夢を見ていた。
とても心地よい――悪夢を。
≪SCENE 1≫
雨は本降りになり始めていた。
手で頭を庇いつつ、江戸川コナンは家に向かって急いでいた。
……だから今日は外で遊ぶのはよそうって言ったのに……。
雨はますます強くなる。目に留まった店の中へ、コナンは咄嗟に飛びこんだ。
最初に見えた物は、大きな文字盤――掛け時計だった。
一つだけではない。部屋の至る所で、針が音を立てている。時計屋なのだ。
奥には店主らしき者がいた。分厚い眼鏡、地味な背広。髪もヒゲも、雪のように白い。
「ようこそ、学生さん。何か御入用かね?」
「あ、イヤ、ちょっと雨宿りを……」
と言いかけて、コナンはギョッと店主を見た。小学生には「学生」は不自然だ。
店主はコナンに歩み寄り――通り過ぎた。背の高い柱時計に近づいて、
「どうです? お気に召しますか?」
「……」
自分以外に客のない理由を、何となくコナンは悟った。
「あ、あの。おじいさん」
「ん?」
店主は目線を下げた。やっとコナンに気づいたらしい。コナンは微笑んでみせて、
「おじいさん、時計好きなの?」
「ああ、好きだよ。君はどうだい?」
「ボク?」
逆に問われて、コナンは言葉に詰まった。店主は視線を戻して、
「近頃は、こういう古いのは流行らんようでな。淋しいもんだよ」
「はぁ」
言われてみればココの物は、どれも相当の骨董品だった。デジタルは全く見られない。
コナンは、棚の時計を手にした。やはり古めかしい型の、金色の目覚まし時計。
「コレは……」
「オヤ、いい物を見つけたね」
「え?」
「その時計は特別でな。ソレを置いて寝ると、とても良い夢が見られるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
けれどこの時計、ちゃんと使えるんだろうか。ベルが鳴るかどうかさえ不安だ。
ネジを回して、針を動かしてみた。アラームをONにする。
「!!」
その瞬間だった。並の言葉では表現できない大音響が、あたり一面に響き渡った。
コナンは思わず目を閉じて、両手で耳を塞いだ。
当然、時計は宙を舞う。コナンは慌てて手を伸ばす。そのとき急に視界が暗くなった。
「ああそうだ、言い忘れてたが」
と、店主の声が遠くから聞こえた。
「無闇にベルは鳴らさんようにな」
――暗転――
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