滝汗流して焦ったり、大口開けてのけぞったり。
「法廷パート」において、数々のオーバーアクションを見せてくれる成歩堂。
顔の見えない「探偵パート」でも、考えている事は全て顔に出ているらしい。
が、そんな彼が、ほとんどやっていない言動が、唯一つある。
ソレは、心の底から声に出して「笑う」という行為だ。
「法廷パート」での、あの「へらへら笑い」にゴマカされがちだが、
成歩堂は本当に、笑わない男なのである。
全作品を振り返ってみても、彼が大笑いしている場面を思いつく人は、ほとんど居ないはずだ。
英語で言えば、「smile」の方は日頃から見かけるものの、「laugh」の方はほぼ皆無。
恐るべき事に、立ち絵の多い『レイトン教授VS逆転裁判』ですら、笑ってる顔は出てこない。
無論シナリオにおいて、「ははは」という文字は多少見られるが、
ソレはただ機械的に声を出しているだけだったり、
あるいは自分の身の上を自嘲するなどに止まっている。
そんな彼が大いに笑っているのが、例えば『思い出の逆転』。
休憩室で、証人席で。彼は千尋たちに対して、ちなみとの関係をノロケながら、
「えへへ」と声に出して、満面の笑顔で笑いまくっている。
あるいは、『逆転裁判5』で王泥喜や心音などと向き合っている時か。
と、ここで押さえるべきは、この時の成歩堂は、あくまでも「証人(or被告人)」の役である事。
そう。
実は、伏せていたカードが1枚ある。
成歩堂は笑わない、という文には言葉が足らない。
「弁護人としての」成歩堂は笑わないのだ。
もっと言えば、「弁護人」という種類の登場人物は、決して笑わないのだ。
他の例を挙げるなら、『思い出の逆転』や『始まりの逆転』での千尋も笑わない。
普段の事件での「探偵パート」では、「ふふふ」と笑っている場面も少なくないのに。
(余談ながら、全登場人物で、最も笑い上戸なのは真宵だろう。
『逆転サーカス』で、ピエロのトミーに笑わされている場面を見よ)
当然というべきか、第4作から登場の王泥喜にも、笑う場面は見られない。
第5作から登場の心音も、助手ポジションでこそ笑っても、自分が主の時は笑わない。
圧巻なのは、『華麗なる逆転』での御剣。
あの御剣が、検事席で二言目には「クックックッ……」と笑いまくる御剣が、
法廷で弁護人として振る舞う時は、笑わない。
(ただし彼は、審理の最初と最後では、「フッ……」と笑みを漏らす。
つまりその時だけは、彼は弁護人の立場ではないのだとも解釈できる)
ともあれ、この『逆転裁判』世界では、弁護人は笑わない。
その理由は果たして何故か……と考える、その前に。
そもそも、人が心の底から声に出して笑うのはどんな時なのか、思い出してみてほしい。
強いて言えば、何ともつかみがたい、むき出しの「生の感情」があふれた時にこそ、
人は思わず吹き出して、そして笑う。
その時なぜ笑ったのかという事は、実は誰にも――笑った当人にも、決して分からない。
『逆転裁判』シリーズにおいて、弁護人たちはPC(プレイヤーキャラクター)、
即ち「プレイヤーの忠実な身代わり」という立場である。
そのような立場である彼らには、前述したような「生の感情」を表す必要はない。
ソレが、PCの宿命なのだ。
(この点は、例えば「ド○クエ」の勇者などを思い浮かべて頂ければ、一番分かりやすいかもしれない)
この世界の弁護人たちは常に、不用意に笑わない、冷静な「理性」に基づいて動いている。
そして、その時の彼らの「感情」を推し量るのは、私たちプレイヤー側の役目なのである。
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