「こうして話す時間を取れるのって、久しぶりですね」
「ええ。今日はまだゆっくり出来ますよ。……紅茶、もう1杯いかがです?」
「ありがとうございます。いただきます」
「あ、そうだ、早速読みましたよ、先生の新作。『さくたろうの大冒険』」
「もう読まれたんですか。さすが速いですね」
「今や大ブームの作品ですものね。
確か今回の『さくたろう、魔女の島へ』で、8作目でしたっけ。
「去年、海外翻訳されたのが大きいですね。あれで一気に話題の作品になりました」
「臆病な草食らいおんの冒険小説と思わせて、毎回最後のあのどんでん返しに驚かされます」
「それなら、先生の方が十八番じゃないですか。
丸々社のミステリー大賞では、また審査員長をなさるんでしょう?」
「最初の1作を拾って下さった所ですから。成り行きですよ」
「映画化とテレビドラマ化と、同時にメディアミックスされましたよね。
続編では読者側の意見を募集したりして」
「読み手の方の推理力は侮れませんよ。
書き手の想定外のアイディアが無限に出てきますから。
私はそのアイディアを頂いたに過ぎません」
「その頂いたアイディアを一つの物語にまとめるのが凄いんですよ」
「凄いと言ったら先生だって。
聞きましたよ、印税のほとんどを子供たちへの支援基金に回してるって」
「ちょっと福祉関係の方と縁がありましてね。
ところで先生、先週メールでした話の続きなんですが。
『メッセージボトル』の都市伝説って、どう思います?」
「ああ……、六軒島大量殺人事件のアレですか」
「そうです。今時は、魔女伝説連続殺人事件という呼び方がポピュラーのようですが」
「発端は、1986年10月に伊豆沖にある孤島で起きた事件の、空白の二日間について記したメモが、
埠頭から発見されたという話でしたね。
メモはワインボトルに詰めこまれていたとか。
そして、そのメモの内容がネット上に掲載された」
「タイトルは、『 I am a witch. 』。作者名は、被害者の一人である右代宮戦人」
「しかし、元のホームページはすぐに削除され、今は多くのミラーサイトに文章が残されている……」
「どう思います?」
「どういった意味で?」
「そもそもアレ、最初から信憑性に欠けると思うんです。
ワインボトルに入る紙の量なんて、たかが知れてます。
あれほどのボリュームを、ビンに詰めて流すなんて物理的にほぼ不可能です」
「なるほど」
「警察からの公式発表では、現場検証では遺体さえ発見されていないと言いますし」
「被害者の身体のごく一部が発見されたのみ、でしたっけ。
想像を絶する悲惨な状況だった事は確かでしょうね」
「まあ、百歩譲って、あのボトルメールが実在したとしましょう。
それでもやっぱり、よく分からない話である事は間違いないかと」
「ええ。不可解な内容である事は否定できませんね。
物語の視点からして、きちんと統一されていませんし。
一人称と三人称が混じり合っていて、混乱しやすくなっています」
「そう、あの文体自体、引っ掛かるんですよ。
最近流行った作品と、どこか似てる気がするんです。
同じ時間の繰り返される世界から抜け出そうとする人々を描いた冒険もの」
「そういえば有りましたね、そんなのも。
言われてみれば、推理小説のような始まり方というのも共通点に思えます」
「問題は、メッセージボトルにはアレ以上の続きが存在しないって事ですね。
今の時点では材料が足りなすぎます」
「……おや? という事は、まだ先生は読んでないんですね」
「え?」
「今朝早く、掲載されたんですよ。続編が。
タイトルは……『 I am a liar. 』」
【2nd Game I am a liar. (前日譚) 】へ続く