「ビッグタワー」裏の空き地にて。
ナツミとミキコの大阪人コンビは、荷星と由美子を相手に、
すべったコント……もとい突撃取材中。
そこに狼と御剣とイトノコ刑事と美雲と水鏡と詩紋が加わる。
これで10人が、一つの場所に集まった事になる。
モブの警官も含めれば総計11人だ。
狼は大統領暗殺事件を追うべく、さっそく水鏡と詩紋を問いつめる。
すると水鏡、自分についての事情は話せないの一点張りの一方で、詩紋にはこの態度。
水鏡「そんな口のきき方をしてはなりません!」
詩紋「………………ゴメン」
美雲「なんだか、ミカガミさん性格変わっちゃってません?」
言われてるぞ水鏡。
心配性というべきか過干渉というべきか。水鏡の説教は長々と続いた。
その説教が全部終わるまで待ってる狼も、優しいというか。
次なる目的は、相沢詩紋の主張を崩す事。
昨夜の詩紋の事情を聞くや否や、憤る水鏡。
水鏡「ウソをついたのですね……!」
……せめて理由くらい聞いてやれよと思う私は間違ってますか?
問いただしてみれば、やっぱり理由があった。
昨日は牛乳を飲み過ぎておなか壊した事とか、
だからその後の夜に練習していた事とか、
自分の演技を録画していた事とか。
で、それらを隠していたのは、単に恥ずかしかったから。(←翻訳)
怪獣の足跡だと騒ぐ外野は置いといて。
狼が次に注目したのは、詩紋の録画テープの画像。
次なる目的は、狼士龍の主張を崩す事。
狼が指摘する、アヤシイ着ぐるみ。
昨夜その中には、確かに人が入っていた。
ただし被害者ではなく、土に汚れた万才が。
つまり万才、ここで土木作業をやり遂げたというのだ。
御年68歳の身で、たった一人で、一晩かけて。
闇オークションをこなしながらの殺人事件や、弓彦の証拠品を捨てるのと同時進行で。
パワフル過ぎ。
さあ、とにかくこれで一歩前進――と喜んだ端から、ナツミとミキコが混ぜ返す。
だが、ナツミが見た目玉の件はともかくも、詩紋の前に現れたヒョッシーの件は、あくまで脱線。
そう。
ヒョッシーなんていないんですよ。
ひょうたん湖の時だってアレだったし。
ただ、そうやって指摘したおかげで、
詩紋「なんでもお見通しなんだな。…………すげえよ、オッサン」
と、詩紋に認めてもらえたのは収穫だったかも。
ここまで話が進んだところで。待っていた解剖記録がやっと届く。
簡潔に言えば、死因は圧死。
狼「右手からは、ショウエン反応が出ているようだな」
と、過去作ではキレイさっぱり消去(デリート)されてた情報込みだ。
死因が墜落死でない事が明らかにされた事から、今度は詩紋が単独で疑われる。
そこで、詩紋の録画テープを機械で解析する御剣。
また動画チェックかと一瞬焦るが、今回は静止画像なので一安心。
何も映ってない真っ暗闇を拡大した途端、突如現れた人影。
詩紋は動揺しつつも、昨夜の出来事を少しずつ打ち明け始めた。
次なる主張は、相沢詩紋の主張を崩す事。
「母さん」からの電話で席を外した後、
ボルモスの頭部模型が落ちていた事と、倒れる人影があった事を認めた詩紋。
つまり詩紋は、自分の過失の際に変死体を見つけていながら、立ち去ったという事になる。
彼が通報しなかった理由は――死体に黄色の汚れがあったから。
その汚れについて、水鏡が説明を加える。
自分が大統領に渡した花の花粉だと。
水鏡「シシユリは、黄色い大きな花弁を持つ美しい百合ですわ」
ところで。念のため断りますが。
このシシユリって花もまた、実在しません。
言ってみれば、捏造された植物です。
ただし人でなく、神の手によって。
あくまでも、狭量な私見ではありますが。
この場面で本当に、空しい気持ちになりました。1周目当時。
こうも創り手によって次々と、新しい架空の設定を創られたら、読み手は推理なんて出来なくなる。
ミステリというより、完全にファンタジーになってしまうだろうに。
話を戻す。
花の名前を明かしても、何故その花を渡したのかは答えない水鏡。
そんな彼女に、焦れた狼が言い放つ。
狼「言えないだの、分からないだの……アイマイな答えばかりだな!
