審理再開。
新たな証人・美柳ちなみの登場である……が。
彼女が現れた途端、法廷内の空気は一変。
裁判長「この証人のコトバなら! 私、なんでも信じられそうです!」
と、あの裁判長でさえ完全に、魅了(チャーム)の術にハマっているような状態に。
確かに実際、ちなみは綺麗な姿だと思う。ソレは認める。
でも、隠された本性を知っている今となっては、ねぇ……。
ちなみ「……あの。おじさまがた?」
亜内「む。オジサマのことですかな?」
裁判長「このオジサマに、なんでも言ってごらんなさい!」
ち「きっと……どこかに、大きなマチガイがあるのだと思いますわ。
リュウちゃん、ひとごろしなんて……いたしませんもの」
と、最初こそ、健気な事を言っている、ちなみ。
千尋(オジさんたちを、たった12秒で味方につけちゃったわ)
上記の会話(ちなみの「……あの」から「……いたしませんもの」まで)は、計ると本当に約12秒。
というわけで。ちなみが最初にした証言だが。
成歩堂を(意図的に)庇っている内容なのは明らか。
尋問を要求する千尋に、ちなみは不敵に笑いかける。
ちなみ「………………ふふふ。あいかわらず、ですのね。綾里千尋さん」
千尋「………………」
亜内「お、オヤ。……おふたりは知り合いだったのですか……?」
千「ええ。……以前、ちょっと……」
ち「…………………………」
本当は、「ちょっと」どころの話じゃないのだが。
また、ちなみは、
ちなみ「よろしくおねがいしますね。……おばさま」
と、千尋に殊勝に挨拶しているが。
この事件での、ちなみの年齢は20歳。一方、千尋の年齢は24歳。
たった4歳差で「おばさん」呼ばわりとは、何とも。
その、ちなみへの尋問で、次々と明らかになっていく事実。
現場では雷が鳴っていた事。
ただし、現場への落雷は無かった事。
凶器である薬学部の送電線が切れたのは、殺人事件が起こったその時だった事。
そして。
成歩堂は、その送電線を切った原因ではあるものの、
被害者を感電させた人物というわけではない……という真実を、千尋は亜内たちに指摘。
更に、そうやって亜内を驚かせた千尋の、心の呟き。
千尋(敵の悲鳴って……なんて心地よく、ムネにヒビくの!)
こんな事を思うこの人こそ、天性の猛禽類と呼びたくなる私。
ところが。
成歩堂の無実を証明した千尋に、ちなみが反論。成歩堂の犯行を目撃していたと述べる。
ちなみ「リュウちゃんには悪いけど……ホントのコトを言わなきゃ、って」
「ごめんなさい。わたし……リュウちゃんを守らなきゃ、って」
どうやら、そろそろ本性を出し始めた様子。
それなら。そっちがその気なら。私だって本気になるわよ。いいわね、ちなみさん。
……てな事を考えたかは知らないが。とにかく真犯人の名を告げる千尋。
いよいよココから真相に向けて突っ走る、と思ったのも束の間。
「待った!」
成歩堂「この裁判、ちょっと待ったあッ!」
「弁護側は……今の発言を全面的に取り消しますッ!」
「千尋さん、見そこなったよッ!
ちいちゃんは……ちいちゃんは、そんなコトしないやいっ!」
ちなみを押しのけ、証人席に飛びこんで。
今までの流れを全てぶっ壊したがる被告人・成歩堂龍一。
星影「……ヤレヤレ」
そんな折、千尋の元に星影が駆けつける。
星影「チミの新聞記事にあった事件……警察の資料を手に入れてきたぞい!」
「チミが、その……コイビトを失った事件」
この記事を読むと、件の事件において、カフェテリアで殺された弁護士の名前が、
「神乃木荘龍(かみのぎ そうりゅう) (年齢:28歳)」だった事が分かる。
千尋「半年前、この裁判所の地下食堂で起こった事件……。
そして……事件と同じ日に出会った、あるカップル……」
二つの事件をつなぐため、千尋は再び、ちなみへの尋問を求める。
成歩堂「……ホント、はたメイワクなほどアツアツなんです、ぼくたち!」
と、証人でなく被告人が勝手に口を挟んできたり、
ちなみ「……はかなげな、日かげに咲いたタンポポのような、たたずまい……」
と、仮にも恋人を、褒めてるんだかおちょくってるんだか分からんコメントが出てきたり、
それから、亜内が既婚者である事がついでに分かったりしながら。
ちなみが成歩堂に近づいた本当の理由を暴いていく千尋。
千尋「彼女は、半年前の事件の最有力容疑者だったのです!」
現在の事件を解き明かすべく、半年前の殺人事件を洗い直す千尋。
ちなみ「私がおさないころ巻きこまれた事件について話を聞きたい……。
亡くなった弁護士さんが、そうおっしゃったんです」
千尋「今回のコトといい……よく事件に巻きこまれるのね」
「巻きこまれる」というより、「巻きこんでいる」という言葉の方が、ちなみには相応しいかもしれず。
その一方、相変わらず被告人の頭の中は春一色。
成歩堂「シンパイいらないさ! ボクが守ってあげるから!」
「ちいちゃんは、トイレなんか行かないんだい!」
って。もしや、中学生みたいな付き合い方してるのか? 成歩堂。
なお、半年前の殺人事件で使われた凶器は、液状の毒薬。
その致死量は10ml。「検出がむずかしい猛毒」(byちなみ)であると言う。
順当に考えれば、精製した青酸カリの類だろうか。それとも、いっそTTX?
