今回の目的は、美柳ちなみを――倒す事。
審理再開。
因みに、時刻は午後1:06。
美柳ちなみの手による、綾里真宵の暗殺計画が明かされる。
と言いますか……。
もうハッキリ言って、尋問してる場合じゃないと思うんですが。この状態。
以下、暫く長いが、ちなみの告白にお付き合い頂きたい。
ちなみ「去年……あの女の刑が決まって、刑務所に入ってきたわ。
アタシが死刑囚で、彼女が母親ということもあって……
ふたりで会うのは、意外にラクだったわ」
「あの女の計画には、最初からアタシの死が組みこまれていた。
……自分のムスメだってのにね」
「《家元》の座を、妹の舞子に奪われたときに……。
その日から、今回の計画は始まっていたの」
「キミ子も、最初はアタシたちに目をつけていたみたいだけど」
「幸い、アタシたちは、くだらない《霊力》には縁がなかったわ。
だから……捨てられた。父親といっしょにね」
「アタシは、自分の暮らし以外はどうでもよかったから……
トロい妹を、あのビンボーくさい古寺に追い払ってやったわけ」
「……父親の再婚相手にも、ムスメがひとり、いたわ。
子どもの数は、少ないに越したことはないでしょ?。
それに、父親は、子どもにはまったく無関心だったし」
「本当にヒドいのは、アイツよ。あきらめの悪い、あのオンナ……。
アイツの執念で、あの子が産まれた。……春美という子が。
《霊力》もじゅうぶんだったわ。あの子にとっては、不幸なコトに」
「春美の意志なんて、まったくカンケイないの。
キミ子にとってダイジなのは、春美なんかじゃない。
《家元》の座。……それだけなのよ」
あやめに対する気持ちを、裁判長に尋ねられても、ちなみは平然としたまま。
ちなみ「”いもうと”……? とんでもないわ。
アイツは、ただの裏切り者よ。何をされても、モンクは言えない」
そして、そんな告白の最後に。ちなみは告げた。
ちなみ「……綾里真宵は死んだわ」
成歩堂「ま、真宵ちゃんは……閉じこめられているんだ! あの、修験洞の中に!」
ちなみ「あいかわらず、マヌケなのね。……リュウちゃん……」
昔、聞き慣れた声で。聞き慣れた呼び方で。彼女は成歩堂に、辛辣な言葉をぶつける。
ち「大っキライだったわ。……初めて会ったときから。
アマったれで……ヒトを信じることしかできない」
成歩堂「きみ自身は、綾里キミ子の計画をどう思っていたんだ……?」
ちなみ「言ったはずよ。”くだらない”って。
なんのイミも、価値もない。自分のためにすら、ならない……」
「この世で、最低の計画ね」
「………………………お人好しのアンタには、わからないかもしれないわね」
深すぎる、彼女の中に潜む闇。
このような闇を抱える彼女が、何故にキミ子の計画に手を貸したのか。
ちなみ「アタシは、アタシのためにしか行動しないわ。
あのオンナに協力したのは……自分のため。
この、アタシの《目的》を果たすためよ!」
彼女が真宵を殺そうとしたのは、あくまでも自分の復讐のためだった。
その復讐すべき相手というのは、果たして誰か。
(さあ思い出そう、今までの物語の流れを)
ちなみ「……思い知らせてやりたかった。
アタシに、初めてクツジョクを与えた、あの綾里千尋に……同じ思いをさせたかったのよ!」
ちなみの告白は続く。
ちなみ「……あの夜……午後9時半ごろ、アタシは”この世”に降りてきた。
急いで髪を結いなおして……《退魔のずきん》を用意したわ」
(※倉院流霊媒道では、髪型は術者の物のままであるため)
ち「そして……そばにあったツエを持って、葉桜院を出たの」
杖がその場に有ったという事は、誰がちなみを降ろしたのかは想像がつく。
それならば、春美が降ろせなかったのも当然だ。
その後、ちなみは、あやめとして「奥の院」側に行き、毘忌尼と会話してから別れる。
ちなみ「《はなれ》でしたくをしている綾里真宵を残して……
コシを抱えて、よろめきながら帰ってしまった……」
そして……。
ちなみ「大きな灯ろうの前で、アタシは、あの子を追いつめた。
そして……物置で拾った小刀で、切りかかったの」
「……フシギなことに……そこからの記憶は、ハッキリしないの」
「わからない……アタシ……刺されたような気がするわ」
そう言って、真宵にやられたと主張するちなみだが。真宵がそんな事するとは思えない。
と言うよりも……それよりも。ずっと気になっている事が、一つ。
今のキサマは誰なんだ?
