今回の目的は…………って、誰の目的を指せばいい?
成歩堂「……ようこそ、法廷へ」
まだ続く異空間にて、まだ続く成歩堂先生の口上。
その、成歩堂先生の指示に従い、タッチパネルに触れた直後。
「……何かが……私の中で、蘇ろうとしている……
……遠い昔に失った、大切なものが……もう少しで……」
いきなり誰だアンタ。
……コレも当方の嗜好なのだが、
こうやって物語の”視点”がガクガクと変わる話とゆーのは、
我ながらまた鬼門でありまして。
端的に言って、酔うんです。展開に付いて行けなくて。
ところで。ここで法廷記録を見てみると、
マニキュアボトル、記念切手、贋作されたページ、そして黄色の封筒が加わっている。
王泥喜「開廷直前に、成歩堂さんから押しつけられたこの手紙……
いったい、どんな意味が……?」
さて開廷。
被告人は不在のまま。文字通りの欠席裁判だ。
響也「医者のハナシでは……いつ亡くなってもおかしくない状況らしいよ」
…………って、あの。
もしかして今作は、死にそうな人がいないと物語にならないんですか?
響也「判決の出ない裁判は、ヒトを不幸にする……
今回の事件に関するいろいろな資料を見て、そう思ったのさ」
と言うよりも。たとえ死のうが生きていようが、
本来なら被告人が倒れた時点で、それこそ公訴棄却されるかと思うんですが。
もっとも、それでも響也は、自ら資料を調べているから、まだ良い。
問題はこっちだ。
王泥喜(事件の《闇》はすべて。ゆうべ、成歩堂さんから聞いた)
そらアカンやろ。
思わずエセ関西弁でツッコミ入れた。心の底から全力で。
仮にも”探偵役”たるもの、己の目と耳と手と足を使わなきゃマズイだろう。
成歩堂先生の話を信じるにしても。自ら行動して確かめた上でならともかく。
かつて第1作で、親友の自白さえ一切信用しなかった奴とは、まさに対照的だ。
とにかく王泥喜は、その成歩堂先生の話とやらに基づいて、
(我々プレイヤーは、メイスンシステムで知った情報に基づいて)
まことが倒れた経緯を推理する。
その推理によほど驚いたのか、
裁判長「弁護人……王泥喜くんッ!」
ここで初めて裁判長が王泥喜の名前を呼ぶ。
……今までずっと「弁護人」だけだったものねえ……。
ただし。ゆめゆめ忘れてはならない。
この王泥喜の推理はあくまでも、
「メイスンシステムを全て真実と見なすなら」という、
条件付きである事を。
確かにまことは「アリアドネ」のマニキュアを愛用している。
確かに霧人も「アリアドネ」のマニキュアを愛用している。
しかし。このマニキュア達をつなぐ客観的な証拠は、残念ながら――ないのだ。
その王泥喜の申し出により、召喚された霧人に尋問。
どうやら霧人、この度の殺人事件については、かなり精通している様子。
霧人「独房にいても、私のもとへは、さまざまな情報が集まるのですよ」
……と言いつつも、本当に肝心な情報は手に入っていなかったわけだが。
というわけで。またも攻略情報の力を借りて、霧人の証言を崩す当方。
たった3文字の部分を「みぬく」、一瞬のタイミングに苦労しながら。
けれども。その王泥喜の指摘に対しても、霧人は冷静なまま。
霧人「だったら、どうだと言うのです? 緊張した証人は、みな有罪ですか?」
そこに王泥喜が突きつける証拠品。
ただし……
王泥喜「この切手からはアトロキニーネが検出されました」
「そして、この切手は…………証人ッ! あなたの独房から発見されたのですッ!」
と、王泥喜がアッサリと言っている、この情報もまた、
「メイスンシステムを全て真実と見なすなら」という、
条件が付きまとう事を忘れてはならない。
霧人の反応を見る限り、黄色の封筒が独房に届けられていた事は確かなようだが。
そこに響也が、またも援護射撃。
響也「……正直なトコロ。アンタを信じていたかったよ」
と断ってから、霧人の論を潰しにかかる。
かくて。いよいよ物語は、「7年前」の事件の真相へ。
裁判長「殺害の”動機”……これは、事件の核心に迫る、重要な事項です。
それだけに、発言は慎重に行っていただきます」
響也「そう、これぐらいにね」
と、二人によって示されるペナルティ。
王泥喜(……多いな、コイツは)
……と言われても。やっぱり多くない。
一度に全ゲージ賭けたって良いのにな、ホントに。
そして、我々プレイヤーが王泥喜として、最後に提出する証拠品。