アンタの裁判では、そんな証言がまかり通るのかい?」
と、今度は詩紋が説明を加えた。
家を出る時の水鏡が持っていた花だったから捨てたのだと。
つまり水鏡と詩紋は、同居しているという理屈になる。
……ホントに親子関係なんだな。
荒れ狂う狼を、制する御剣。
詩紋が睡眠薬によって眠らされて誘拐され、倉庫に監禁されていた事を告げる。
実際に詩紋をさらっていたのは例の黒幕だが、
あるいは詩紋をさらっていたかもしれない人物が、もう一人いるのだ。
狼「…………一柳万才……まさか……12年前の?」
また「12年」。
そう何度も繰り返された数字の答えが、狼の部下たちによって示された。
「師父! 私からもお願いします! 12年前の……《SS-5号事件》の再捜査を!」
かくて本件は、大統領誘拐事件の方へ脱線していく。
まず、狼が報道で知っている限りの情報。
12年前、王帝君がこの国を訪ねた時に起きた誘拐事件。
王帝君は無事に保護されたものの、
当時の容疑者には無罪判決が下ってしまい、迷宮入りしてしまったのだという。
狼「その容疑者が、美和マリー……アイツさ」
つまり、狼が刑務所を訪ねていたのも、「SS-5号事件」捜査の一環だったという次第。
しかし、今の状態では、例のVR空間を作る事もほぼ不可能。
そこに現れたのが冥(と信楽)。
「SS-5号事件」を担当していた万才の圧力が解かれた事で、資料が解禁されたというのだ。
「オヤジたちのことは、オレにまかせてくれ。そちらの事件は、アンタらにまかせたぞ」
……以上、弓彦から冥への伝言。
では、さっそく捜査……するため、「ビッグタワー」前の広場へ移動。
確かにその方が、細かい検証しやすいですものね。
六度目の広場。
かつて王帝君が誘拐された場所である。
更に言うと、目撃者・亀井隆二が殺された場所でもある。
居合わせるのは、御剣・イトノコ刑事・冥・美雲・狼・信楽・水鏡・詩紋・ナツミ・ミキコの10人。
先程と同じく、狼の部下を含めれば総計11人の大所帯だ。
狼「12年前、この場所にあったのは……《ハッピー・ファミリー・ホーム》」
「親を亡くした子供たちが共同生活をする場所……さ。
《児童養護施設》と言ったら分かりやすいかもな」
「そして、当時の施設の所長をしていたのが、美和マリーだった」
またも出てきた、同じじモチーフ。
「親の居ない人」が一体どれだけ出てくるんだろう今作は。
とゆーわけで。ここからは自由行動。
美雲によるVR空間を歩き回る。
大統領暗殺事件を調べるために、大統領誘拐事件を調べるために、殺人事件を調べる……。
だんだん構造が分からなくなってきた。
冥が資料を得るために尽力した話。
狼がこの事件の光景に見覚えがある話。
詩紋が水鏡をかばおうと頑張ってた話。
そんなこんなを聞きながら、
三つ配置された花壇のそばに伏している死体に近づく。
死体の周りにある靴跡は、一つは29cm程度、もう一つは25cm程度。
建物そばの状況は残念ながら、施設の子供が起こしたボヤのせいで不明だ。
被害者が持っていたボタンやカメラ、恋人の籠目つばさへ伝言を残した携帯電話、
そして――落ちている黄色の大輪。
花壇に近寄って、もう一度花を調べた時。
この作品を象徴する台詞が、冥から吐かれた。
冥「これは、《シシユリ》ね。百合の中でもめずらしいものよ」
「《シシユリ》は、たしかアジアが原産だったわね。花ことばは、《親子のキズナ》……」
ああ……。コレを言わせたかったんだな。作者は。
小学校の作文の授業で習った。
本当に「スゴい」と思った事を書く時に、そのまま「スゴい」という言葉を使っちゃいけないと。
何度も使うと、それは下手な作文になってしまうのだと。
