『失われた逆転』で失われていた物。

『失われた逆転』の時、成歩堂の中で一旦「リセット」され、失われていた物。
ソレは、第1作で培った、弁護士としての「経験」だけではない。
第1作で語られていた、弁護士を目指した「動機」も含まれる。


孤独な人を救うために弁護士になったと、当時の成歩堂は言っていた。
しかし、本当にそうだろうか。

”アイツ”を救うために弁護士になったと、当時の成歩堂は言っていた。
しかし、本当にそうだろうか。


そもそも成歩堂は、果たしてあの人物を本当に救ったと言えるのか。

確かに成歩堂は、あの人物の長年の悪夢を打ち破った。
劇的な形で、ことごとく破壊した。

そして、ソレと同時に。
あの人物が15年間かけて築いていた全人生、
いわゆるアイデンティティも全て、跡形もなく叩き潰してしまったのだ。

――それで「救った」なんて、堂々と言えたものか。


成歩堂が弁護士になった動機。
本当は、”アイツ”に会うため、ただソレだけだったとは言えまいか。
この表現に語弊があるのなら、こう言い換えてもいい。

成歩堂はただ、「本当の事」を知りたかっただけ。
「自分が知らない事」「自分が知りたい事」を知りたかっただけ。


そう。この男は決して、純粋に正義のために戦っているのではない。そんな甘い奴じゃない。
でなければ、真犯人を叩きのめした時に、会心の笑みなんて浮かべるはずがない。

依頼人を救う、という言葉も、実を言えば建前に過ぎない。
でなければ、依頼人を救うためと称して、別の人に罪を着せる作戦なんて思いつくはずがない。
(参照:『逆転のトノサマン』法廷パート1回目)


彼が弁護士であり続ける動機。
突きつめて考えると、ソレは結局、自己満足で止まっているとも言える。
根っからの探偵気質を持つ、ミステリ世界の申し子としての。
(ここでの「探偵」とは「調べる人」という意味)
少なくとも、この『失われた逆転』の時点では。
事件の謎を解く事に明らかに快感を抱いている彼の姿が、その確かな証拠だ。


でも、それでも。
その彼の自己満足は結果的に、他人を救う事につながっていたから。
それだけの動機でも、問題はなかった。

彼の前に現れた依頼人たちは、常に善人だったから。
彼の前に現れた真犯人たちは、常に悪人だったから。
ソレが、物語の今までの前提だった。



けれど、もし――――その前提が崩されたら?



その答えが示された事件こそが、『さらば、逆転』だったわけである。




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