審理再開。
再び、雅香から話を聞く。
「ボルハチ」のウェイトレス改め、
プロのディーラー・「イカサマサカイ」の異名を持つ彼女から。
あの、勝負の夜。
浦伏と雅香は、はじめからグルだった。
彼らは共謀して、成歩堂の服にカードを1枚仕込んでいた。(因みにハート5)
が、そのカードもまた、どこかへ消失してしまっている、と…………。
それにしても。この事件。
嘆かわしいのは被害者だ。
「そのスジじゃ有名なポーカープレイヤー」(by雅香)だと言っても。
イカサマを、それも他人と共謀して仕掛ける時点で、勝負師としての資格なしだ。
まあ、その辺りに関しては、今は横に置くとして。
今重要なのは、真犯人の追及である。
そう考えながら(私が)、一つずつ証言を揺さぶっていった、その時。
異空間に突入しました。
突如流れる、怪しげなBGM。
片や上画面には、水面に墨を流したような背景。
片や下画面には、超接写&超拡大された人物(=雅香)の姿。
王泥喜(なんだ、これ……。感覚が……研ぎすまされていく!
雅香さんの”動き”が……ハッキリ見える!)
と、何とも物々しい雰囲気であるが。
簡単に言えば、コレは「直観」 (より正確には、本質直観)である。
余計な偏見・先入観を全て捨て、直覚的に物事の本質をとらえる事だ。
実際、強い集中力によって、対象を細かく正確に見る事が出来る人と言うのは実在する。
もっと言えば、理論上は誰にでも出来る事だ。
ご興味ある方は、こちらの文章を参照されたい。
ともあれ。
雅香の不自然な仕草をきっかけに。事件の顛末が明らかになっていく。
それにしても。この事件。
やっぱり嘆かわしいのは被害者だ。
だってさ。
殴るなよ。女を。
まして、己のミスを隠す事も出来ずに、動揺した挙げ句とは。
勝負師どころか、マジシャンとしても資格なしだ。(←ネタバレ注意)
さて。これから一体どうしたものかと思い始めた、そんな時。
ふと法廷に響いた、笑い声。
成歩堂「クックックッ……」
きみはどこかの名門検事ですか。
なんてアホなツッコミを入れてる内に(私が)。
いつの間にか、この事件の最重要参考人を挙げる事に。
論理的に考えれば、該当者は一人しかいない。
しかし、まさか幾ら何でも。仮にもメインキャラなのに。
第1話の展開じゃないだろコレとも思いつつ。とにかく選んだ。
自分の師匠を。犯人として。
霧人「オドロキくん。この私をウラ切るつもりですか?」
王泥喜「そういうモンダイじゃありません。”真実”を知るためです!」
……キレイな台詞言ってるね。王泥喜。
とにかく。まず探すべき物は、消えたカードの1枚・ハート5。
「検分モード」も使いながら、その行方を追っていく。
それから論点となったのが、被害者の頭の具合。
いや、頭というか、髪型というか、何というか。
あの、勝負の夜。
その頭に関して、成歩堂と霧人が、電話で交わした会話がコレ。
成歩堂「死んじまったよ。思いきり、殴られたみたいだ」
霧人「まさか……キミではないのでしょうね
キズひとつないボーンチャイナにヒビを入れたのは……」
以上。
霧人自爆の決定的瞬間の紹介でした。
というわけで。この事件。
自分の被告人の告発によって、自分の師匠を被告人として告発する事態になりまして…………。
……………………あの、すみません。
何だかワケ分からなくなってきました。
事態を収拾するため、審理はまたも中断される。
休憩室にて。
霧人も成歩堂も裁判長に呼ばれたため、王泥喜は一人ぼっちの状態。
そんなところに。
「……よろしいでしょうか」
「さあ、お客さま。1枚。カードを選んでくださいな」
突然現れた、シルクハット&マント姿の少女。
渡されたのは、「ボルハチ」の銘の入ったカード。
それも問題となっていた、スペードA。
しかもカードには、血痕のような赤い跡が。
そんな謎めいた代物を寄越した少女の、最後の台詞。
「それでは……父をよろしくおねがいいたします」
という事は。今の彼女が、成歩堂の”娘”? 即ち、ロケット写真のあの少女?
