≪SCENE 1≫
西日も眩しい帰り道。四人の幼い子供たち──と述べればお分かりだろう──は、
揃って家に向かっていた。
「いよいよ明日だね」
「何が?」
「だから、父兄参観」
「あ、そ」
……聞くんじゃなかった。
吉田歩美に愛想笑いしてから、工藤新一こと江戸川コナンは息を吐いた。
「わたしのウチはね、お母さんが来るんだ」
「ボクもです」
「オレも」
円谷光彦と小嶋元太が言葉をつなぐ。
……母親が来るのに、どうして「父兄参観」っていうんだろう……?
「何プツブツ言ってるの、コナンくん?」
「え? あ、何でもない」
慌てて子供の顔に戻る。
「ねぇ、コナンくん家は誰が来るの?」
「うん……たぶん博士だと思うよ。ウチの親はどっちもアメリカだから」
「あめりか? ドコの町だ、ソレ?」
「元太くん。君の家、地図ないんですか?」
「どういう意味だよ、光彦!?」
「ちょっと元太くん、やめなさいよ!」
例によって大騒ぎになる。コナンはもう一度、大きくため息した。
授業参観。率直に言って、記憶に残ってない。両親が来てくれた事は皆無だ。
──来てほしいとは絶対に思わないけどね。最悪の状況になるに決まってるんだから。
しかし、得てして世の中は悪い方に転がるものなのである。
コナンが玄関を通ると、愛すべき幼なじみにして今の保護者の毛利蘭が、
電話で話しているのが見えた。
彼女はこちらを見て、
「あ、コナンくん丁度よかった。──ハイ代わります。──阿笠博士からだよ」
「博士から? ──もしもし?」
『おお新一くん、ちょっといいかね』
コナンを本名で呼ぶ数少ない者──阿笠博士はそう断ってから、用件を説明した。
「用事?」
『どうしても抜けられない急用でな。すまんが、明日は行けそうにないんだ』
「別にいいよ。気にするなって」
『それで、その代わりと言っては何だが』
「ん?」
『来るぞ』
「何が?」
『だから、君の親』
けたたましい物音に、デスクで寝ていた蘭の父・毛利小五郎は瞼を上げ、
そして露骨に顔をしかめた。
「何やってんだ、お前?」
コナンはコードレス受話器を放り投げた形で、うつ伏せに床に転がっていた。
何とか気力を振り絞り(少なくとも2分は要した)、コナンは体勢を立て直した。
「あの、今何て」
『もう一度言うのか?』
「イヤ……結構」
何度も床に激突するのも辛い。
「一体どうやって知ったんだ、アイツら? まさかあんたが」
『ワシは話してないよ。どうやら、教えたのは蘭くんのようだ』
「蘭──ねえちゃん、が? そんな、アイツが向こうの番号を知ってるわけが」
『「江戸川家」として、電話回線をもう一本増やしたそうだ』
「あ、そ」
妙な事ばかり知恵が回る奴等だ。
「それで? 『来る』っていうからには」
『ああ。「江戸川文代」として来るのが妥当だろうが……』
「何だよ」
『片親だけで済めばいいが……』
またも受話器が空を飛んだ。
「おいボウズ、大事に扱えよ。まだ新しいんだから」
「ご、ゴメンなさい」
まず小五郎に素直に謝ってから、コナンは口許を引きつらせて、
「博士。この世には言っていい冗談と悪い冗談がある、って知ってるか?」
『そう怒るな。もしかしたらの話だ』
「“もしか”したら困る! ホントになった時は責任取れよ」
という声は、半ば悲鳴に近かった。
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