今回の目的は、絵瀬まことの証言を崩す事……だと思っていたら……。
休憩室にて。
相変わらず、独りマニキュアを塗り続けている、まこと。
王泥喜たちに促された彼女は、
やっと自らの身の上――証拠品をも作れる贋作師である事――を打ち明けた。
まこと「……ある日。おとうさんが気がついたんです……。
……わたしに……その。”チカラ”があることに……」
「……なんて言うんでしょう、”絵”だけじゃないんです……。
……材料さえあれば、なんでも”つくる”ことが……」
審理再開。
因みに時刻は、午後1:36。
緊張のあまりか、爪を噛みながら証言台に立つ、まこと。
そんな彼女に対しては、響也の人当たりの良い態度が功を奏して。
まことを刺激しすぎなように、慎重に言葉を選びながら、
7年前に起きた出来事について探っていく。
けれども。この、まことへの尋問が、また一苦労。
というのは、何度も台詞の出る度に、絵が描かれるのを待たねばならないから。
証言を揺さぶる時はまだしも、台詞をただ送る時まで待たされるってのは、どうにも。
それで判明した事は。
7年前当時のまことが、送られてきた記念切手を気に入っていたという事情。
そのため、その記念切手についての証言に、異議を申し立てる王泥喜。
ここでの「異議あり」も、今一つ不自然な印象を感じる。
裁判長との会話を挟んで「くらえ」にした方が、無難だったんじゃないのかな。
そして。この辺りから。
「或真敷一座」の名前が出始めた辺りから。
いよいよ響也、本格的に慌て始める。
響也「いいからッ! 答えて! ……早くッ!」
と、まことが怯えるほどの詰問口調。
まあ確かに、この慌てぶりはある意味、当然。
今まさに、響也自身の大いなる失態が、明かされようとしているのだから。
むしろ当方としては、彼にはもっともっと取り乱してほしかった。
なりふり構わない様を、見てみたかった。
正直な話、壁の1枚や2枚をぶん殴って割るくらい、やらかして欲しかった。
その詰問に押されながら、当時の自分が依頼された内容を答える、まこと。
まこと「………………………………本……でした……。
……ある”本”の、1ページを作りました……」
「…………………………手書きの、本……。あれは……日記、のような……」
だんだん、見えてくる。
これから明かされるのだろう、真実が。
7年前の、真実が。
響也「……彼の運命を決定したのは、ある”証拠品”だった。
……一冊の、手記。ウラ表紙に《シルクハット》のマークが刻まれていた……」
この響也の台詞。
出来るものなら、聞きたくなかった。
展開上、無理なわがままだとは思うが。
もしも、この下りが無かったら。
事件の引き金になった”証拠品”の詳細を、知らずにいられたら。
次の章を、まだ冷静に受け止められたかもしれないから。
特に、あの時――――”彼”としてAボタンを押す事になる、あの時に。
苦い気持ちを抱きつつ、それでもAボタンを押していく。
結局のところ、7年前の依頼人とは誰なのか。
まことは響也の顔を見ながら、答える。
まこと「……あのとき、わたしに本をわたしてくれたヒトは……」
あなたです検事さん。
とでも言うと思った。てっきり。
だからこそ、いちいち顔を覗きこんでいたんだろうと。
が。しかし。
彼女の台詞は、最後まで言われる事なく――虚空に消える。
まこと「………………………………ぐっ……! ごほっ!」
かつて、あの死刑囚の事件の時にも見せられた、忌まわしき場面。
まこと「……あ……く……ま……」
と呟きながら、倒れるまこと。
その場面を境に、世界は再び変化する。
「……以上が、《絵瀬土武六》殺害事件の公判……その、全記録です」
またも唐突に流れ始めるメッセージ、というかナレーションによって、説明される状況。
「絵瀬まことは、審理中。何者かに、毒を盛られたようです。
致死量にわずかに足りなかったため、一命はとりとめましたが……
現在、集中治療室にて、予断を許さない状況です」
って……あの。
返す返すも、随分と本当に、ご都合の宜しくていらっしゃる毒物様ですね。
0.002mgの致死量よりも、それより僅かに少ない量って何なんだ。
というか。そろそろいい加減に教えてほしい。
さっきからナレーター(?)やってるコヤツは誰なのか。
……と、そんな風に混乱していた気持ちが、一気に霧散してしまった、次の瞬間。
「真実への長い旅……ここに、もうひとつの裁判記録があります。
ある種、“出発点”ともいえる審理の記録です」
このメッセージが出た時。その画面を見た時。
暫くの間、ボタンを押すのを忘れました。
懐かしい”彼”の姿を目にして。感動に打ち震えてしまって。
けれど同時に。ふと冷静に思い出す。
ええと……確かこのゲームって、『逆転裁判4』だったよね?
何でお前がいるんだよ。
苦笑いでツッコミ入れながら、メッセージを読むうちに、次第に納得していく当方。
ああ。そうかなるほど。
ついに説明されるわけだな。次の章で。7年前の法廷が。
「成歩堂龍一VS牙琉響也」の記録が。幼いみぬきも絡んだ記録が。
だからわざわざ、こんな嬉しい画像を見せてくれたんだな。
なかなかのファンサービスぶりじゃないか。うん。
……そう。
この時の画像表示だけで、私としてはもう十二分だったのです。
なのに。それなのに。
まさか、あんな展開になるとは。
この後。『逆転裁判』史上というよりも、テキスト推理アドベンチャーゲーム史上、
あるいはいっそ、ミステリ作品史上と言うべき展開が、待っているのだ。