でも、それでもやはり計算は合わない。あらゆる意味で。
審理再開。
自分が証言台に立つのは茶番だと言いきる霧人。
そこにすかさず飛び込むこの声。
「異議あり!」
声が発された場所は、王泥喜の横。
事実上、師匠ポジションに立っている、成歩堂。
第1作の成歩堂のテーマソングまで流れて。
戸惑っている霧人に、
成歩堂「”立場逆転”といったところだ」
と言葉を投げてから、成歩堂は王泥喜に顔を向ける。
成「わかるだろう? オドロキくん」
この台詞に至って。やっと穏やかな笑みを、こちらに向けてくれた。
20代――青セビロ現役バージョンの頃を思い出させる顔が、そこにある。
第4作制作決定と聞いた時、何となく思い描いていた予想が、ある意味、叶った。
自分の横で微笑みかけてくれるという予想、というよりも、願いが。
もっとも。欲を言えば……その。
フツーの師匠役で充分だったんですけどね。少なくとも私は。
今この事件での成歩堂は、どこまで行っても被告人。
まさか、被告人にレクチャーを受けるとは。どうにも奇妙極まりない。
……と思ったら、『失われた逆転』の序盤もそういう状況だったっけ。確か。
いよいよ審理は終盤戦。
成歩堂「キミは変わらないな。”最もクールな弁護をする男”か。
証言台に立っても、それは変わらないみたいだ」
霧人「あなたこそ、変わったのだと思っていましたが。
そうでもなかったようです。その暑苦しい性格……」
果たしてどちらが殺したか。自分こそが正義。相手こそが真犯人。
そんな危険極まりない話題を、穏やかに語り合う成歩堂と霧人。
かくて法廷に吹き荒れるブリザードの中。肝心の王泥喜はと言えば。
王泥喜(やれやれ。すっかり仲間ハズレだな……)
と、まるっきり蚊帳の外。(後ついでに亜内も)
ただし。この時の霧人の論、微妙にオカシイ部分も。
霧人「『ココにいてはマズい』……とっさに思い、その場を離れました。
「私は、成歩堂に弁護を頼まれた”弁護士”だったのです。
事件の関係者になるワケには行かなかったのですよ」
「そこに、成歩堂からの電話が入ったのです」
『電話がかかって来たから、事件現場を離れた』
『事件現場を離れたら、電話がかかって来た』
このよーに、二つの論がぐるぐるつながっている物を循環論法と言います。
テストに出るので覚えるよーに。
ところが。件の謎の少女から渡された、件の謎のカードを示した途端。
霧人の冷静な態度は一変。
霧人「な………なんだとッ!」
「ば……バカな! なぜ……なぜ、キミが……そんなものを持っているのだッ!」
明らかに動揺し始めた霧人に、容赦なく論をぶつける――成歩堂。
演出の都合上、、突きつけるのが右手指になっちゃったのは残念ですが。
いい物見れました。
その成歩堂の説明により、3D(立体視)で再現されていく事件現場。
ペンタッチでの手動で、室内の家具を動かしていく。
成歩堂の語りは続く。
「初期三部作」の頃には、猛禽類に思えていた彼。
今は、蛇がいる。食らいついたら離れない毒蛇がいる。
そうやって法廷を完全に支配する成歩堂の話しぶりに、裁判長はしみじみと語る。
裁判長「ふう……やれやれ。……どうやら。
やはり、あなたの立つべき場所は、法廷……のようですね」
成歩堂「それは、どうも……」
って。確かにコレ、名場面ではあるけれど。
こんなに出張っていいのかね。成歩堂。
仮にも旧主人公なのに。 仮にも新シリーズなのに。
そこに、最後の足掻きとして、ボトルの指紋について反論する霧人。
ただ、この流れ、やはり私は最後まで納得できず。
床のボトルを取る時だって、順手で持つと思うんですよ。注ぐためだったら。
結局、この問題の答えは、ボトルを持つTPO次第でコロコロ変わるんです。実際。
そんなこんなの末。
今度こそ、完全に追いつめられた霧人。
