≪SCENE 2≫


事の発端は簡単だった。
例によって(?)服部が、オレの──と言うか蘭の──家に押しかけて来たのだ。

「よっ、元気しとったか?」

ドアを開けたオレは、相手の顔を見ると同時に、再びドアを閉めようとした。

「こ、コラコラ、何すんねや」

「そりゃこっちの台詞だよ。どうして毎度いきなり来るんだ、お前は?」

「アレ? 服部くんしゃない。久しぶりね」

押し問答をしているオレ達に、気づいた蘭が声をかけた。

「そんなトコにいないで上がったら? お茶入れるから」

「ううん、いいよ蘭ねえちゃん。平次にいちゃん、すぐ帰るってさ」

「へ? オイ、何言うとるんや、く」

どう、まで言われる前に、オレは服部を外へ押し出した。勢いよくドアを閉めて、

「ったく、いい加滅にしろよ。オレの都合も考えてくれよな」

「冷たいこと言うなや。オレとお前の仲やないか」

そう。最初は他愛ない会話だったはずだ。でも、やがて口論に変わっていって。
売り言葉に買い言葉っていうのは、きっとああいう状況を言うんだろう。
で、ふと気がついたら、入れ替わってたんだ。──階段の下で。

──アレ?

「なぁ服部、オレ達って、いつの間に階段落ちしたんだっけ?」

「何言うてんねん。あの時は、その……。あん?」

オレ達は、目を見合わせた。
階段から落ちる、決定的瞬間。その肝心な記憶が、オレ達の頭からは
完全に抜け落ちてしまっていたのだ。





「それにしても」

と、博士はしみじみとオレ達を見比べて、

「子供の姿に変わっただけでも信じ難かったというのに、今度は人格交換か。
荒唐無稽すぎて、疑う気も起きんな」

「放っとけ」

期せずして、オレと服部の声は少し重なった。

「こんな超常現象、オレだって勘弁してもらいてーよ」

「けど嬢ちゃん、あんたさっさは良う分かったな。オレらが入れ替わっとるゆう事」

「見れば分かるわよ。そんなの」

と、灰原は平然と言うが……本当にどうして分かったんだ? 謎だ。

イヤ、そんな事どうでもいい。今重要なのは、この問題の解決策だ。

「何なんだろうな、この原因って。皆目見当もつかねーよ」

「アラ、そうでもないわよ」

「え?」

「私たち幼児化された人間なんて、本来ならあり得ない物。
その存在は不安定極まりないわ。
よって何らかの肉体的・精神的ショックにより、不可知な事態が起こる可能性も」

「ある、って言うのか?」

「さぁ。知らない」

……こ、このアマ‥…。

「なかなか言いよるな、嬢ちゃん」

と、服部。オレ以上に調子を狂わされたらしく、ソファから見事に滑り落ちている。

「ま、細かい事は改めて考えるとして。差し当たっての課題から解決しないとね」

「課題?」

「そう。例えば」

と、灰原はオレ達を見て、あっさりこう言った。

「まずは言葉遣いから直したら?」





「だーっ、違う! お前は挨拶一つまともに発音できねーのかよ、バカ!」

「そっちこそ『バカ』言うな、て何度言うたら分かるんや!」

「まだやっとるのかね?」

隣の部屋からオレ達の様子を見に来た博士が、呆れたような声で言う。

「お前なぁ、そんなんじゃ将来確実に困るぞ。アナウンサーには絶対なれない」

「なれんでええわい。お前こそ、大阪やったら絶対生きてけへんで」

頼むから、「オレ」の顔でそういう台詞言わないでくれ。頼むから。

博士は咳払いを一つして、

「とにかく、今日はそれくらいにしておきたまえ。きっと蘭くんも心配しとるぞ」

言われてオレ達は気がついた。
高かった日は、最早すっかり暮れてしまっていた。





next

『名探偵コナン』作品群へ戻る


inserted by FC2 system