各々が、自らの運命に決着をつける、「初期三部作」最終話。
冒頭は、雷鳴と共に語られる、倉院の里の秘宝・七支刀の理(ことわり)。
そして、その七支刀に刺し貫かれた―― 一つの死体。
所は変わって。
厳冬2月の、成歩堂法律事務所にて。
霊場の「葉桜院」での修行(スペシャル・コース)を体験したいと、成歩堂に申し出る真宵。
春美がその予約を申し込んだとの事。
ただ、成人の付き添いが必要なため、成歩堂も一緒に行かねばならないそうで。
そんな話を聞いて、
成歩堂「ぼく、霊力なんてカンケイないぞ」
と慌てる成歩堂だが。
関係ないとは言わせない。今となっては、むしろ大有りかと。(勾玉、使いこなしているし)
わざわざ寒い山の奥地に行く事を渋る成歩堂に、春美が見せる雑誌「お!カルト」。
ソレに載っていた写真――写っている若い尼僧に、成歩堂の目は釘付けになった。
成歩堂「こ、この尼さん……」
やや表情が違って見えるものの、その姿は確かに、あの美柳ちなみそのもの。
けれど、そんなはずは絶対なくて。
成歩堂(彼女は有罪判決を受けて、今も……刑務所に……)
そうやって、疑問を感じた時の成歩堂のする事は、決まっている。
成歩堂「………………………………行くよ」
「《葉桜院》だっけ。……ぼくも行く」
というわけで。
尼僧の正体を確かめるため、辿り着いた「葉桜院」。
雪をかぶった山門のそば、雪をかぶったスノーモービルが置いてある。
当然ながら、とにかく寒い。
この時、話の都合上、真宵たちは普段通りの服装だが。
本当は充分に防寒してると信じたい。さもないと凍死します。
そんな彼らの前に現れる、小柄で元気なオバサン尼僧。
「おやおやおやおや。これはこれは……いらっしゃい」
この「葉桜院」の住職・毘忌尼(びきに)である。
夕食まで間があるので、近くを散策するように勧められる成歩堂たち。
その会話の中、成歩堂は毘忌尼に、雑誌に写っている尼僧について尋ねる。
結果、分かったのは。
尼僧の名前は「あやめ」。今は、ここから離れた「奥の院」側に居るとの事。
はやる気持ちを抑えて、まずは「葉桜院」側の本堂へ。
どうやら、今夜の夕食はカレーらしい。幼い春美を思いやったのかも。
そこに現れた、新たな女性。
「ふふふ……愛らしい修験者さんね」
装束の上にローブをまとって、水晶を付けた杖を持っている。
大ファンだと喜ぶ春美曰く、その名も「天流斎(てんりゅうさい)エリス」。絵本作家との事。
知人が出版社に持ち込んだ「まほうのびん」で受賞し、
作家デビューしたというのが、語られた経歴。
なお、「葉桜院」には、新作を描くために来たのだと言う。
エリス「最近は、弟子にしてほしいという殿方もいましてね」
「天流斎マシスを名乗っております」
それで結局。今夜の料理は、エリスと春美が作る事に。
成歩堂と真宵は、「奥の院」側へ向かう。
その際エリスから渡された地図には、いつかどこかで見た吊り橋が。
20分ほど歩いた後、問題の吊り橋に到着。(因みに名前は「おぼろ橋」)
橋のたもとには、公衆電話も見える。
切り立った崖に渡された、古い吊り橋を眺めて、
成歩堂「ちょっと、ニガテなんだよ。……高いところ」
真宵「じゃあ。じゃあ。いっそ、落っこちてみたらどうかな?」
などと軽口を叩き合いつつ、移動開始。
コマンド選択して、Aボタンを押して。
形の上ではアッサリと、「奥の院」側の修験堂前に到着。
だが実際は成歩堂、まさに死に物狂いで橋を渡ったらしい。
真宵「どうしたの? カオがミドリ色だよ」
成歩堂「……ぼ、ぼくのコトはほっといてもらえるかな。
あの橋をブジ、わたり終えたカンゲキにひたってるんだ」
減らず口に減らず口を返す余裕が残っているのが救い。
目を転じると、修行をするための修験堂が視界に入る。
ワイヤーで支えられている橋や、雪をかぶった焼却炉や、「立入禁止」の立て札を気にしつつ、
さっそく中へ。
それで入ってみた修験堂内は、6畳ほどの一間。
ただしコレはあくまでも、立会人の僧が休むための場所。
実際の修行場は、鉄格子の扉の向こうにある、更に奥の洞窟――修験洞である。
そんな二人に、あの尼僧の、あやめが声をかけてくる。
頭巾で髪こそ隠れているが、その顔は確かに、ちなみと全く同じ。
それに流れるBGMも、あの時のちなみと同じ曲。
