不安にさせられたものだ。
だから終盤の復活劇には、ホッとすると同時に大笑いもさせてもらった。


そしてもう一つ、注目するべき点は、蘭の態度。

世間的には、この場面は、蘭が「コナン=新一」を確信している
決定的瞬間の一つとされている。
現に、後の作中でもそのように説明されている。

しかし私個人としては、サンデー連載当時も今も、納得しきれていない部分が残っている。

蘭が新一にああいった弱気な態度を見せるだろうかと勘ぐってしまう。
新一の前では基本的に強気な一方、
コナンの前では心を許して、泣いたり怯えたりしてるのが蘭の性格設定だと思ってるから。
我ながら難しく考えすぎてるんでしょうけれど……。



事件65『本庁の刑事恋物語2』(第23・24巻)



高木刑事の成長譚。

高木の失敗で逃げた犯人を捕らえた佐藤の失敗で、
事件の真犯人を追う事になった高木(とコナンら小学生グループ)。

序盤では「高木<佐藤」だった力関係が、
終盤では「高木>佐藤」と逆転している点は興味深い。

そして、そんな二人をつなぐ役目を果たしているのが、コナンである。
佐藤に期待を託されて、高木にヒントを示しつつ、
最後には阿笠の頭を蹴倒してピンチを切り抜ける。

事件のトリックについては、以前の『時代劇俳優殺人事件』が参考になる。
事件関係者それぞれが同じマンションに住んでいるという部分が共通している。

なお、エピローグで知らされる、佐藤の父親の事情は、後の事件に登場するので要チェック。



事件66『暗闇の中の死角』(第24巻)



TVアニメ版タイトルから「事件」の文字がいよいよ消え始める。
恐らく印象を柔らかくするための手段と思われるが、
いわゆるミステリらしさが薄れたのもまた事実。

この事件での注目ポイントは、
コナン(が演じる小五郎)が犯人に、
「裁判での偽証」を求める点に尽きる。

このように、法律に縛られない形こそ、警察官などと違う、探偵ならではの解決法だ。

また、思い返してみれば、解決後の裁判にまで言及されたのは、
後にも先にもこの時だけ。

一見いつも通りのエピソードに思わせて、
実は極めて重要な伏線が秘められていたわけだ。

ところで、エピローグでの蘭がクスクス笑ってるのは、
小五郎と新一がお揃いの服を着てると思ってるから、だと私は今も信じている。
大きすぎるセーターを着てるから、とは思いたくないんだな。個人的には。



事件67『黒の組織との再会』(第24巻)



突如として始まるシリアス展開。

コナン&灰原の前に、ついにジン&ウォッカが姿を現す。

なので、この事件は、
『コナン』全体の真相に関する情報の量が実に多い。

シェリーこと灰原哀こと宮野志保の素顔。
コナンと灰原の姿を変えた薬物・APTX(アポトキシン)4869のシステム。
組織内でのコンピュータのパスワードが「shellingford」である事。
組織員・ピスコが、灰原の両親と親しかった事。
組織のボスが「あの方」と呼ばれている事。
ジンと灰原とに何らかの関係があるだろう事。
アメリカの女優、クリス・ヴィンヤードも組織員である事。etc。

そしてファンの間でしばしば取り上げられているのが、
灰原がジンに撃たれている時に、
コナンと阿笠とのイヤリング携帯電話が通話不能になった事。
「電池切れ?」と、わざわざ「?」を台詞に入れているのは、不自然と言えば不自然だ。
阿笠が組織と何らかの関係を持っているという説の
根拠の一つとされているようだが……果たして?



事件68『よみがえる死の伝言』(第25巻)



ミステリ的には、小五郎が最初に指した人物が
結果的に真犯人だった
という点が興味深い。
『骨董品コレクター殺人事件』と同じパターンだ。

また、登場人物の名前そのものがトリックとして
機能しているという点は、『雪山山荘殺人事件』とも一部重なる。

因みに、アレを使って花火の打ち上げ音を再現するのは、昔ながらの音響技術。
映画『ラヂオの時間』でも使われている。

そして、『コナン』最大のカタストロフを直前にしての、コナンと蘭の行動も印象に残る。
スケートを滑れないフリをするコナンと、そんなコナンを不安げに見守る蘭。
彼らの関係が大きく動くのも、もうすぐだ。



事件69『鳥取蜘蛛屋敷の怪』(第25巻)



ミステリ世界には、古い因習にとらわれた閉鎖的な土地が、
モチーフとしてしばしば登場する。

この事件の舞台は、作者の故郷でもある鳥取県での、絡繰峠の蜘蛛屋敷。
3年前から連続して起こっている首吊り事件に、
コナンと蘭と小五郎、そして平次と和葉が挑む。
鳥取の方言が物語で用いられるのは、なかなか貴重である。