裁判長「まちがえた場合は……これだけのペナルティをカクゴしていただきます」
そこに更に、霧人の声も加わって。
霧人「これぐらいは、必要でしょうね」
と、初めて大幅なペナルティが示される。
それでもやっぱり全ゲージとは行かないのが悔しいが。
ともあれ。最後のXボタンを押す。
以下、暫くの間、我々に許されるのは、Aボタンを押す事のみ。
完全にビジュアルノベルの世界に突入する。
王泥喜「……これが、ふたりのつながりを立証する証拠です!」
と出した、黄色の封筒。
しかし早速トラブルが。
みぬき「あ! コレ。パパの字じゃないですか!」
霧人「成歩堂氏の”偽造グセ”は、なおっていないようですねえ……」
裁判長「”偽造”どころか。こんなの、ただの走り書きではないですか!」
また偽造品かい。
……こうなっちゃうと最早、何が真実か分からない。
第一、この時点での法廷記録には、偽造品だなんて一言も書かれちゃいないんだから。
王泥喜「コレは、本来の文面の内容を、成歩堂さんが書き起こしたものです」
「成歩堂さんは、牙琉霧人の独房を訪れた際に……
小型のビデオカメラを仕込んでいたのです」
「あなた(=霧人)とのやりとりは、すべて録画されていたんですよ。
あなたの”私信”の内容も、ね!」
などと述べるくらいなら、その実物こそを、王泥喜に提出してほしかった。
弁護士自ら独房を訪ねて、弁護士自ら証拠を手に入れてほしかった。
そのじつ霧人、言われて絶句してるんだし。
さて。
自分としては、ここから奇跡の大逆転が始まると思っていた。
例えば――コレはネット上で或る人が言っていた受け売りだが――
実は記念切手に指紋が残っていて、それをカガク捜査で見つけ出すとか。
王泥喜の提案によって召喚された茜が、一世一代の活躍をするとか。
勿論ソレは、提出された封筒が本物である事がまず前提だが。
ところが。
実際に起こった出来事は、もっと遥かに凄まじい物だった。
「異議あり!」
という、響也の宣言(コール)をきっかけに。
世にもハタ迷惑な兄弟ゲンカが、ここに勃発する。
それによって、とうとう判明する事実。
響也「あの法廷は、オレたちの兄弟対決になるはずだった。
オレは、初めての法廷を正々堂々と闘いたかった!
だから。前もって、被害者の遺留品の貸し出しも認めたし……
調査資料もゼンブ、見せたんじゃないか!」
事の元凶はキサマか響也。
要するに、だ。
7年前当時、響也が資料を横流ししなければ。事は平和に終わっていたのだ。
霧人こそが「”勝ち”に目がくらんだ担当弁護士」(by響也)だったのだ。
モチロン、実社会の裁判でも、検事と弁護士が事前に話し合う場合は見られる。
ただし、あくまでも公的な場所で行うのだ。そーゆー事は。
当時の牙琉兄弟がやった事は、単なる癒着、密室談合に過ぎないのだ。
それにしても。
響也は霧人に一体全体、どんな話を吹き込まれていたんだろうか。
当時の響也も、己の目と耳と手と足で、成歩堂について調べ直せば良かったろうに……。
その後。霧人の口から語られる、7年前の事情。
長い話を一言でまとめれば、彼が色々やらかした直接の動機は、
ひとえに嫉妬の逆恨み。
『逆転の切札』での被害者・浦伏の正体も、これまたアッサリ明かされて。
しかも何と、みぬきは、とっくにその浦伏の正体を知ってたみたいで。
みぬき「どんどん行きましょうよ! 話はあとです!」
その、みぬきの言う通り。
またしても、王泥喜と響也と、二人がかりの総攻撃で、霧人を追いつめていく。
しかしそれでも、まだ霧人は冷静なまま。
王泥喜たちが挙げているのは、あくまで状況証拠に過ぎないと主張する。
霧人「……法廷は、証拠がすべて。それだけのこと、なのですよ」
響也「ザンネンだが……アンタの言うとおりだ、アニキ」
「……今までの法廷ならば」
王泥喜「……ッ! そう、か」
(すっかり、忘れてた……)
「《裁判員制度》……ですねッ!」
あ。そうか。私も忘れてた。
何せ冒頭で、成歩堂先生が言ってただけだったから……。
しかもその上。
王泥喜「この法廷のようすは……カメラで中継されていたんですよ」
正直に告白。
王泥喜・みぬき・響也が首を向けた瞬間。思わず吹きました。
笑った事は素直に認める。
ただ、王泥喜に限っては、後でよく考えると、ちと不気味。
鏡の中の自分が、いきなり動いたような物だから。
そんな予想外の展開に、髪を振り乱して叫ぶ霧人。
霧人「認めぬ! 認められぬ!