あやめ「……あ……っ」
成歩堂「き……きみは……」
互いの顔を見て、共にうろたえている、成歩堂と、あやめ。
特に、あやめの動揺は強く、彼女は急いで立ち去ってしまう。
残された二人が確認した物は、壁にあった掛け軸。
真宵「このひと……あ、あたしの……おかあさん……」
独特の紋と共に描かれている、倉院流霊媒道の現家元・綾里舞子の、和服姿の肖像。
真「おかあさんがいなくなったの、もう15年以上も前なの。
この《紋》がなかったら……気がつかなかったと思うんだ。
おかあさんなのに……あたし、カオも分からないんだな、って」
切なく感じる、この場面。
後に思えば、痛烈すぎる伏線の一つだった。
さて。吊り橋を渡って修験堂に来た以上。吊り橋を渡って戻らなければならないのは明白。
そのため、死に物狂いで、もう一度渡った成歩堂。
真宵「なるほどくん、カオが深ミドリ色になってるよ」
成歩堂「…………………………」
真宵がからかっても、今度は反応が無い。
あやめの件で動揺しているのが分かる。
そんな彼らに、かけられた声。
「そこのアンタ! ……ちょっと!」
言われて振り向いて、見てみると。
スモック姿の矢張、来襲。
左手に絵筆を構えて。しっかりベレー帽までかぶって。
因みに、着ているスモックには、あの「サルマゲどん」の画が。
(「サルマゲどん」は、『逆転のトノサマン』で登場したマスコットキャラ)
逃げようとするのを成歩堂に止められて、それでソヤツが名乗った名前。
「は、はじめまして。……天流斎マシスです」
へぇー。
「ちなみ」と「あやめ」といい、この世界にはソックリさんが多いんだなー…………なんて、
騙されてたまるか。
話を聞くと、どうもエリスの「まほうのびん」を読んで、彼女に惚れこんだらしい。
下ゴコロは無しの方向で。
なお、そんな矢張の、画家としての力はなかなかのもので。
矢張「絵は、技術じゃねえよ。ダイジなのは、キレイなココロさ」
などというのは、むしろ謙遜。
……とは言うものの、女に惚れてない矢張なんて、ヤッパリ矢張じゃない。
話をよく聞くと案の定、あやめに惚れている様子。
下ゴコロは有りの方向で。
そんな矢張に呆れ返った時、春美が皆を呼びに来た。
春美「お夕食のジュンビがととのいました!」
というわけで。一行は「葉桜院」側の本堂へ移動。
春美は、「奥の院」側に居るあやめを呼びに行く。
時は夕刻。「葉桜院」側の本堂でのカレーパーティを済ませて。
毘忌尼「じゃ、あやめ。10時になったら《消灯の鐘》をたのむよ」
「《消灯の鐘》を鳴らしたら、あなたも修験堂に来てちょうだい」
この台詞は非常に重要。
と言いますか、今回の事件は重要なポイントがとてつもなく多い。
油断すると、事件構造さえ把握できなくなるので要注意である。
その一方。
エリス「よかったら……わたくしのお部屋に来ないかしら?
いっしょに、ご本を読んであげましょう」
と、春美を誘うエリスに、懐く春美。
春美「あ。あの、わたくし。読めない漢字があるのですけれど」
「たとえば、これは、なんと読むのですか?」
エリス「《華麗》……ムズカシイ字。これは、《かれい》ね」
春「じゃあ、こちらはなんと読むのですか?」
エ「《引導》……これもムズカシイわ。《いんどう》ね」
何とも微笑ましい場面だと思った。1周目当時。
全クリアした今。何と恐ろしい場面かと思う。
果たして、何を思っただろう。
春美に、この文章を見せられた時のエリスは。
この夜、春美がしようとしていた事。
幼い子供だから、やってしまった行為……と言えば、それまでだが。
それでも春美は、あまりにも、「知らない」事が多すぎた。
自分の立場。真宵の立場。綾里家の事情。いつかは知らなければならない、真実。
知るべき事を、「知らない」ままでいる事は、やはり罪なのだ。
今でも思う。
この事件の収め方は、正しかったのだろうかと。
他に、何か道は無かったのだろうかと。
話を戻そう。
時は夜。
自室に帰ると言う矢張に倣って、一旦部屋に戻った成歩堂だったが、
寒さにやられてトイレに起きる。
因みに、時刻は午後9:12。
「葉桜院」側の本堂にて、まずエリスに声をかけられる。
エリス「あの。春美ちゃん……見かけませんでしたか?」
「まだ、来ていないんです」
もしや迷子になっている?
