SF談義を一席。〜空間を語る〜 (コナンと平次の会話)

平次「よっ、と。いま帰ったで。待たせてスマンな」

コナン「別に誰も待ってない。第一、ココはお前の家じゃない。
    仮にも、ひとん家を、自宅扱いしてんじゃねーよ……ったく」

平「また、のっけから渋い顔やなお前も。折角オモロイ物、買うて来たやったのに」

コ「買って来た……って、その包みか?」

平「ああ。たまたま入った店で、限定品のコップとか宣伝しててな。
  コレが最後の1個や言うてたで」

コ「へぇ……。で、一体どんな奴なんだ、ソレ?」

平「さあ。まだ中身は見てへんから何とも」

コ「って、何だか分かんねー物なんか買ってるなよ、お前も。
  万が一、悪徳商法とかだったらどうする気だ」

平「なんぼオレでも、そない怪しいモン買わへんわ。いま見せたるから待っとき……。
  ……ん? 何やコレ。このイビツな形、どっかで見た事あるような――」

コ「あ……もしかしてコレ、『クラインの壷』の再現じゃねーか?
  確かコレって昔、父さんも買って来た事あるぜ」
(※「クラインの壷」を知らない方はこちらをどうぞ(別窓で画像表示))

平「くらいん、て……アレか。『内側』と『外側』の区別がない、トポロジーの」

コ「そういう事。いわゆる『メビウスの輪』の親戚だな」

平「『メビウスの輪』ゆうたら……『表側』と『裏側』の区別がない奴よな。確か。
  二次元である平面を、三次元からイジるゆうネタの」

コ「ああ。要するに、説明すればこういう事だ。
  長い紙テープを、そのままの状態で輪にすれば、
  表面は表面、裏面は裏面……と、それぞれ異なる二つの面が出来る。
  言わば『表の世界』と『裏の世界』の二つが出来る。
  けど、その紙テープを一旦ひねってから輪にすると、
  それだけで『表の世界』と『裏の世界』は、ただ一つにつながってしまう……と」

平「せやせや。ホンマ懐かしぃなソレ。オレも小学校くらいの時ハマったわ」

コ「そりゃあ良かったな、服部。因みにオレは、先週の授業で散々やった」

平「へ? ちょい待ち。お前のクラス、理系コースやったっけ?」

コ「理系文系以前の世界だよ。生活科ですよ、こっちはどうせ」

平「あ、スマン。そういやお前、一応、小学生やったな……」

コ「まぁ、小学校の授業レベルじゃ、その『メビウスの輪』が出てくる程度が限界だ。
  『クラインの壷』の方は、相当に発想を飛躍させなきゃいけないし」

平「ちゅうても要は、さっきの『長い紙テープ』の話を、
  『長いゴムホース』に変えるだけ、なんやけどな。実際問題」

コ「その『変えるだけ』っていうのが難しいんだよ。説明するのに。
  三次元である立体を、四次元の方から動かす――なんて」

平「そか? 要するに、説明するならこうやろ?
  長いゴムホースをそのままの状態で輪にすると、
  外側は外側、内側は内側……と、それぞれ二つの面が出来る。
  言わば『外の世界』と『内の世界』の二つが出来る。
  けど、そのホースをどーにかして、『外の世界』と『内の世界』を一つにつなげる。
  そんで出来るのが、つまりオレが買うて来た、このコップゆうわけで」

コ「いや、違う。そのコップは、あくまでも“再現”だ。それも極めて強引な。
  本物の『クラインの壷』は、そういう輪(リング)みたいな形じゃない。
  筒の横を抜くんじゃなくて、そのまま全体を一つにくっつけなきゃ。
  四次元的につながってる存在じゃねー限り、本物とは言えねーよ」

平「んなこと言うたかて。しゃあないやん。
  ホンマモンの『クラインの壷』なんて、オレらには作る事も見る事も出来へんねやし。
  平面である写真じゃ、立体である人物の全身を100パーセント写し取る事が
  出来へんのと同じや」

コ「まぁな。正面から撮れば、背中は見えない。右から撮れば、左は見えない。
  つまり、二次元レベルでは、三次元を完全につかみきる事は出来ない。
  同様に、三次元レベルでは、四次元を完全につかみきる事は出来ない。
  当然の理論だな」

平「けど、じっさい分からんで。もしかしたら、四次元世界さん側から見たら、
  このコップはホンマモンの『クラインの壷』なのかもしれへん。
  それとも案外、そこら辺に飾られてたりしてな。古い屋敷の隅っことかに何となく」

コ「バーロォ! あのな、四次元への入口が、そんな風に転がっててたまるかよ!」

平「わ! 何もそない怒鳴る事ないやんけ。えー加減、こっちのボケにも慣れろや」

コ「慣れたいなんて心の底から思わねーからいい。
  ったく……そういうSFネタは、博士たちの実験だけで沢山なのに。何でお前まで」

平次「ん? 博士て……あの阿笠博士か? お前ん家の隣に住んどる」

コ「メビウス輪の授業の時からな。灰原の奴まで巻きこんで、躍起になってさ。
  ブラックホールの向こう側がどうだの、ワープ理論がどうだの……」

平「ほぅ……。その嫌そーな口ぶりやと、話を聞かされてるだけじゃ済まなそうやな」

コ「ああ。何としても異空間へ連れてってやるって息巻いてるよ」

平「って、ソレ、ただ単に『別の場所』ゆう意味やったらエエけどな。
  そういうの、大抵は得体の知れん『別世界』に飛ばされる、ゆうオチがつくで普通」

コ「だろうな。たどって来た歴史の違う世界、いわゆるパラレルワールドとか。
  例えば、ココと同じ時、同じ所でありながら、
  その世界ではオレは小さくならずに済んでたりして……」

平「で、その世界でのお前は、探偵やのうて、白ずくめの泥棒やってたりするとか?」

コ「……は?」

平「それとも、そやな、お前がトンガリ頭のちびっ子で、オレがそのライバル剣士で、
  そんでもって……あ、あとアレや、あの水無アナウンサーと声の同じ奴が確か……」

コ「そ・れ・は、パラレルワールドとかじゃなく、同じ作者の『別作品』だろが!
  無理やりアニメネタの楽屋オチに持って行こうとするんじゃない!」

平「て、あのな工藤、分かっとるか?
  そのツッコミ入れとる時点で、お前自身も立派に楽屋オチに参加しとるっちゅう事を」

コ「ぐ」

平「ま、たとえ別の世界でのオレらが、いったい何をしてようと、
  『今』『ココ』に居るオレらには一切、何の関わりも有らへんワケやけど。
  あくまでも、ウチはウチ、余所は余所や。
  例えば……こんな物が有ったりとか」

コ「あん?」

平「コレ、何に見える?」

コ「って、何だよ急に。そんな紙の箱なんか開けて。
  どう見たって、フツーの……ケーキだろ、ソレ?」

平「あの小っさいねーちゃん――灰原哀ちゃんからの差し入れや。
  この家に入る前に渡されてな。実験に付き合わせとるお詫びとか言うてたで」

コ「へぇ、アイツがそんな事……。ま、それなら遠慮なく…………」

平「よし、食うたな。ほなら、ねーちゃんからの伝言や。ええと……
  『某所のオファーから、例の薬の解毒剤、混ぜてみたから。報告ヨロシク』。
  ……やて。良かったなー、工藤よ」

コ「………………へっ?」

(以上、とある週末の工藤邸・書斎にて)





《筆者注》
別館の方には、この話と連動している「時間編」があります。
併せてお楽しみ頂けたら幸いです。





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