5.

「……以上。後は、キミも知っている通りだ」
 ぼくへの話を終えた御剣は、座るヒザに手をついて息を吐いた。
「キミにしては珍しく、余計な口を挟まなかったな。礼儀を守るのは結構な事だ」
 御剣は、しみじみとうなずいているけれど。
 ぼくとしては、ただひたすら、その場に固まっているだけだった。
 何を答えたらいいか分からない。
 御剣は嘘を言わない。後ろめたい気持ちで話をする事も、決してしない。
 コイツの語った事は、全て真実だ。
 修業で抑えてたつもりの、ぼくの霊力は、とうの昔に暴走済みだったんだ。
 でも……、待てよ。
 ぼくが暴走したから、ぼくは御剣に依頼できて、だから、暴走したのは悪い事じゃなくて……っていうか、
それ以前に何かがオカシイ気がしてならないんだけど……!?
「無駄な思考は止めたまえ、成歩堂。
 少なくとも今のキミには、これらの現象を理解するのは不可能だ」
 ぴしゃりと言いきられると、何となく腹が立つ。
「だったら、そういうお前はどうなんだよ」
「私は自分なりに仮説を完成させている。実に興味深い思考実験だった」
「そ、それなら」
「教えるわけにはいかんぞ。何を言っても、予備知識を与える事になる」
「そんな……」
「ただ、そうだな……一つだけ。別れた時のキミからの言葉を伝えよう。
 出来たら伝言してくれと、確か言っていた」
 御剣は指を立てると、どこか気取った声音で言った。



『他の“ぼく達”の分まで、頑張ろうなんて思うなよ』



 その声は、御剣が言ったはずなのに、違う人のように聞こえた。
 ぼくはふと、自分の喉元に手を当てた。
 何かで貫かれたような痛みを、微かに感じたのだ。
 目を閉じて、自分の力をほんの少しだけ解いてみる。
 ぼくは脳裏に垣間見た。
 最愛の親友と、自分自身を殺す役を負った男が、全部をやり遂げる最期を。
 銃口をくわえた時までも、彼は笑っていた。
 心の底から満足している、ふてぶてしいまでの笑顔で、彼は引き金を引いたのだ。

〈了〉




《※筆者注》
本作では、当方独自のSF設定を組んでおります。ご興味ある方はこちらへどうぞ。



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