花粉をトリックに使いたいなら、普通の百合にすればいい。
花言葉を優先したいなら、バラやハハコグサなどにすればいい。
ご都合主義を振りかざすから、こうして安易に固有名詞を作るハメになる。
ずっと昔から存在し、人の手が入る余地など無いだろう、植物の名前まで。
何よりも悔しいのは。
私たちの世界の誰も知らない花の名を、この作品世界の人々が当たり前に知っているという、
この最大の矛盾に、異議を唱えられない事。
故に私としては、こう結論せざるを得なくなる。
この作品世界には、私たちの世界の常識は通用しないのだと。
この作品世界では、推理も、考察も、解釈も、論証も、全て無意味。
我々読者は、ただ作者の前に屈服するしかないのだ。
万才が土木工事した理由を解き明かしてから、VR空間を更新。
時間軸は、亀井が発見された朝から、襲われた瞬間の夜へと移動する。
いきなり名前の判明した狼の父・狼大龍(ろう たいりゅう)の捜査では、
誘拐犯と養護施設との関係を追求しきれなかったという。
が、ソレはある意味、当然の話。
結論から言えば、こうして再現されている捜査資料は、
万才たちによって改ざんされまくっているのだから。
VR空間の夜は、更新されていく。
亀井が襲われた場所が、嘘になる。
亀井の靴跡も、嘘になる。
亀井の撮った写真も、嘘になる。
王帝君が誘拐された場所も、嘘になる。
今まで調べてきていた全てが、「なかったこと」になっていく。
VR空間の朝もまた、更新されていく。
亀井の流した鮮血が、嘘になる。
子供がボヤを起こした時刻も、嘘になる。
一連の事件の鍵を握る、その子供が描いたらしい絵画の事を、思い出す狼。
時を同じくして御剣たちは、万才が空き地から掘り出していた物の見当を付ける。
……この時点ではまだ、程度の甘い幻想だったが。
そこに、資料を手に戻ってきた狼の部下。
説明もそこそこに、狼はまず絵画を広げてみせる。
一見は子供が無邪気に描いたような、しかし必要な物は詳細に記されている証拠品。
それから、ボヤを起こした子供――少年の動向。
何と、事件の数日後から行方知れずになってしまっているらしい。
そして、もう一つ。
施設に残されていた、何かの部品。
御剣はその部品を、元ある場所へ付け直す。
元通りになったボルモスのぬいぐるみから流れてきたのは、
12年前に録音された言葉だった。
「…………王さん。アミです。ひさしぶりね。
あなたがこの国に来るというニュースを見て……
とても悩んだけれど、メッセージを送ることにしました。
産まれたの……男の子よ。あなたの子。
ごめんなさい。それだけは伝えたくて。
名前は、シモンっていいます。相沢詩紋……いい名前でしょ?
2月9日の夜。施設の中庭で待ってます。
一度でいいから、シモンをあなたに会わせてあげたいの。
わがままを言ってごめんなさい。でも、待っています……」
以上の長い口上を、水鏡は必死に止めようとしたが、遅かった。
当の詩紋は、すぐに意味を察した。
水鏡「シモンは……わたくしの本当の息子ではありません。養子……なのです」
「シモンの母親……相沢アミが亡くなったのが5年ほどまえのこと。
彼女とわたくしは、従姉妹の間柄に当たります」
つまり、水鏡が21歳の時に、8歳の詩紋を引き取ったという計算になる。
最悪の機会に、最悪の状況で、実親の素性を知らされた詩紋は、しかし毅然と話を受け止める。
やっと水鏡も、王帝君と会っていた理由を打ち明ける。
アミや詩紋についての事を伝えていたのだ。
少しだけ流れた静かな時間は、狼の部下の発言で途切れた。
「こちら……大統領の遺言状ですッ!」
その内容は、まさしく水鏡の話を裏付ける物。
重い現実に耐えきれなくなったか、詩紋はとうとうその場から走り去った。