中身はともかくも、問題なのはその身体。
エリスこと舞子はもう亡くなっているのだから、その身体は舞子ではあり得ないはず。
問いただしたいところだが、ちなみの話は、まだ終わらない。
ちなみ「とにかく……急に……意識が、遠くなって……。
アタシ、灯ろうにもたれかかって……あの、名前を書いたわ。
背中ごしに《マヨイ》って……。……夢中だった」
つまり、灯ろうに血文字を書いた人物は、「ちなみ=エリスこと舞子」だったという事になる。
ちなみ「……そこで……アタシの記憶は、とぎれたの」
「《綾里真宵をこの手で殺害した》……アタシに、その記憶はないわ。
あのときの、最後の記憶は……綾里真宵の、おびえきった目。
……そして……次に意識を取り戻したとき……
アタシは、闇の中……《修験洞》にいたわ」
「……入り口には、いまいましい《錠》がかかっていた。
アタシ、閉じこめられてしまったわけね」
それ以降は、ずっと修験洞の奥に隠れていたという次第。
翌日、朝早く入って来た誰か(=カレーをかけに来た春美)の邪魔をかわしつつ、
根性でもって、独力で錠を外したちなみ。
が、今度は警察が入って来たため、もう一度、錠をかけ直す羽目に陥る。
――そんなちなみの所に、地震を憂えたあやめ(本物)がやって来た。
その際、事件の概要を聞いたちなみは、あやめを代わりに閉じこめた。「からくり錠」を増やして。
……などと長く話し続けるちなみだが……。
だから、真宵ちゃんはドコにいるんだよ!?
ああもう、許されるなら弁護人席を飛び越えて、証人席に乱入したい。(←無理)
最初、自分を降ろしたのは春美だと勘違いしていたと言う、ちなみ。
が、実際に自分を降ろしたのは、エリスこと舞子だった。
そのエリスこと舞子が殺された事で、ちなみは一時、この世から”消えていた”のだ。
その理屈を踏まえた上で、ちなみが下す結論。
真宵こそが、「ちなみ=エリスこと舞子」を殺した犯人。
真宵がドコにも居ないのが、その証拠。
母を殺した彼女は、この世から逃げ去ったのだ。吾童川に身を投げて。
そんな中。法廷に響き渡る電子音。
鳴ったのは、ゴドーの携帯電話。
ゴドー「たった今、修験洞の《錠》がすべて解除された」
「………………………修験洞から、ひとりの女が保護された」
「葉桜院あやめ。……被告人だ」
「……………………修験洞の中には、他にだれもいなかった」
信じたくない知らせに、成歩堂が頭を抱えて慟哭した――そんな時。
ゴドー「《あり得ないことを、すべて消去していけば……最後に残るのは……たった1つの”真実”》。
……たとえそれが、どんなに信じがたいものであっても、な」
「いいか。ココロを揺らされるな、まるほどう……」
という、まるで助け舟のような言葉を受けて。
成歩堂は、見事に論証してみせる。
真宵は生きている!
ここまで辿り着いたら、今進むべき道は一つ。
ずっと前から視えていた真実を、突きつけるのみ。
成歩堂たちの目の前にあった、本当の真相を。
死者に罰を与える事の出来る、たった一つの上手いやり方。
ソレは、ちなみが陥っている、もう一つの勘違いを暴く事。
成歩堂「たった”今”……この瞬間!
《美柳ちなみ》を霊媒しているのは、いったいだれなのか!」
「今、きみを霊媒しているのは……綾里真宵しか、あり得ない!」
自分を狙っている暗殺者を、自分の身体に降ろした霊媒師。
言うなれば、究極に矛盾した存在。
もしも、ちなみが真宵を殺したいのなら――自殺するしかないのだ。
ちなみ「いったい、ダレが……そんな知恵を、あの子に与えたの!」
髪を振り乱した鬼の形相で声を荒らげるちなみに、答える人物。
…もちろん、私よ…
千尋降臨!
春美の身体に宿る形で、ついに登場である。
ゴドー「……………………。……やっぱり……アンタだったのかい」
千尋「……ええ」
ゴドー「クッ……! ヤッカイな女、だぜ……」
というわけで。
ここからは、「千尋VSちなみ」の死者同士のカードで戦って頂きましょう。
その、千尋が明かした出来事。
「ちなみ=エリスこと舞子」が刺された時、真宵も共に気を失った。
その後、修験堂で気づいた真宵は、千尋にメモを託して相談した。
それで千尋は、真宵に霊媒を命じた。
それで真宵は、自ら修験洞に閉じこもった。あの「からくり錠」を使って。
事件当夜の彼女たちに、時間は無かった。
無邪気な春美に先を越される前に、事を全て済ませねばならなかったのだから。
かくて。
それぞれ論を語り終えた、成歩堂と千尋。
彼らは二人がかりで、ちなみを完膚なきまでに叩きのめす。
成歩堂「きみの犯行は……ただの一度も、成功したためしがないんだよ」
最初の発端は、親を恨んでの狂言誘拐。
それで生まれた、良心に責められた勇希の裏切り。
それを追及してきた、神乃木の殺害計画。
それで邪魔になった、成歩堂の殺害計画。
それで下された、死刑判決。
そして――真宵さえも、ちなみは取り逃した。
成歩堂「……つくづく、マヌケな話だね。もう、笑う気にもなれない」
気障に肩を竦めてため息でもつきそうな、そんな口ぶりで。
千尋「……あなたは、私には勝てないの」
放っといたらムチでもふるいかねない、そんな口ぶりで。
成歩堂「……でも。……そんなことはね。もう、どうでもいいんだ。
それよりも……。……さっさと、真宵ちゃんから出ていってもらおうかッ!」
と、ちなみに烈しい言霊を投げつけた、その結果。エライ事が。
除霊しちゃったよ、この男!