こんな……こんな法廷など……法が……法律だけが”ゼッタイ”なのだッ!」
その霧人に対して、それぞれ一言。
響也「《法律》は”ゼッタイ”じゃない。いくつものムジュンを抱えているさ」
裁判長「法律とは、長い歴史……先人たちの《知恵の結晶》なのです」
王泥喜(……オレには、コトバはなかった)
って……何か言おうよ王泥喜よ。
何も、カッコつけた事言う必要ないから。
仮にも相手は師匠だよ? 言える最後のチャンスだよ?
「色々あったけど、今までお世話になりました」とか。せめて。
審理は終わりに近づいていく。
裁判長「…………………………当法廷は、判決を下すに対して、
”あなた方”の判断をお待ちします。……裁判員のみなさま」
「今こそ。評決をおねがいしましょう!」
この台詞を境に。物語の”視点”は、またも突然に移動する。
時は、午後0:48。
所は、裁判員室。
成歩堂「……以上で、本件に関する審理はすべて終了しました」
「《判決》は、手元のパネルで選んでいただきます。それでは……」
No.6「あの……待ってください!」
だから誰なんだよアンタ。
成歩堂先生曰く、裁判員の一人のようだが。
結局のところは誰なのか。
台詞回しを見る限りでは、
「今DSを構えている我々プレイヤーたち」というのが順当な判断。
言い換えるなら、あるいは、王泥喜に憑依してる妖精さんみたいな。
つまり、当方としましては、
今作はプレイヤー自身を(裁判員として)作中に入れた、
メタミステリだったんだなーと、むしろ納得しておりました。…………初見の時は。
で、評決画面。
よくよく見れば。何者なのか分かるようなシルエットも見える。
でもそれでも当方はまだ、自分自身と思ってました。
……と、思ってたから、袖の中から腕輪が出てきた時には驚いて。
でもそれでも、王泥喜の腕かと思った奴は私ですが。
因みに当方、1周目では、あえて何も考えずに「無罪」を選んだ。
タッチパネル画面を、上手く使ってる演出だとは思う。
けれども。考えてしまう事。
もしも私がこの世界での一般人として、実際に裁判員に選ばれたとして、
それでこの評決画面を目の前にしたら。
それでも私は、「無罪」を選ぶ事が出来るだろうか。
事実と違う、事実ではない、言わば「作られた物語」であるメイスンシステムを見せられて、
捜査官(=成歩堂先生)の主観に基づいたデータを見せられて、
それでも私は、「無罪」を選ぶ事が出来るだろうか。
何か偉そうな事を言ってた、あの眼鏡長髪のにーちゃんは、確かにムカツク奴だけど。
そんな安易な気持ちでいいんだろうか。
本当に真犯人なんだろうか。
毒に倒れた女の子の代わりに、有罪にしてしまっていいんだろうか。
ここで私は、「無罪」を選ぶべきなんだろうか。
それが市民の良識なんだろうか。
それが本当の正義なんだろうか。
どうしたら、いいんだろうか。
どうしたら、よかったんだろうか。
なお、評決の結果が出るのは、同日の午後2:14。
「無罪」を選べば、次の章へと続く。
「有罪」を選べば、即刻ゲームオーバーだ。