ゴゴゴゴゴ……という音と共に、何故か舞い上がる皿やら何やら。
サイコキノだったんかい、あんた。 (※サイコキノ……念動能力者の意)
霧人「……これが……キミの復讐、というワケですか。成歩堂龍一」
「7年前……キミが弁護士バッジを失うことになった、あの事件の……」
そう。
この瞬間、”事件”の一つは終わりを告げた。
成歩堂VS霧人、サシ(1対1)の対決が、今――。
亜内「こんな……こんな、バカなッ! この亜内が……またしてもッ!」
あ、そうか。まだ居たんだっけ、この人。
そして最後に。成歩堂はまたも語る。
成歩堂「今……法曹界には暗黒の時代が訪れている。
”序審法廷”……現在の制度が生み出した”ゆがみ”のようなもの。
ぼくたちは、それをただしていかなければならない」
って。
こんな事を論じる時点で、既に一般人じゃないと思う。この人。
と言いますか、明らかに公人の発言ではないかと。
かくして。この度の事件解決、一件落着。
と言っても、まだ残る謎は数多い。
霧人の動機も、浦伏の素性も不明のまま。
コレらが解き明かされるのは、まだまだ先の話である。
閉廷後。
王泥喜と成歩堂の会話。
事件の謎も気になるが、差し当たっての大問題が一つ。
王泥喜「……これから、どうなるんでしょう。牙琉法律事務所は」
新人の身空で、いきなり路頭に迷ってしまった王泥喜に、成歩堂が差し出す手。
成歩堂「よかったら……ぼくの事務所に来ないか?」
ただし。その「事務所」は、あの「成歩堂法律事務所」ではない。
何故なら……。
成歩堂「バッジなら返却したよ。今のぼくは、もう弁護士じゃない」
王泥喜(7年前の、ある”事件”。
今では伝説となった、あの裁判の中心人物……。
それが、このヒト。成歩堂龍一弁護士だった。
事件の、悲しい決着とともに……彼は法曹界を去った)
王泥喜「あの。もう一度、法廷に立とうという気は……?」
成歩堂「ぼくには……法廷に立つ資格もない」
あっさりと、そう言って。
成歩堂は告白する。
今回の裁判で、自分が不正な証拠を持ちこんだ事を。
どこまでも重苦しいと思う。この場面。
作中の誰よりもフェアプレイを重んじていた成歩堂が、
我らがPC(プレイヤーキャラクター)だった人物が、行うべき言動とは思えない。
しかし。冷静に思い出してみれば。
今回の事に近い例は、今までにも実はあって。
『逆転のレシピ』の「ニセモノの証拠」が典型例。
偽造品ではないけれど。
と言いますか。
そもそも、合法だの違法だのなんて事を細かく追及していったら。
第1作の頃なんて、もっとメチャクチャな例が日常茶飯事。
それに、あの「証拠法」(『蘇る逆転』参照)との兼ね合いだって……。
ああ。そうかなるほど。
この世界の法律、きっと何度も改正案が出されてるんだよ。
国会の強行採決で。
などと私がつらつら考えてる内に。
エライ事が起こりました。
素っ気ない態度の成歩堂に対して、熱血と評判の王泥喜ってば。
王泥喜「……! く……。くそおおおおおッ……!」
ぶん殴ったよ主人公が被告人を。 (注・この作品の主人公は弁護士です)
教育上、非常によろしくない展開だと思います。コレって。
まあ確かに、例えば24歳当時の成歩堂が、今(33歳)の成歩堂を見たら、
つかみ掛かるくらいはするだろう。
興奮する気持ちは分かる。
でも。実際に手を上げてしまったというのが、個人的には、どうにも。
軽い気持ちで考えれば、何て事ない場面かもしれない。
けれど。
真面目な気持ちで考えれば、あまりにも辛い場面だ。
たとえどんな状況でも、被告人の心を信じぬく事。
ソレが、この世界の弁護士の務めだと思っているから。私は。
だから。許されるなら、私はこう言いたかった。
「成歩堂さん。いつか聞かせてもらいます。
あなたが変わってしまった、本当の理由を。
あなた自身の口から……必ず」
――と。