殺人トリックは、例によって作者お得意のワイヤーを使った装置。
ただ、その装置を動かす物が、単なる人力でなく、一ひねりされているのは新鮮だ。

しかし、この事件で注目すべきは、
そういうハウダニットよりも、
ホワイダニット――動機について。

ファンの間では、ラストの英単語の件が一番に取り上げられる。
だがこの場面は、美沙が亡くなった当時、実際にどのような
やり取りがあったのか具体的に描かれていないため、考察する事は不可能だ。

むしろ注目すべき点は、その英単語の件を、平次は犯人に告げ、
コナンは口をつぐんだという対比だ。

かつてのコナンなら、平次よりも先に告げてしまっていたと私は思う。
この時こそ、主人公の心が確実に成長(あるいは変化)した瞬間だと言えるだろう。



事件70『命がけの復活(その1)』(第25・26巻)



『コナン』での平和な時代は、この事件で終わりを告げる

一見したところ、冒頭はいつも通りの展開。
ただし、阿笠邸での灰原が、焼け焦げたディスクを持っている場面には注目しておきたい。

その後は、少年探偵団による、いつも通りのキャンプ。(2回目)
しかし、そこの鍾乳洞で遭った事件のせいで、コナンが撃たれて重傷を負ったため、
残された小学生トリオ――元太・歩美・光彦が、強盗犯たちに立ち向かう事となる。

その時、際だった活躍を見せるのが光彦だ。
彼の知識と洞察は、小学1年生の能力を明らかに超えている。

・ドラゴンをアルファベットで書ける。
・十二支を全部覚えている。
・漢字の「卯」を知っている。
・将棋の駒とルールを把握している。

この力量に、コナンのサポートと元太の体力と歩美の発想があれば、ほぼ無敵だ。

事件解決後、蘭が「コナン=新一」の方程式を完全に見破った事を前提に、
蘭と灰原が接触し、コナンは平次に悩みを打ち明け、
そのコナンに灰原が或る提案を持ちかける。
これでいよいよ、長かった『コナン』の物語はフィナーレを迎える――と、
思っていたのだ。連載当時は。

しかし、物語がまだ続いている事は、皆様ご存じの通り。
まずは、今もってシリーズ最大と言える事件が、次に控えているのだ。



事件71『命がけの復活(その2)』(第26巻)



最初にお断わりするが、私個人は、この事件を評価するのは非常に厳しい。
サンデー連載当時から今も、この学園祭の紙面を直視できないままでいる事を告白しておく。

その問題点の中心にあたるのが、東西の“名探偵”たちだ。
学園祭での彼らの言動は、軽率極まりないとしか私には言いようがない。
あのような不特定多数のいる場で、
独断によって暴走する様を見せられるのは、今もって苦痛だ。

他の登場人物もまた、彼らほどではないものの、
その行動に対して掘り下げた描写が少なく、言葉足らずの印象を受ける。

作者としては、この事件では、読者を次々と驚かせる事を
最優先したのだろうと、今は思う。
更なる長期連載に踏みきるため、登場人物たちの成長を

全て「リセット」させたのだ。

が、第1話から、コナン達の成長を見守ってきた者としては、
むしろ予定調和による終着こそを求めていたのにと、連載当時には特に心を痛めた。

もしも、この時代に『コナン』が終了していたら。
私は寂しくなりつつも、万感の拍手を送っただろう。
長期連載を得る代わりに、多くの物を捨ててしまったのではないかと、今も思えてならない。



事件72『命がけの復活(その3)』(第26巻)



物語の「リセット」は続く。

この事件の構造は、
『ジェットコースター殺人事件』と酷似している

新一と蘭とがデート先のレストランで殺人事件に巻きこまれる。
新一は事件を解き明かすものの、直後に小さな進退に姿を変える。
新一でなくコナンとして、蘭と同居する生活が始まる。

なお、事件のトリックにおいては、
序盤でその手がかりが一通り示されている点を評価したい。
大胆かつ慎重に事を遂げた犯人が、致命的な言葉を最初から言ってしまっていた、
という流れには感心させられる。

だがしかし。
事件解決後、コナンが蘭に告げた“伝言”が、個人的にはどうにも気になる。
「死んでも戻ってくる」というのは、正直なところ無責任な言葉に感じてしまう。
言葉のあやとは言え、本当に死体で戻ってこられても困る。
聞かされる方の気持ちも考えてほしいものだ。


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参考文献としての批判スレ


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