そのエリスと入れ替わりの形で、あやめが登場。
あやめ「あの。成歩堂さんも……おトイレですか?」
頭巾を外し、髪をあらわにした彼女と会話。
成歩堂「いつから、この《葉桜院》に?」
あやめ「……………………おさないころから、ずっとお世話になっています」
「私、もう身寄りがないものですから……。毘忌尼さまが……私のおかあさまです」
成「あ、あの。大学……へは行ってませんでしたっけ。勇盟大学の……文学部、とか」
あ「……いいえ。私には、必要ありませんもの。学問は、こちらで修行しています」
「でも、街へ出ることも、たまには、あるんですよ。”ぱそこん”も”けいたいでんわ”も使えますし」
この時、あやめにサイコ・ロックは視えない。
つまり、嘘はついていない――少なくとも、嘘をついているという意識は感じられない。
ただ、この「葉桜院」の事を尋ねると、やや謎めいた発言を。
あやめ「死者と語らうなんて……だれのためにもなりません。私は、きらいです」
仮にも霊場の尼僧が言う言葉ではないと思うが……。
そんな会話をしている内に、時刻が迫る。
あやめ「もう……こんな時間。《消灯の鐘》を鳴らさないと……」
成歩堂(もうすぐ10時、か……)
そして去り際に、
あやめ「………………………あの……成歩堂さん」
「もし、よろしかったら……受け取っていただけますか?」
「悪霊から身を守るためのずきんです」
「この、不吉な宵闇……ブジにやりすごせますように」
何かを知っているような言葉と共に、水晶の付いている自分の頭巾を成歩堂に渡す、あやめ。
だが成歩堂、肝心な所では鋭かった。
成歩堂「ちょっと待って。……あやめさん」
「今……ぼくの名前を呼びましたね。《成歩堂》……って。
どうして知っているんですか? 自己紹介、していないのに」
「ぼくたち……以前に、会ったことはありませんか?」
こう尋ねた途端――あやめにサイコ・ロックが発動。それも、最大値である5つが。
話を切り上げたあやめが立ち去った後、やがて「消灯の鐘」が鳴り響く。
午後10時を知らせる鐘が。
何はともあれ、勝負は明日。
そう思って、成歩堂も眠りについた。
そんな、夜半。
毘忌尼「ぎゃああああああああああああああああああああああああああッ!」
毘忌尼の悲鳴に叩き起こされた成歩堂。
「葉桜院」側の境内に駆けつけると、ソコにあった光景は。
『盗まれた逆転』の時に見た、綾里供子の黄金像の持つ七支刀に刺し貫かれている――人間。
天流斎エリスの死体である。
(なお、この時、時刻は午後11:06)
一刻も早く、警察に通報しなければ。そうは思っても、「葉桜院」側の本堂に電話はナシ。
毘忌尼「こんな山奥でもね。電波は通じるんだよ!
アンタも、携帯電話ぐらいポッケに入ってるでしょ!」
成歩堂「それが……その。持ってきてないんですけど――」
……リアルだな。
そりゃ普通、寝ている時にまで携帯電話を持ってたりしないよな。
ミステリの主人公だったら、何故か大抵、持ち歩いてたりするけれど。
てなわけで成歩堂は、おぼろ橋の公衆電話まで走る事に。
息を切らして、吊り橋に到着。(因みに時刻は、午後11:19)
公衆電話は確かに有った。
が、しかし。
それ以前に、有ってはならない光景が、その場所に有った。
焼け落ちて、くすぶっている吊り橋(の残骸)。
ソコに矢張が居りまして。呑気に立っておりまして。
成歩堂「矢張! すぐに警察を呼んでくれ! ぼくは、奥の院へ行く!」
矢張「ばば、バカ言え! こんな燃えカス、わたれるかよ!」
成「いいか! 葉桜院で、殺人事件が起こったんだ!」
「この橋の向こうに……犯人が逃げこんだかもしれない!
真宵ちゃんを、ほっておけないだろ!」
「たのむ! 早く、警察に電話を! ぼくは行く。……どいてくれッ!」
矢「あ、あぶねえって! 成歩堂、待てよッ!」
有無を言わせず、走り出す。
その時はもう、何も見えなくて。
ただ、気持ちだけ先走って、空回り。
で、その結果。
……バキッ!……
成歩堂「うわああああああああああああッ!」
矢張「なるほどおおおおおおおおおおお!」
二次災害、発生。
橋から落ちて、激流に落ちて、流されて。
何と恐るべき事に、主人公が退場してしまった、今回の物語。
が、ここで驚くのはまだ早い。
物語はこの先、あらゆる意味で――信じられない方向へと突き進むのだ。