それで問題になるのは、その毒薬(の容器)の在り処。
事件当時、ちなみの身体検査では発見されなかったとの事だが、ソレは寧ろ当然の話。
今までの物語の流れを踏まえれば、彼女が毒薬を隠した方法は、一つしかない。
裁判長「まさか、この中に……モードクが!」
と、驚愕の事実が明かされた、その時。
「異議あり!」
成歩堂「ちいちゃんのかわりに異議ありッ!」
ちなみを押しのけ、証人席に飛びこんで。
またも今までの流れを全てぶっ壊したがる被告人・成歩堂龍一。
未だもって、ちなみを庇おうとする成歩堂に、千尋は現実を突きつける。
結論から言えば、成歩堂はまさに事件に巻きこまれたのだ。
その日、たまたま裁判所の資料室に居た、ただソレだけの理由で、
ちなみは成歩堂に近づいたのだ。
毒薬の”隠し場所”として。
ところが。そんな千尋の必死な説得に対して、成歩堂が取った行動は。
成歩堂「……そんなの……そんなの……ウソだわあああああああああんっ!」
被告人、逃亡す。 (泣きながら)
しかも、千尋を問答無用に突き飛ばして。
しかも、あのペンダントまでかっぱらって。
係官たちとの、すったもんだの末。取り押さえられる成歩堂。
さっそく千尋は成歩堂に問いただす。
千尋「なるほどくん! 証拠品を……ペンダントを、どうしたの?」
成歩堂「………………………食べちゃいました」
千「………………………は?」
成「……ガラス製でカタかったけど。バリバリ噛みくだいて」
……えーと、その。何と言うか。
究極の証拠隠滅だよな、ソレって。
泣きながら、恐るべき告白をした成歩堂に、千尋は血相を変える。
千尋「なるほどくん! なるほどくん! おなか、イタくない?」
って。
本来なら、そんな悠長な話じゃない。医者だ、救急車だ、胃洗浄だ。
恐らく、成歩堂が死なずに済んだのは、千尋の言うように毒物が残っていなかったからと、
後は潮解性による風化などで、毒性が失われていたからだろう。
もっと言ってしまえば、「未来の主人公だから」という、明快な理由も有りますが。
それにしても。
思えば、『逆転、そしてサヨナラ』の被告人さんも、大いに法廷で暴れてくれたものだが。
上には上がいたようだ。
が、しかし。
成歩堂がやらかしたこの行動は、今までの裁判の流れを、大幅に変えてしまった。
ちなみの致命的な証拠品は消え失せ、それどころか成歩堂は、
ちなみは毒物を持っていなかったという事を立証してしまったのだ。
亜内「私は……証人・美柳ちなみさんをイノチをかけて信頼している!」
と、亜内の方もすっかり立ち直って、格好の良い台詞を吐いてくる。
これでもうお終いなのか、と嘆きそうになった時。
遅まきながらも、成歩堂は少し正気を取り戻した。
成歩堂「ゴメン、千尋さん。ボク、忘れてました。
……こんなボクのコト……千尋さんは、ホントに信じてくれていたんですよね」
と、謝ってから、ずっと隠していた事情を打ち明ける。
被害者の呑田の告げた話は、ちなみの悪口でなく、成歩堂への忠告だった事。
ちなみは二度に渡って、薬学部の毒物を盗み出しているらしい事。
事件当時の殺人現場に、被害者のそばに、ちなみが居た事。
そしてその事を、ちなみから口止めされていたという事を。
どこまでも、ちなみを信じようとしている成歩堂に、千尋は自らの推理を示す。
ちなみは成歩堂を殺そうとしていたという、辛すぎる真相を。
事実を認められず、例によって大泣きする成歩堂に――かけられる、声。
ちなみ「ちょっと、ジャマよ。どきなさいな……リュウちゃん」
成歩堂を押しのけて席に立ち、辛辣な毒舌を吐く、ちなみ。
顔を背け、速やかに去ろうとする彼女を、しかし千尋は呼び止めた。
ちなみは成歩堂を殺そうと企んでいた。