……成歩堂さん。
あなたの事、ゴーストスイーパーって呼んでいいですか?(←作品違う)
ともあれ、これで”彼女”は消え失せた。
その代わりに現われたのは、やはり――――真宵。
流れる髪を揺らし、彼女は、床に倒れ伏した。
改めて。ちなみに代わって、証言台に立つあやめ。(本物)
とにもかくにも、これであやめの無実は確定した――と思ったら。
「異議あり!」
異議を申し立てた、ゴドーが訴える。
結局のところ、事件当夜に「ちなみ=エリスこと舞子」を殺害した真犯人は誰なのか?と。
ゴドー「他の容疑者が現われない以上、被告人の扱いも消えねえ」
と、辛辣な言葉を、成歩堂にぶつけるゴドー。
全クリアした、今なら分かる。
ゴドーはこの瞬間、自ら修羅の道へ飛び込んだのだ。
決して抜け出せない、戦いの道へと。
そんなゴドーが強引に求める最後の証人は、綾里真宵。
千尋「……………………本当に、いいのね? ……検事さん」
ゴドー「……………………モチロン、かまわねえさ。……弁護士さん」
相対していても、最後まで決して馴れ合わない、この二人。
千尋は知っているはずなのだ。本当の事を。真宵から知らされているはず。
そして、ゴドーも知っているはずなのだ。千尋なら全てを知っているはずだと。
そしてゴドーは、成歩堂にも言葉を向ける。
ゴドー「オレは決して、アンタを認めたわけじゃねえ。
アンタは、いつもそうだ。
……事件のウラを理解せず、その場しのぎの弁護をして……
カンジンなところで、キレイなお姉さんが現れて、助けてくれる」
「……そんなヤツに、一人前ヅラはさせねえ。
今度こそ……! キサマの力でかかってきな!」
……当方としてはコレ、何とも耳の痛い台詞。
攻略本や攻略サイトと首っ引きで解き続けている当方としては。
そう。この台詞は、成歩堂というよりも、プレイヤーに向けられた苦言だ。
かくして、真宵の回復を待つという事で、審理は一時中断される。
因みに、時刻は午後2:56。
休憩室にて。成歩堂とあやめの会話。
なお、あやめの使う人称は、「成歩堂さん」に戻っている。
何故、ちなみを庇うような言動を取り続けているのかを、改めてあやめに問う成歩堂。
成歩堂「どうして、そこまでお姉さんに協力するんですか?」
「きのうだって、修験洞で助けを求めてくれれば……
まる1日も、閉じこめられずに済んだのに」
あやめ「……………………お姉さまは……かわいそうな方なのです。
おかあさまに見捨てられて……お父さまにも、愛されなかった」
「……私には、毘忌尼さまがいらっしゃいましたから。
……お姉さまも、いっしょに葉桜院に来ればよかったのに。
私……お姉さまが大好きでした。
頭がよくて、行動力もあって、決して弱音を吐かない……。
だから、私……お姉さまのお手伝いをする、ってヤクソクしたんです」
ソレが即ち、誘拐事件の協力の件。
あやめ「私、弱くてヒキョウだったから……最後に、逃げてしまったんです。
……そのせいで……お姉さまは……義理の姉・勇希さまを……」
ここからの流れは、ちなみが先に語っていた内容と一致する。
ちなみを追い続けた、二人の弁護士――綾里千尋と、神乃木荘龍――の事。
そのちなみの犯罪に巻きこまれた学生――成歩堂龍一 ――の事。
続いて、事件当夜における、自分の動きについて明かす、あやめ。
あやめ「……あの晩、《消灯の鐘》を鳴らしたあと……私、自室に戻りました。
10時半ごろ……私の携帯電話が鳴ったんです」
「私……スノーモービルで《奥の院》に向かいました」
それで、あの豪快なトリックが使われたという次第。
さて。残る問題は。
その夜、あやめを電話で呼び出した人物は誰なのか?という事。
少なくとも、ちなみでは、あり得ない。
彼女はその時、舞子の身体から”消されて”いたのだから。
ただし、携帯電話で連絡を取り合ったという以上、
あやめが最初から、その人物に加担していた事は確かである。
あやめ「それでは……また、のちほど……。聞いていただきたいことがありますから」
意味あり気な言葉を残して、裁判長の執務室へ向かう、あやめ。
そのあやめと入れ替わりに、千尋が登場。
千尋「真宵には医務室で、すべてを話したわ。私の知っていることは、残らずゼンブ……ね」
「……真宵は、とても強い子よ。きっと、受け止められるわ……すべてを、ね」
千尋は、知っている。事件の真相を。
ややもすれば、真犯人の名前さえも。
千尋「……………………………私が協力できるのは、ここまでね。
ここからは、あなたひとりの力で戦うの」
という、師匠からの言葉を胸に。
――成歩堂は唯一人、シリーズ最後の「法廷バトル」に立ち向かう!