今回の目的は、華宮霧緒の証言を崩す事。
御剣の作った流れに飛びこむ形で、御剣の予想していた証人へ尋問する成歩堂。
証言を一つずつ揺さぶっていくと、霧緒が少しだけ口を滑らせる。
霧緒「シツレイですね。私だって、あわてればミスもします。その証拠に……」
成歩堂「”その証拠に”……何ですか?」
と、言葉尻を捕らえて、霧緒の証言から情報を引き出していく。
霧緒「私、藤見野さんの脈をとってみようと思って……」
後に思うと、この台詞もまた伏線である。(それも非常に重要な)
少しずつ、だが明らかに、霧緒の態度はどこか虚ろな物になっていく。
口数は減り、その代わりに、曖昧な表現が増えていく。
そのうち成歩堂に追いつめられて、
霧緒「うぐッ!」
パリーンと割れる、彼女の眼鏡。
やっぱり『逆転裁判』の証人は、こういう反応が来なくては。
しかも、すぐさまスペアの眼鏡かけ直すし。(どこから出てくるんだアレ)
事件のキーを握るのは、やはりギターケース。
その中身を見破った成歩堂に、激しく動揺する御剣。
つーか御剣……キミってば、奇しくもまた「トノサマン」ネタで驚く羽目になるのな。
しかも当の成歩堂は、千尋にこんな事をのたまってるし。
成歩堂「アタマで考えるより先に、口が動いてました!」
いいのか、ミステリの主人公がそれで。
戸惑う皆の前で、どんどん成歩堂は自らの推理を進めていく――かに見えたが。
その途中で質問を受けたら、不意に沈黙。
成歩堂「……………………。そこなんですよねえ」
御剣「なな、なぜそこで考えこむ!
キサマ……今まで、テキトーに考えながらしゃべっていたのか!」
何を今更。
ついでに断っておけば。
「考えながら」喋ってるならまだいい方で。
「考えるより先に」喋ってる、というのが彼の実情。
(証拠:上の行にある成歩堂の台詞)
……と、この期になって、霧緒の態度が急変。
今までは王都楼を庇っていたと言い始める。
突然意見を翻した彼女を問いつめる成歩堂に、
御剣「この場は、”成歩堂の推理を聞く会”ではない」
と、御剣は冷静に言い返すが。
てっきり「推理を聞く会」だと思ってた人(=私)がココに居ます。 (挙手)
だってこの作品、もし成歩堂が推理を諦めたら、事件は全部迷宮入りかと……。
ともあれ、そうやって尋問した結果。
凶器のナイフに続き、血の付いたボタンの証拠能力も消滅する。
よって成歩堂は――霧緒を犯人として告発。
霧緒の主張に反論する形で、推理を総括していく。
彼女は殺人現場を改ざんして、逃げたのだ。
一方、そうして完全に追いこまれた、霧緒は。
霧緒「……い……イヤ……私は……」
「も……もうやめて……」
「うう……」
と、自らをかき抱く。(この仕草の時の表情、個人的に好みです)
沈黙の後。
やがて彼女は、驚くべき言葉を発した。
霧緒「……しょ……。……証言を、拒否します」
「こ、この国の法律では……自分の不利になるかもしれない証言は……
拒否できるはずです!」
要するに、訴追される恐れがあるので黙秘するという事。
よく政治家などは使う手だが。
成歩堂(”証言の拒否”……シロートの発想じゃない!)