毒を仕込める物と言ったら、やはり一つしか考えられない。
千尋「この薬……あなた、飲めるかしら?」
「なるほどくんは、あのペンダントを食べたわ。
あなたも試してみる? 運がよければ……助かるかもね」
「もし、あなたが無実だと主張するならば……
たった今、それを証明しなさい! ……この薬を、飲みくだして!」
千尋に追いつめられて、とうとう、ちなみの顔色が変わった。
ちなみ「……………………………………。……ぐ……ぐぐぐうう…………。
アヤサト チヒロ…………………アヤサト チヒロオオォォ………。
……コレデ ワタシニ 勝ッタツモリ?」
鬼が出た。
背景効果の蝶までも焼き尽くす、その眼光。
ちなみ「ク……クク……クククク……イイワ……オバサマ! 今日ノトコロハ……」
「今日のところは、花を持たせてあげますわ」
「わたし……このままでは終わりませんわよ。また、いつか。お会いするわ……かならず」
と、意味深長な言葉を残して。ちなみは、笑顔で法廷を立ち去った。
――自ら、警察に出頭するために。
事件は終わった。
後に残るのは、自分のプライドのために足掻いている亜内への、最後通牒。
千尋「このクスリ……飲めますか?」
亜内「……え……!」
千「あなたは……、さっき私に、こう言いましたね」
亜内『私は……証人・美柳ちなみさんをイノチをかけて信頼している!』
千「……さあ、センパイ。この新米に、証明してください。
どのていどの覚悟をもって、証人を”信頼”していたのか!
あなたが”かけていた”と言うイノチが、どれほどのものなのか!」
という、烈しい言葉をぶつける千尋。
その千尋に叩きのめされるように、亜内は絶叫。そして。
毛も魂も抜け果てた。
この事件を境に、亜内は「押しが弱く、何となくパッとしない男」(←法廷記録より)になった次第。
裁判長「あなたは、美柳ちなみを知っていたようですが……?」
千尋「……………………それは……本件とは関係のないことです」
裁判長「……ええと、亜内検事」
亜内「アクムだ! これはユメなんだ! この亜内が、自分のムスメみたいな」
裁判長「しからば、被告人」
成歩堂「……うう……ウソだ……ちいちゃん……うええ……げほっ」
多くを語らない千尋。茫然自失している亜内。泣きじゃくる成歩堂。
三者三様の裁判は、これにて閉廷。
かくて何とか事件解決、と言いたいところだが。
この期に及んで、成歩堂は納得していない模様。
成歩堂「今日のちいちゃん、本当にホンモノだったんでしょうか!」
「ボクのちいちゃん、あんなヒドいコト、言う子じゃないし……
もしかしたら、よくできたニセモノ……」
この台詞だけ読むと、何をアホな戯言を……と思えるが。
後々になって考えると、コレまた結果的に大当たりだったわけでして。
例によって例の通り、この男には、何かが視えていたのかもしれない。
成歩堂「………………………ぼく……今、弁護士を目指して、勉強しているんです」
千尋「でも、あなた……たしか、芸術学部だったんじゃあ?」
成「どうしても、助けたい友だちがいるから。
急げば……今なら、まだ間に合うはずなんです!」
真面目な様子で語られる、第1作への伏線。
成「ぼく……勉強します。かならず、弁護士になるから!
だから……またいつか。法廷で会おうね、千尋さん!」
ここで、物語の視点は「現在」に戻る。
成歩堂「……もう二度と、ふり返ることはないと思っていた記憶……」
千尋『なるほどくん。何があっても、依頼人を信じるの。
法廷で最後に必要になるのは、……そのチカラよ』
成「あの事件から5年たって……彼女のコトバを、
ぼくはもう一度、噛みしめることになるのだが……。
……それはまだ、少し先の話だ」