素人をナメるな成歩堂。 (←御剣の口調で読んどいてください)
ただ、むしろ問題なのは。
この時の霧緒は、自分の意思で証言拒否をしているわけではない、という事。
恐らく、今の彼女は、昨日の冥から受けた命令通りに動いているだけ。
即ち、冥に依存しているのだ。
かつて、最愛の先輩に依存していたように。
そして、もっと問題なのは。
御剣「キサマの立証は……すべて、状況証拠ばかりだ」
という事。
成歩堂が述べている論は、「霧緒なら王都楼を殺せた」というレベルで止まっている。
せめて霧緒が自白してくれなければ、この事件は何も解決しないのだ。
とにかく、これで事態は膠着状態。
霧緒を真犯人として確保する事は不可能。
こうなってしまったら、コレ以上進められる話は、もう何も無い。
そうなれば、当然の事態が。
裁判長「また、明日の審理で……」
今一番聞きたくない言葉を聞いて、成歩堂は血相を変えて食い下がる。
成歩堂「……御剣ッ! きみにも、犯人はわかってるはず!」
「判決を持ちこすことで……あの子のイノチが……」
御剣「…………?」
この時点では、まだ御剣は、成歩堂が焦っている真情を知らない。
けれども。
事は動いた。
「異議あり!」
御剣の異議により、続けられる議論。
誰のためでもなく、事件の真相を解き明かす、そのために。
と言いますか……もしこの場面で、
御剣が成歩堂の真情を察してくれなかったら、そこで審理は終了していたわけで。
……成長したよな、御剣。
かくて、何とか続けられた尋問の結果。
今度こそ、霧緒が真犯人である決定打を叩きつけてみる成歩堂。だがしかし。
霧緒「そんな……そんなハズはない! まちがってる……」
「……私じゃない……私はやってないわ!」
悲痛な表情で、独り彼女は訴え続ける。
その様子に違和感を抱く成歩堂は、千尋に呟く。
成歩堂「考えてみれば、今回が初めてです。……罪を認めなかった犯人は……」
でも何にせよ、後は王都楼に対する無罪判決を残すのみ。
これで今度こそ審理終了、と思ったのも束の間。
「異議あり!」
と叫んだのは、またも御剣。
御剣「……裁判長。この時点で判決を下すことはできない……」
「理由はカンタンだ。この証人は、まだ本当のことを証言していない」
そして霧緒に問いただす。
御「だれがキサマに入れ知恵したのかは知らん。しかし。キサマが沈黙を守れば……」
「キサマが真犯人として、その罪を着ることになるのだぞ!」
だが、そうまで言われても霧緒は、まだ口を開こうとしない。
冥から受けている命令に取りすがろうとする。「証言するな」という命令に。
千尋「あの証人は、つねにだれかの言うことを盲信して生きている。
自分自身というものを、持つことができないから」
つまり。
結局のところ、コレは霧緒の心の問題である。
彼女自身が考えを変えてくれなければ、他の者に出来る事は何も無い。
霧緒「……私じゃない! 私は殺していないわ!
……助けて……おねがい……だれか……!」
と、彼女は独り泣き濡れる。
御剣「成歩堂! もう一度、よく考えるんだ!
この証人が何をしたか! そして、何をしなかったのか……!
この事件の真犯人は、だれなのか!」
「さあ! キサマの結論は……どうなんだ! 成歩堂龍一!」
この質問で表示される選択肢に、当然ながら悩みに悩む。
この事件で出てくる質問の中では、まだ序の口の部類ですが。
プロに徹するならば、あくまで事件の真相を求めるべきだとは思う。
泣いている霧緒を無視するというのも、成歩堂の取る行動とは思えないし。
しかし、真宵が人質に取られている状況を考えると、そう安易にも選べない。
それでもとにかく。一旦の結論を出す成歩堂だったが。
霧緒は何も話そうとしない。
よって、とうとう御剣が動いた。
予め断った上で、彼は敢えて”悪漢”になる。
御剣「……そこの証人は……ある種、病気と言っていい」
「彼女は、その病気ゆえに、自殺をくわだてたこともある」
「証人が”死”を選ぼうと、私の知ったことではない……」
「しかし! キサマが死ぬ前に……私はかならず、
キサマの口から真実を引きずり出す! ……どんな手段を使っても」
「さあ、どうするのだッ! ……私は、どっちでもかまわない」
……「揺さぶる」って、こういう事かもしれない。
実際、この御剣の恫喝によって、やっと霧緒は真実を話し始める。
「死んでるとは思わなかった」と言った意味。
現場を改ざんした理由。
かつて王都楼が犯した罪の告発。
今まで証言を拒否し続けていた事情。
彼女は、自分の知っている限りの事を、正直に明かした。
それらの発言の中に、「自分が殺した」という物は――無かった。
今度こそ、終わった。
プレイヤー(=私)に出来る事は最早、Aボタンを押し続ける事だけ。
「異議を申し立てる」の選択肢さえ出ないまま、この台詞が表示される。
裁判長「それでは、本日は、これにて閉廷!」
次の瞬間。
あまりにも、無情に。
木槌は打ち鳴らされた。
無人になった法廷で、独り頭を抱える成歩堂。
成歩堂(……審理が……終了した……!
無罪判決を……勝ちとることができないまま!)
そんな彼を余所に、御剣は霧緒に質問を投げかける。
御剣「さっきから気になっていたのだが……その手に持っている、カード。
それはいったい……?」
霧緒「あの日、控え室で拾ったんです」
「藤見野の死体を発見したときに。……死体のすぐそばに置いてあったんです」
……あの。
現場保存は確実にお願いします、と思わずツッコミを入れたくなった矢先。
「待った!」
御剣がツッコミ、もとい叱責の声を上げた。
御剣「証人ッ! そのカード……こちらにわたすのだッ! 早く!」
「キサマは……なんという、バカなことをしてくれたのだ!
コイツを……今まで私の目からかくしておくなんて!」
何をそこまで慌ててるんだ、と初見の時は思ったが。
ここから事態は、(本当に)トンデモナイ方向へ転がって行くのである。